第30話 それでも進む
それから三日間、隼人達はひたすら遊んだ。
放課後に集まっては思いつく限りの娯楽を堪能し、休日は朝から夜まで好き勝手に過ごす。
彼らは一連の思い出をスマートフォンで記録した。
きっと日付が変われば無かったことになる。
それを承知の上で何度も写真や動画を撮った。
三日目の夜。
公園に集まった隼人達は、ベンチに座ってアイスを食べている。
先に完食した彩は俊司に尋ねた。
「本当に残るの?」
「ああ、もう決めた。意志は揺らがない」
「やっぱり付いてくるって言っても怒らないよ?」
「それは僕自身が許せない。君達だけで進んでくれ」
俊司は立ち上がって歩き出し、少し先で振り返った。
彼は泣きそうな表情を見せた後、無理やり笑ってみせた。
「ありがとう。楽しかった」
「こ、こちらこそ」
「いつかまた会おうね」
「ああ、約束だ。君達が無事にループを抜け出せることを祈っている」
そう言って俊司は歩き去る。
姿が見えなくなるまで、彼が振り返ることはなかった。
残された隼人と彩は、無言でベンチに座っている。
隼人は食べかけのアイスクリームを持ったまま、外灯に群がる虫を眺めていた。
その目は仄暗い色を見え隠れさせている。
彩は隼人の顔を覗き込んだ。
「どうしたの。そんなに寂しかった?」
「それもあるけど、思い知らされたんだ……自分の不甲斐なさを」
隼人は地面を見つめて呟く。
放置されたアイスから水滴がぽたぽたと垂れていた。
十秒ほどの沈黙を経て、隼人は本心を明かす。
「滝川君は未来に向けた夢を見つけた。そこまで決めた上でループに留まることを選んだ」
「自分と比べて落ち込んじゃった?」
「うん……進路も将来も曖昧なまま、進んでもいいのかなって……」
隼人は不安と悩みを吐露する。
彩はあえて明るい笑顔で励ました。
「この一年で見つければいいんじゃない? まだ四月じゃん」
「そう、かな」
「立派な俊司君を見て憧れつつ、自分も頑張ろうって思えればオッケーだよ」
「……ありがとう。少し楽になったよ」
「えへへ、どういたしまして」
照れ臭そうに応じた彩は、誤魔化すように話題を変える。
「次は文化祭かー。太一君みたいな奴もいるし、平穏に終わるといいね」
「その発言、フラグにならない……?」
「あはは、大丈夫でしょー」
彩が暢気に言うと、それに釣られて隼人も笑った。