第3話 異変
隼人はのんびりと通学路を歩く。
すれ違うサラリーマンや学生の視線を気にしつつ、道の端を目立たないように進む。
見慣れた景色を辿る中、隼人は感慨深い気持ちになった。
(懐かしいなぁ……でもこっちの道で合ってたっけ)
不安に思う隼人だったが、同じ制服を着た生徒に自転車で追い抜かされたことで胸を撫で下ろす。
そうして歩き続けること十五分。
体力不足の隼人の息が切れ始めた頃、前方に校門が見えてきた。
一列に並んだ風紀委員が挨拶運動を行っている。
ひときわ大きい声を発するのは、生活指導の尾崎だった。
険しい顔つきで登校してきた生徒の服装をチェックしている。
(しまった……目を付けられる前に行こう)
隼人は尾崎に会釈して通り過ぎようとする。
「お、おはようございます……」
「中島ぁ!」
「はいっ!?」
いきなり名前を呼ばれた隼人は、背筋を伸ばして固まる。
彼は怒鳴られることを覚悟した。
しかし尾崎は優しく微笑むと、隼人の肩に手を置いた。
「よく来たな。偉いぞ」
「あ、ありがとうございます」
「今年は先生が担任なんだ。三年一組の教室で待っていてくれ」
「わかりました。一年間、よろしくお願いします……」
「ああ、こちらこそよろしくな!」
尾崎に背中を叩かれた隼人は、よろめきつつも歩き出す。
後ろを見ると、尾崎が笑顔で手を振っていた。
隼人はまた会釈をして昇降口へ向かう。
(不登校で怒られると思ったのに)
隼人にとって、尾崎という教師は恐怖の対象だった。
常に苛立ったような顔で腕組みをして、周りを委縮させるほどの雰囲気を醸し出している。
体育の授業でも厳しい態度で、誰もふざけたりできない。
校則を破った者が尾崎に怒鳴られる姿は、校内でも恒例の光景だった。
だからこそ隼人は、不登校の自分が叱られる展開を予想していた。
ところが蓋を開けてみれば褒められてしまった。
(言動が怖いだけで、実際は優しい先生なのかも……)
ほっとした隼人は靴を履き替えて校内を進む。
三年一組の教室があるフロアまで上がった時、彼はすぐに違和感を覚えた。
「静かだ……」
廊下には誰もおらず、どこの教室からも声が聞こえなかった。
不思議に思った隼人は入り口を開いて、ぎょっとする。
「えっ……」
がらんとした部屋に机と椅子が一つだけ置かれていた。