第27話 思わぬ提案
翌朝、隼人と彩は教室で固まっていた。
そこでは俊司が昨日と同じように勉強をしていた。
彩は少し困った様子で声をかける。
「なんでいるの?」
「勝ち逃げされるのが気に食わなかったからだ」
席を立った俊司は二人の前に来る。
そして真剣な眼差しで言った。
「今日から中間考査まで君達の勉強を手伝わせてほしい」
「はあ? 何それ。変なことすんのやめてよ」
「別にそっちに損はないだろう。言っておくが、僕の学力は難関大学でも余裕で合格できるレベルだ。この学校で最も頭が良いのは僕だ。教師も含めてな」
「いきなり自慢? 何が目的なの」
彩が俊司に詰め寄る。
俊司は臆せず堂々と応じた。
「立花彩。君に言い負かされてから、僕は色々と考えた。この十年間で勉強以外のことを真剣に考えたのは初めてだった。そして一つの結論に辿り着いた」
そこで俊司は言葉を切る。
彼は力強く拳を握って宣言した。
「十年分の努力で勝負したい。君達とテストの点数で競いたいんだ」
「あたし達が負けるに決まってるじゃん」
「だからそうならないように僕が勉強を教える。教科を絞れば、二週間でも十分に対策できるはずだ」
俊司はやる気に満ちた様子で力説する。
その凄まじい熱意を前に、彩と隼人は自然と後ずさっていた。
教室の扉まで下がった彩は、一転して気弱な態度になる。
「あたしさ、勉強が嫌いなんだけど。テストなんてほどほどでいいと思ってるし」
「僕も……」
隼人も控えめに主張する。
すると俊司はこれ見よがしに嘆息した。
彼は呆れ果てた様子で指摘する。
「君達……ループにおける成績の重要性を分かっていないようだな」
「え? 関係ないでしょ」
「大いにある。もし目標にテストの点数が関わってきたらどうする。通知表の評価だって絡むかもしれない。卒業が目標になった時、留年が確定していたら詰むんだぞ」
「それは……」
「僕らは"今日"をループできるだけで、過去に戻ってやり直せるわけではない。そこを忘れないことだ」
早口で語り終えた俊司は「そろそろホームルームだ。予習しながら待とう」と席に戻る。
彩と隼人は顔を見合わせた。
「どうする?」
「テスト勉強は大変だけど……確かに"詰み"は怖いような……」
「それな。やっぱり頑張るしかないかー」
二人は渋々と席に着くのであった。




