第26話 将来の不安
教室を出た隼人と彩は保健室に寄り、体調不良で早退することを伝えた。
学校の敷地外まで引っ張り出された隼人は戸惑う。
「えっ、ちょっと、学校サボって大丈夫……?」
「一日くらい平気だって。隼人君だってあの気まずい空気で午後の授業を受けるのは嫌じゃない?」
「それはどうだけど……」
彩が向かった先は駅だった。
二人は電車に乗り、座席に並んで座る。
発車して早々、彩はため息を吐いた。
「頭カチカチの真面目君だったねー。十年も勉強なんてヤバいでしょ」
「うん……とても真似できない」
「今もループに留まってる人って変人ばっかなのかなー」
「それ、僕達も当てはまらない?」
「まあ仕方ないよねー。否定できないしー」
「そ、そうか……」
隼人は教室で見た俊司を思い出す。
並外れた執念は会話するだけで伝わっていた。
恐怖に近い感情を覚えて、隼人は僅かに身震いする。
彼は気持ちを切り替えるために話題を転換した。
「電車に乗って目標は達成できたけど、これからどこに行くんだ?」
「せっかくだしラーメンでも食べに行こうよー。人気のお店、知ってるんだよね。ずっと行きたかったけど、外食禁止だから我慢してたんだ―」
得意げな彩はいくつか先の駅で降りる。
二人がラーメン屋に着いた時、店の前にはそれなりの行列が出来ていた。
その光景に隼人は驚き感心する。
「確かに人気だ……」
「良い匂いするね。メニュー見ながら並ぼうー」
行列に加わって雑談すること暫し。
やがて二人の順番がやってきた。
カウンター席に並んだ二人は注文をする。
数分後、料理が届いた。
彩が注文したのは、大盛りの醤油ラーメンと炒飯、それに餃子だった。
対して隼人は並盛のラーメンだけだった。
料理の写真を撮り終えた彩は、不思議そうに隼人に尋ねる。
「あれ、お腹空いてないの? ダイエット中?」
「たぶん普通サイズで十分だから……」
「ふーん。隼人君は少食だねー。じゃあ、いただきまーす」
ラーメンを堪能した後、二人は近くの公園に移動した。
大きな池の周りを歩いて腹ごなしをしつつ、彩は幸せそうな表情で笑う。
「ふう、美味しかったー。高評価なのも納得のお店だったなー」
「そうだね。誘ってくれてありがとう」
「こちらこそ付き合ってくれてありがとねー。どうせなら誰かと食べる方が楽しいからさー」
それから二人は本屋で漫画を買い、喫茶店で読みながら時間を潰す。
夕方頃には電車に乗り、最寄りの駅まで戻って解散した。
帰宅後、隼人は両親から心配されたものの、叱られることはなかった。
受験生として褒められた一日ではない一方で、自宅に引きこもるより健全だと判断されたのだった。
(いつか二人を安心させたい。僕も受験を……いや、就職でもいいのか。でも働けるのかな……?)
ベッドに寝転がる隼人は自問自答を繰り返す。
結局、答えが出ることはなく、彼はいつの間にか眠りに落ちた。