第22話 進む勇気
隼人と彩は商店街を並んで歩く。
喫茶店を羨ましそうに見つつ、彩は思い出したように確認する。
「それで、隼人君は賭けに乗るの?」
「仕方ないから乗るよ……吉良が今日まで来るかもしれない状況で、君一人を置き去りにできないから」
隼人は渋々と頷く。
すると彩は驚いた様子で反応した。
「えっ、優しい。でもあいつ、十年ずっと動いてないし、たぶん大丈夫だよ?」
「いや、十年ぶりに同じループの人間に殺されたんだ。プライドが傷付いて、こだわりを捨てて追いかけてくる可能性がある……」
「隼人君は心配性だねー」
「基本的にネガティブなんだよ」
会話中、彩が足を止めた。
彼女は前方のサラリーマンを指差して言う。
「あの人、転ぶよ」
「えっ?」
隼人が注目した瞬間、サラリーマンが躓いて転倒した。
彩はすかさず道路を指差す。
「車のクラクション。それにお爺ちゃんが大激怒」
信号無視をした軽自動車が、老人を轢きかけて急ブレーキをかけた。
直後にクラクションを鳴らすも、老人は負ける劣らずの声量で怒鳴り返す。
彩はこれ見よがしに胸を張る。
「ふふん、すごいでしょ」
「預言者みたいだ」
「十年も同じ日を経験してるからねー。近所ならだいたい何が起こるか分かるよ。すごい退屈ー」
「じゃあ明日に進む?」
「隼人君が楽しくエスコートしてくれたらね」
次に二人が入ったのは帽子屋だった。
彩は手頃な場所にあった麦わら帽子を被ってポーズを取る。
「じゃーん。どう、似合う?」
「うん、良いと思う」
「もっと褒めてよ。世界で一番かわいいとかさー」
頬を膨らませた彩は他の帽子を試着する。
鏡で確かめながら、彩は話を振る。
「隼人君ってさ、不登校だったんでしょ。学校に行けないから始業式の日をループしてたの?」
「……うん。二年の時、いじめられて引きこもりになった」
「出席日数的に留年しなかったの?」
「リモート授業を受けてたからギリギリ大丈夫だったらしい。元々は成績も良かったし、色々と特別対応だったんだと思う」
「なるほどねー。ちなみに、いじめてきたのは同じ学年の人?」
「うん……いつかループのどこかで会うかもしれない」
「もしあたしが一緒にいたら、相手をぶん殴ってあげるよ」
「ははは、ありがとう……」
隼人は乾いた笑いを見せる。
試着の手を止めた彩は、真剣な顔で彼に言う。
「でもそんなに辛い経験をしたなら、同じ日にずっと留まればいいのに。嫌な人間に会わずに済むよ。今日の目標をクリアしたの後悔してるんじゃない?」
「正直、不安はたくさんある。だけど"明日"に進んでみたいんだ。勇気を出したから立花さんと話せたし、今は悪くないと思ってるよ」
「は、隼人君……」
彩は感激した様子で隼人に歩み寄ると、おもむろに手を回して抱きしめた。
突然の行動に隼人は仰天する。
「うえっ!? ちょ、ちょっと!」
「今日は良い思い出をいっぱい作ろうね。約束だよ」
周囲の視線も気にせず、彩は穏やかな笑顔で告げる。
伝わってくる体温に、隼人は赤面して固まるしかなかった。