第21話 ”明日”が怖い
メダルを使い切ったところで、隼人はふと彩に尋ねる。
「立花さんは、どうして明日に進まないんだ?」
「年を取りたくないから。誰だって綺麗なままでいたいでしょ」
「た、確かに」
隼人は彩の横顔を見つめる。
造形は高校生だが、目つきや表情は大人のそれだった。
どこか冷めた様子で彩は話し続ける。
「あたしさ、同じ一日をずっと楽しむのも悪くないと思うんだよね。勉強は好きじゃないから、わざわざ学校のない日曜日でループしてるし」
「あ、飽きないのか?」
「隼人君がそれを言うんだー。始業式の日から進まなかったくせに」
彩に指摘された隼人は言葉を詰まらせる。
十年分の引きこもりに飽きた彼にとってはまさに図星だった。
追加のメダルを買ってきた彩は、別の筐体に移動しつつ愚痴る。
「でもさー、よりによって目標が外食っていうのが面倒だよねー。おかげで家でしかご飯が食べれないんだよね。ずっとテイクアウトだよー」
「面倒なら別の日に行けばいいじゃないか」
「"明日"にはループが終わるかもしれないんだよ。それを考えたら怖くて進めないもん。永遠に若いままでいられないなら、不便でも現状維持を選ぶかな……結局、あたしは太一君と同類なんだろうね」
彩は自虐的な笑みを洩らす。
そのくたびれた姿に、隼人はかける言葉がなかった。
沈黙に何を感じたのか、彩は明るい表情に戻って話題を変える。
「隼人君はもう目標はクリアしたの?」
「うん、さっき公園でおにぎりを食べた」
「そっかー」
彩はボタンを押す手を止めた。
メダル容器を置いた彼女は、隼人と肩を組んで囁く。
「ねえ、隼人君」
「何?」
「賭けをしない? 今日のデートであたしを楽しませてよ。あたしが"明日"に行きたくなったら隼人君の勝ちってことで」
「それ……俺にメリットあるのか」
「メリットありまくりでしょー。こんな美人ギャルと一緒にいられるんだよ? こんなの賭けに乗るしかないってー」
彩は楽しそうに隼人の肩を揺する。
彼女は答えを聞く前に立ち上がり、軽やかな動きで出口へ向かった。
「ゲームセンターは終わり! 次に行くよっ!」
彩は颯爽と店を出て行った。
取り残された隼人は、戸惑いながらもメダルを返却する。
「妙な展開になってきたな……」
迷った末、彼はゲームセンターを後にした。




