第20話 束の間の平穏
隼人の両親に元気よく挨拶した彩は、颯爽と家を飛び出して歩いていく。
なんとか追いついた隼人は尋ねる。
「どこに行くんだ?」
「駅前のゲームセンター。あたし、UFOキャッチャー上手くてさ。隼人君に見てほしいの」
数分後、二人は古いゲームセンターにいた。
店内は学生の客でにぎわっている。
彩は真っ先にUFOキャッチャーのコーナーに赴くと、百円玉を入れて挑戦する。
彼女の操作するアームは、大きな犬のぬいぐるみを一度で掴んで取り出し口に落とした。
ぬいぐるみを取り出した彩は、誇らしげな顔で笑う。
「どや。すごいでしょ」
「器用だね」
「まあ、十年間も遊んでるからねー。どんどん獲っちゃうよー」
彩は手前の筐体から順に挑む。
彼女はいずれも一度か二度で景品を獲得していった。
そうして両手で運び切れない数のぬいぐるみを手に入れると、店員から貰ったビニール袋にそれらを詰め込む。
隼人も何度か試してみたが、結局は一つも獲れなかった。
「次はあっちで遊ぶよー」
二人はメダルゲームのコーナーへと移動した。
子供用の筐体に並び、メダルを入れてボタンを連打する。
液晶画面に注目したまま、隼人は彩に訊く。
「なぜ僕のところに来たんだ?」
「隼人君が今日に移動してきたのを見つけたからだよー」
「どうやって?」
「ループのたびにクラス名簿とか集合写真が更新されるの。そこには同じ日にいる人しか映らないんだー。もう何年もずっとあたしだけだったのに、いきなり隼人君が登場したからびっくりしたよね」
「なるほど、そういう手段があるのか……」
隼人は予想外のアイデアに感心する。
続けて彼は質問した。
「ちなみに自宅の場所はどうやって特定したんだ?」
「尾崎先生に電話して教えてもらったよ。たった二人のクラスメートだから、仲良くしてほしいと思ったんだろうね」
「個人情報が……」
「まあまあ、許してあげて。尾崎先生って怖いけど生徒思いなんだよ」
苦笑する彩が隼人の背中を叩く。
尾崎の気遣いについては理解しているつもりなので、隼人もそれ以上の不満はない。
結果として彩と出会たため、彼はむしろ感謝すらしていた。
(殺し合いの直後にゲームセンターで遊ぶなんて……落差がすごいな)
隼人は自虐的な笑みを見せる。
彼はこの突飛な状況を満喫していた。




