第19話 翻弄される少年
彩は寝返りを打つと、気だるげな口調でぼやいた。
「太一君は"昨日"に閉じこもってるの。ループを終わらせたくなくて進めないらしいよー。人を殺すのは得意なクセに……」
それを聞いた隼人は、驚いた顔で彩に尋ねる。
「ループを終わらせる方法を知ってるのか!?」
「ううん、わかんない。でも始業式に始まった現象だから、卒業式まで進めばクリアって説が主流かなー。ループするのは学校の三年だけだし」
「なるほど……」
隼人は椅子に座り、新たな情報について考え込む。
ループの終了条件について、彼も同じような予想はしていた。
(まあ、現時点で検証できるものでもない。やはり進み続けるしかないか)
上体を起こした彩は、じっと隼人を見つめる。
彼女はあくびをしつつ質問した。
「隼人君はどうやって太一君から逃げたのー? あいつを避けて校長と話すの難しかったでしょ」
「それは……」
隼人は昨日の出来事をすべて説明した。
壮絶な殺し合いの顛末を知った彩は、驚きと感心の混ざった表情でため息を吐く。
「太一君を倒したんだ。すごいねー」
「運が良かっただけだよ。結局死んだし……」
「それでも明日に進めたんだから勝ちじゃん。よしよし」
ベッドから立ち上がった彩は、おもむろに隼人の頭を撫でる。
隼人は赤面して椅子から転がり落ちると、誤魔化すように反論した。
「で、でも! 僕が吉良を殺したから、怒って追いかけてくるかもしれない!」
「心配いらないよー。さっきも言ったけど、太一君には明日に進む勇気なんてないよ……何か心変わりしない限りね」
彩は意味深な表情で呟くと、ベッドの端に腰かけた。
尻餅をついていた隼人は椅子に座り直す。
「僕からも質問していい?」
「なんでもどうぞー」
「どうして僕の家の前にいたんだ?」
問われた彩は、にんまりと笑顔になる。
彼女は脚をぱたぱたと動かしながら答えた。
「それは隼人君と友達になりたかったからだよ。あっ、恋人でもいいよ? ご両親に嘘ついちゃったし」
「えっ……いや、別に大丈夫……」
隼人が遠慮した瞬間、彩は意地の悪い笑みで詰め寄った。
互いの鼻が触れそうな距離で彩は訊く。
「大丈夫ってどっちの意味?」
「友達も恋人もいらないっていうか……」
照れる隼人は顔をそらそうとする。
彩は隼人の顔を両手で挟み、それを阻止した。
彼女は面白そうに目を細める。
「美少女ギャルの誘いを断るんだ。贅沢だねー」
「そうじゃなくて、僕なんかが立花さんと友達……ましてや恋人なんて恐れ多いし……」
「別に気にしなくていいのにー。隼人君って謙虚だね」
ケラケラと笑う彩は、隼人を解放した。
彼女は軽やかな足取りで部屋の扉を開けると、振り返って微笑む。
「ついてきて。ちょっとデートに行こうよ」
彩は返事を聞く前に部屋を出て行く。
呆気に取られる隼人だったが、我に返って追いかけた。