第99話 急進派では③と何が起こっている?
王都の一室。
急進派の3人はいつものように集まっていたが、雰囲気はいつになく暗い。
最初に口を開くのは、珍しくハムロ伯爵だった。
「それで……領内はいかがですか。ヘルシュ公爵」
「いかがもない。グレイルの所の山賊共が妨害工作を起こしている。そのせいで準備が遅れに遅れている」
「では……王都での工作は……」
「ゴドリックの糸目に食い込まれている。グレイル本人は殺せずとも、その周辺を狙えれば……と思っていたが。領地が荒らされてはたまらない」
そう言ってヘルシュ公爵は考え込む。
それを見て、ハムロ伯爵は恐る恐る提案する。
「では、私も当分の間は領内のことに目を向けようかと。隣国が少し怪しいのです」
「……ハムロ伯爵。先日の計画はどうなったのだ?」
「引き揚げさせました。ユマ・グレイルが出てきましたので。そのせいで1つの部隊が全滅させられましたが、残りの2つは被害に遭う前にということで」
「そうか。いてもいなくてもいい奴らの戦力を使って奴らの戦力をそげるのであればやらせておくべきだが、やりすぎてはお前の所の兵がいなくなってしまうか」
「はい。ですので、今は下がらせておくべきかと」
「わかっている。無駄に兵を使わせる必要はない」
ハムロ伯爵は頷き、ほっと一安心する。
大切な兵をよその領地の攻撃で消耗する必要がなくなったからだ。
そこに、もう一人の急進派貴族が口を開く。
「それで……これからはいかがすればよろしいのですかのう。ワシはこのまま他国との外交でよろしいのですかな?」
「ああ、これから国内で問題が起きる間、他国からの干渉が来ないようにだけしておいてくれ」
「かしこまりました」
「ふぅ……何かいい報告はないか?」
ヘルシュ公爵はそう言って2人に視線を送るが、2人は首を横に振る。
「クソ……奴らを何とかせねばもしものことがあるやもしれん」
「ヘルシュ公爵。奴らは先日の戦で大きな被害を被っています。いっそのことすぐに行動を起こすべきではありませんか?」
「うぅむ。それは……ありかもしれんが……やはり厳しいな。他国の工作も終わっていない。そうだな? フィブルス侯爵?」
ヘルシュ公爵はもう一人の貴族、フィブルス侯爵に目を向ける。
目を向けられた彼は肩をすくめた。
「公爵の想像通りです。お互い戦争を長いことしていたからのう。すぐに他国にこちらを手出しできないように……ということは難しいでしょうな」
「だろうな」
「申し訳ありません……」
ハムロ伯爵もうつむいて謝罪を口にする。
ヘルシュ公爵は首を横に振って言う。
「その必要はない。それもこれも奴らのせいだ。何とか手を打たねば……」
「時間があれば、次回の議会の時にでもある程度は仕掛けられると思いますがのう」
「フィブルス侯爵。それでは任せてもいいか?」
「ただ、一つお願いしたいことがありましてな」
「なんだ?」
「どうにかして、穏健派の目を一時でもよいのでそらしていただきたい。それが出来れば、少しは貢献できるかと」
「工作ができればいいが……。ターリィはもうおらんしな。どうするか……」
ヘルシュ公爵がそう考え始めた時に、扉がノックされた。
彼は一瞬目を曇らせたが、すぐに返事を出す。
すると、執事が音もなく入ってくる。
「入れ」
「失礼いたします。緊急の事件がありましたのでお伝えに参りました」
「緊急の事件? なんだ。言ってみろ」
ヘルシュ公爵の眉間にしわが寄りかけるが、話を聞くと、その顔には笑みが浮かぶ。
「下がっていいぞ」
「は、失礼いたします」
執事が部屋を出ていくと、彼はご機嫌なようにしてフィブルス侯爵を見た。
「ちょうどいいことが起きたな?」
「神はワシらを見捨ててはいないようですのう」
「ああ、これで奴らの目はどうやってもギドマンに向く。早速やってもらうぞ。フィブルス侯爵」
「ええ、ワシにお任せいただければ、次回の議会は楽しいことになるでしょうな」
それから、彼らはさらに今度のことについて話を深めていく。
******
ドンドンドン!!
「ユマ様! 緊急事態です!」
「!? どうした!?」
ゴドリック侯爵の屋敷で楽しく交流をしていたと思ったその日の夜。
俺は突然のノックで起こされた。
俺は跳び起き剣を掴んで扉に向かう。
扉を開けると、そこにはギドマン家の兵士がいた。
その後ろには護衛か案内かゴドリックの兵士となぜかルークが控えている。
「ユマ様! ニジェール様より緊急の伝言です! 至急、お話を!」
「ここではダメなのだな。では中に入るといい」
「失礼いたします!」
彼はそう言って部屋に入る。
彼の後ろにいたゴドリックの兵士達にはその場にいるように指示し、中に入りたそうにしていたルークには手招きをする。
部屋の中には3人だけになり、ギドマンの兵士は片膝をつく。
「それで、緊急の伝言とは?」
「は、グレイル次期領主様が出立された後、我がギドマン領は宣戦布告をされました」
「……?」
俺は彼の言っている意味が理解できなかった。
宣戦布告?
どこの誰が?
なんのために?
幸いというかなんというか、ギドマン領は急進派とも中立派とも領地は接していない。
ギドマン領が接しているのは、王領、グレイル領、ゴドリック領そして中小貴族達の領地だ。
先日に村々を襲撃したのは、急進派の息がかかったケラン公爵に言われて子爵や男爵が行ったのだろうとは思う。
だが、表立って宣戦布告はあり得ない。
腐ってもギドマン家は議会に参加できるほどの貴族。
その中小貴族達が宣戦布告をすることなんて……。
しかし、ゴドリック領は平穏そのものだし、グレイルが攻めることもあり得ない。
王領だってそんなことをするはずがない、ゴドリック候の話で内部はだいぶごたついているのだから。
「ど、どこが宣戦布告をしてきたんだ?」
「は! スルド男爵を筆頭に、セモベラ子爵、ソーランド騎士爵の連合軍です! それぞれ3方向から領都を目指して進軍しているとのこと」
「………………」
俺は思わず絶句してしまった。
上で挙げたように、彼らがギドマンを攻めるほどの力を持っていないのに、攻めてきたからだ。
それとも、先日の攻撃は本格的に侵略するための威力偵察で、本気を出せば穏健派の領地を切り取れると判断したのだろうか。
もしくは急進派が裏にいて、そこまでしなければならない何かを握っている?
何が狙いだ……?
そう考えようとして、俺は頭を振って今すべきことに目を向ける。
「理由はわからんがとりあえずギドマン領へ向かう。ルーク、全員を叩き起こしすぐに出立の準備を」
外は白み始めているので、少し早い出発ということで許されるだろう。
「かしこまりました」
ルークはすぐに頭を下げて部屋から出ていく。
「お前は俺と来い。ゴドリック候に説明する」
「かしこまりました」
こんな時間に起こしてしまって申し訳なかったが、ゴドリック候は気にしないように言ってくれた。
それどころか、道中の糧食などをすぐに手配してくれて、すぐに戻る手助けをしてくれる。
本当に頭が上がらない。
「それでは急いでギドマン領へ向かう! 行くぞ!」
「おう!」
俺達はそれから出せる全力でギドマン領へと向かう。




