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凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第95話 ニジェール視点 彼の助けに

 ボクはニジェール・ギドマン。

 宴を開いた翌日、ボク達は急いで領都に戻っていた。


 ユマ様が兵士に声をかけてくれていたからか、早朝から出発の準備ができていた。

 感謝しかない。


 数日かけて戻った時には、父上はまだ生きていた。


「父上!」

「ニジェール様。大声は旦那様のお体に触ります」

「す、すまない」

「それでは失礼します」


 執事長はそう言って扉を閉じて、ボクと父上だけにしてくれる。


「父上、ただいま戻りました」


 いつもなら目を閉じたまま、死んだかのようにじっとしている父上が、この時は目を開く。


「……ニジェール。よく……戻ったな」

「はい……。ユマ様に助けていただき、領民を守ることが出来ました」

「そうか……グレイルの次代がやってくれたか……」

「はい……本当はボクだけでやるべきだったのでしょうが……」


 ボクがそう言ってうつむくと、父は目だけをボクの方に向ける。


「それは……違うぞ……ニジェールよ」

「父上?」

「いいか、ニジェール。最初から一人でできるのなら、派閥に入る必要はない。グレイルの派閥に入っていたのは、その方が役に立つからだ」

「そう……ですね」

「そのおかげで、我々は今の勢力を維持しているのだ」


 父上は……穏健派にいることに乗り気ではないのだろうか。


 ボクとしてはその考えを素直に受け入れることはできない。


「ユマ様はその身を戦場においてくださって、助けてくださいました」

「……ああ、ベイリーズも……穏健派というだけではなく、ワシらを助けてくれた」

「なら……」

「だがな。ベイリーズがそうだったからと言って、次もそうとは限らん。先代が優秀だったがゆえに、次の愚かさが際立つこともある」


 カゴリア公爵家のことが脳裏をよぎる。


「なら」

「最後まで……聞け。ワシはもう長くない。お前にはそれを聞く時間くらいはくれてもいいだろう?」

「はい……すみません」

「ワシは……ベイリーズの力になれることなら多くをしてきた。急進派とのいさかいに出たことだって2度や3度ではすまん。だが、だからと言って、お前まで穏健派でいる必要はない」

「父上……?」


 そんな……という疑問が出てくるが、今は聞くべき時。

 そう思って父上の言葉を必死に聞く。


「いいか。これから……乱世が来るのだろう。その時、この領地を守れるのは、ワシではない。お前だ。ニジェール」

「そんな……」

「これからの時代、お前はギドマン家の領主として、全てを決めるのだ。成功も失敗も、全てお前の責任になる。この領地がどうなるかは、お前次第だ。だから、ワシが穏健派にいたからといって、お前までそれを共にする必要はない。領地や民のことを考えるのであれば、中立派や急進派に鞍替えをしてもかまわない」

「……」

「全てはお前が決めるのだ。ワシの家督を譲る、ニジェールよ」

「はい」


 ボクはそう言って、ただじっと父上を見つめる。


「少し疲れた……休む」

「はい。ゆっくりと休んでください」

「ああ……」


 父上は目を閉じ、眠りにつこうとする。


 ボクは彼に背を向けた所で、小さな声が聞こえた。


「ベイリーズよ……先に行っている……」


 その言葉で、ボクは父上に駆け寄る。


「父上! 父上!」


 しかし、父上の返事はない。


 ボクはすぐに部屋の外に出て叫ぶ。


「医師を呼べ! 今すぐに!」

「は!」


 執事達はすぐに走り出し、それから、医師が来る。

 ただ、すでに父上は亡くなっていた。



 それからは忙しかった。

 父上が亡くなったことによる葬儀。

 家督を継いだけれど、すぐに領地運営の全てをこなせる訳ではなかった。

 仕事の引継ぎや、領内で不穏分子が活動をしていないか、他にも敵が攻めて来ないか等。

 様々なことに注意を払わなければならなかった。


 本来であれば、ユマ様の相手もしなくてはならないのに、ユマ様はスルド男爵や、セモベラ子爵が何かしてこないか見てくると言って、領内の警備をかってでてくれた。

 そのおかげで、ボクは父上の葬儀に集中できた。


 式はつつがなく終わり、ユマ様は終わった後、墓に参ってくれた。


「これから知りたいと思っている時に、亡くなられてしまった。残念だ」

「いえ……父上は……きっと……これで良かったのだと思います」

「そうか……」

「はい」


 父上はベイリーズ様ととても親しくしていた。

 だからこそ、父上はそんな自分が大事にしていた相手であれ、次がダメならば違う選択肢を選んでもいいと言ったのだ。


 でも、少なくともボクにその選択肢はない。


 ユマ様はボクらの助けに応じてきてくれた。

 こちらが彼らを助けにいけなかったのに、気にしていなかった。

 ただ助けられるだけが派閥なのだろうか。

 ボクはそれは違うと思う。

 ボクは……ボクはユマ様の隣に立てるなんてことは言わない。

 でも、少なくとも、ずっと助けてくれた彼の後ろを守るくらいのことはしたい。

 いや、やってみせる。


「ユマ様」

「なんだ?」

「ボクはギドマン家の当主として、今度ともユマ様と共にありたいと考えています。共に……いてもいいでしょうか」

「願ってもないぞニジェール殿。これからもよろしく頼む」

「……」


 彼はそう言って、笑顔でボクを受け入れてくれた。

 

 やはり、ボクは彼を助けたい。

 いや……おこがましいかもしれないが、助けられるようになりたい。


 ボクには力が足りない。

 もっと……もっと、ボクは……。


「ユマ様。ボクは力が足りません。ですが、いずれはユマ様を助けられるようになってみせます。ですので……これからもよろしくお願いします」


 父上は領地のためになるように動けと言ってくれた。

 ならば、この領地の民のためにも戦ってくれたユマ様と共にあることこそ、この領地のためになる。

 ボクはそう確信している。


「こちらこそよろしく頼む。俺も……色々と至らぬ点があると思うが、ニジェール殿がいれば心強い」

「はい」


 ボクは……ボクは……彼の助けになる。


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