第84話 急進派では②
とある談話室。
いつものように急進派の3人が語らっている。
3人の顔は険しく、話している内容は楽しいものではないらしい。
「またしてもグレイル……ユマ・グレイルに出し抜かれたか……」
「ヘルシュ公爵。このままでは無視できない存在になりつつあります」
「わかっている。だが、どうやって止める? こちらのターリイを殲滅し、あのカゴリア騎士団を相手に地の利があったとはいえ、同数で打ち破ったのだぞ? ハムロ伯爵。貴殿ではどうなるかな?」
「……全軍をあげても厳しいかと」
「そうだろう。そんな奴らをどうこうしようとするなど無駄だ」
「では、このまま捨て置くのですか?」
「そんなことは言っておらん」
ヘルシュ公爵はギロリとハムロ伯爵をにらみつける。
ハムロ伯爵は委縮したように肩をすくめた。
「申し訳ありません」
「気にするな。そう思うのはおかしいことではないからな」
「はい」
「今回のことで、奴らの強さは十分理解できた。奴らは強い」
「はい」
「ならどうしたらいい?」
「は……暗殺させるように追い込む……などですか?」
「ベイリーズはその辺り用意周到だ。忠誠心の高い者しか周囲に置いていない。さらに工作をしようにもターリイはほぼ壊滅。先日の工作でギリギリ動かせたが……それも運がよかっただけということもある。工作は無理だ」
「……」
黙ってしまうハムロ伯爵に、ヘルシュ公爵は答える。
「気にするな。今回のことに気づけたのはそこまでおらん」
「そうなのですか?」
「ああ、穏健派を解体か……動けなくする。これが一番いい」
「そんな……そんなことができたら最初からしていればよかったのでは?」
「今回の件で浮き彫りになったから突けるのだ」
「浮き彫りに……ですか?」
「そうだ」
ヘルシュ公爵は自信満々に頷いて話す。
「あいつらは領土的な優位性から弱兵しかいない。でなければグレイルに兵を送っているはずだ」
「なるほど」
「そして、奴らの周囲には中小様々な領土を持つ貴族の集まりがある。そいつらを使って少しずつ侵略させる」
「しかし、彼らは基本的にケラン公爵の……あ」
「そうだ。奴は今私達の言いなりだ。それくらいのことはさせられるだろう」
「なるほど」
ハムロ伯爵は頷くが、もう1人が尋ねる。
「しかし、それだけで穏健派が瓦解しますか? 多少面倒に感じるかもしれませんが、そこまではいかないのではないかと」
「その通りだ。だからその諸侯の軍に、ハムロ伯爵の軍を混ぜる」
「ほう……」
「そ、そんな! 私の軍をあんな奴らのところに!?」
ハムロ伯爵は慌てて止めようとするが、ヘルシュ公爵は決まったことだと言わんばかりだ。
「武芸大会での失態に、議会での失態も合わせて見逃してやったことを忘れたのか?」
「しかし……」
「安心せよ。指揮官として派遣し、奴らを教育しながら相手の村々を焼いていくだけでいい」
「それでしたら……かしこまりました」
「ああ、村々を焼き、解決に兵が出てきたら即引かせる。これをやるだけでも奴らは動けなくなる」
ハムロ伯爵は納得いかないというようにヘルシュ公爵に返す。
「しかし、奴らには情報部隊が残っているはずです。こちらの兵の動きを知られたら、それだけで待ち伏せに遭うでしょう」
「一度でもそうなったら兵を引けばいい」
「そんな……それで遊兵を作ってしまうだけでは?」
「? 諸侯のゴミの部隊を遊ばせておいて何が問題ある? そうなったらお前のところの指揮官も下げてしまえばいい。その間。敵の情報部隊は諸侯との国境に張り付けておかざるを得ない。これだけで穏健派共にとっては損失になるし、こちらにとっては邪魔な奴らが消える。もし、情報部隊を引き上げたら焼き続けるだけだ。問題あるか?」
「それだけで解体まで行くでしょうか?」
「行くさ。村々を焼かれ続け、それを守る兵は頼りない。民達は立ち上がるだろう。今の領主に任せておけないとな」
「なるほど……流石ヘルシュ公爵。これだけの智謀をお持ちとは……」
ヘルシュ公爵はまんざらでもなさそうに頷く。
「その間にこちらは手持ちを増やす。敵に最強が渡った今。こちらは数を増やし、敵の数が増えないようにすることが最善だ」
「なるほど、そこまで考えていらしたのですね」
ハムロ伯爵は太鼓持ちのようにヘルシュ公爵をほめたたえる。
ヘルシュ公爵もそれに納得するように頷いた。
「ああ、そうしている間に、こちらは我々のやることに集中できる。王都も進んでいるしな」
「近衛騎士の買収はだいぶ進んでいるんでしたか」
「ああ、後はいつでもやれる。やれるが、まだ早い。こちらの力も貯めておきたいし、グレイルの状態も良くないそうだ。その死に際にやった方が奴らもゴタゴタで動きにくかろう」
「なるほど、それは重畳です。ただ、あまり長くされても困ります」
「あと1、2年であろう。先に消しておきたかったところだが、ここまで生きたのなら生かしておいてやる。死に体の人間にできることも少なかろうて」
「ですな」
そのようなことを話しながら、彼らの夜は更けていく。
ゲーム開始まで、あと1年。
「面白かった!」
「続きが気になる、もっと読みたい!」
と思っていただけたなら
下にある【☆☆☆☆☆】を【★★★★★】にして作品への応援お願いいたします。
面白かったら星5つ、つまらなかったら星1つ、正直な感想で大丈夫です!
ブックマークもいただけると本当にうれしいです。
何卒よろしくお願いいたします。
そして、次から週に2回更新になります。
水日更新の予定ですので、よろしくお願いします。




