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凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第84話 急進派では②

 とある談話室。

 いつものように急進派の3人が語らっている。

 3人の顔は険しく、話している内容は楽しいものではないらしい。


「またしてもグレイル……ユマ・グレイルに出し抜かれたか……」

「ヘルシュ公爵。このままでは無視できない存在になりつつあります」

「わかっている。だが、どうやって止める? こちらのターリイを殲滅し、あのカゴリア騎士団を相手に地の利があったとはいえ、同数で打ち破ったのだぞ? ハムロ伯爵。貴殿ではどうなるかな?」

「……全軍をあげても厳しいかと」

「そうだろう。そんな奴らをどうこうしようとするなど無駄だ」

「では、このまま捨て置くのですか?」

「そんなことは言っておらん」


 ヘルシュ公爵はギロリとハムロ伯爵をにらみつける。


 ハムロ伯爵は委縮したように肩をすくめた。


「申し訳ありません」

「気にするな。そう思うのはおかしいことではないからな」

「はい」

「今回のことで、奴らの強さは十分理解できた。奴らは強い」

「はい」

「ならどうしたらいい?」

「は……暗殺させるように追い込む……などですか?」

「ベイリーズはその辺り用意周到だ。忠誠心の高い者しか周囲に置いていない。さらに工作をしようにもターリイはほぼ壊滅。先日の工作でギリギリ動かせたが……それも運がよかっただけということもある。工作は無理だ」

「……」


 黙ってしまうハムロ伯爵に、ヘルシュ公爵は答える。


「気にするな。今回のことに気づけたのはそこまでおらん」

「そうなのですか?」

「ああ、穏健派を解体か……動けなくする。これが一番いい」

「そんな……そんなことができたら最初からしていればよかったのでは?」

「今回の件で浮き彫りになったから突けるのだ」

「浮き彫りに……ですか?」

「そうだ」


 ヘルシュ公爵は自信満々に頷いて話す。


「あいつらは領土的な優位性から弱兵しかいない。でなければグレイルに兵を送っているはずだ」

「なるほど」

「そして、奴らの周囲には中小様々な領土を持つ貴族の集まりがある。そいつらを使って少しずつ侵略させる」

「しかし、彼らは基本的にケラン公爵の……あ」

「そうだ。奴は今私達の言いなりだ。それくらいのことはさせられるだろう」

「なるほど」


 ハムロ伯爵は頷くが、もう1人が尋ねる。


「しかし、それだけで穏健派が瓦解しますか? 多少面倒に感じるかもしれませんが、そこまではいかないのではないかと」

「その通りだ。だからその諸侯の軍に、ハムロ伯爵の軍を混ぜる」

「ほう……」

「そ、そんな! 私の軍をあんな奴らのところに!?」


 ハムロ伯爵は慌てて止めようとするが、ヘルシュ公爵は決まったことだと言わんばかりだ。


「武芸大会での失態に、議会での失態も合わせて見逃してやったことを忘れたのか?」

「しかし……」

「安心せよ。指揮官として派遣し、奴らを教育しながら相手の村々を焼いていくだけでいい」

「それでしたら……かしこまりました」

「ああ、村々を焼き、解決に兵が出てきたら即引かせる。これをやるだけでも奴らは動けなくなる」


 ハムロ伯爵は納得いかないというようにヘルシュ公爵に返す。


「しかし、奴らには情報部隊が残っているはずです。こちらの兵の動きを知られたら、それだけで待ち伏せに遭うでしょう」

「一度でもそうなったら兵を引けばいい」

「そんな……それで遊兵を作ってしまうだけでは?」

「? 諸侯のゴミの部隊を遊ばせておいて何が問題ある? そうなったらお前のところの指揮官も下げてしまえばいい。その間。敵の情報部隊は諸侯との国境に張り付けておかざるを得ない。これだけで穏健派共にとっては損失になるし、こちらにとっては邪魔な奴らが消える。もし、情報部隊を引き上げたら焼き続けるだけだ。問題あるか?」

「それだけで解体まで行くでしょうか?」

「行くさ。村々を焼かれ続け、それを守る兵は頼りない。民達は立ち上がるだろう。今の領主に任せておけないとな」

「なるほど……流石ヘルシュ公爵。これだけの智謀をお持ちとは……」


 ヘルシュ公爵はまんざらでもなさそうに頷く。


「その間にこちらは手持ちを増やす。敵に最強が渡った今。こちらは数を増やし、敵の数が増えないようにすることが最善だ」

「なるほど、そこまで考えていらしたのですね」


 ハムロ伯爵は太鼓持ちのようにヘルシュ公爵をほめたたえる。


 ヘルシュ公爵もそれに納得するように頷いた。


「ああ、そうしている間に、こちらは我々のやることに集中できる。王都も進んでいるしな」

「近衛騎士の買収はだいぶ進んでいるんでしたか」

「ああ、後はいつでもやれる。やれるが、まだ早い。こちらの力も貯めておきたいし、グレイルの状態も良くないそうだ。その死に際にやった方が奴らもゴタゴタで動きにくかろう」

「なるほど、それは重畳(ちょうじょう)です。ただ、あまり長くされても困ります」

「あと1、2年であろう。先に消しておきたかったところだが、ここまで生きたのなら生かしておいてやる。死に体の人間にできることも少なかろうて」

「ですな」


 そのようなことを話しながら、彼らの夜は更けていく。


 ゲーム開始まで、あと1年。


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