第8話 6倍の敵との初陣
空は大分暗くなっていて、日がほとんど落ちかけている。
それでも、バメラルの村の周囲は明るい。
野盗が焚いている火と村の中でも火が起きているからだ。
それに、村の中でも悲鳴が聞こえている。
もしかしたら……。
俺はその考えを振り払い、部下達に命令する。
「全軍! 即座に突撃する! 俺の後について来い!」
「は!」
俺がそう命令すると、兵士達は大声で応える。
「ユマ様。いいのですか? こちらの数は50騎しかおらず、敵の数は300もいると聞きましたが……」
不安そうに馬を寄せて聞いてくるのはルークだ。
だから、俺は安心させるように答える。
「だからこそだ。こちらの数は劣っている。奴らにこちらの数がバレて、迎撃準備を整えられる前に、奴らの頭を潰す。頭を潰せば後は狩り取っていくだけで済む。これでいいか?」
「流石ユマ様です! 分かりやすい説明ありがとうございます!」
「よし! お前達は俺についてくるだけでいい! あとは勝手に敵が潰れていく!」
「おお!」
兵士達の士気はとても高く、これなら大丈夫だろう。
そう思っていると、部下の1人が声を上げた。
「ユマ様! 敵の数は150ほどしかいません! それでも行きますか!?」
「行く! 状況を確認してからでは村が持たんかもしれん!」
「かしこましました!」
俺達は野盗達に、後ろから切り込んでいく。
「なんだてめぇら!?」
「やんのうご!?」
「後ろだ! 後ろぎゃああああ!?」
「敵は弱い! さっさと片付けるぞ!」
俺は背後にいる者達を鼓舞し、真っ先に敵陣に切り裂いていく。
敵を馬ではね、首を飛ばし、袈裟切りにしていく。
相手は野盗で、民を守るために俺は奴らを殺す。
「敵の頭を見つけろ! 雑魚に構わなくてもいい! まずは頭だ!」
俺はそう叫び、敵をバッサバッサと切り飛ばしていく。
しかし、敵の頭は一向に見つからず、それどころか、敵陣を切り裂いて村の柵まで出てしまった。
「ここにはいないのか!?」
「その様です!」
俺の言葉にルークが即座に反応する。
それから、俺は柵の上で恐怖の目を浮かべている者達に声をかけた。
「俺達はグレイロードから来た増援だ! 野盗の頭はどこにいる!」
「……! 反対側です! そちらの方が強く、突破されるかもしれません! 助けてください!」
「! 分かった! お前達! ここはもういい! 先にそちらを行くぞ!」
「おお!」
俺達はそのまま敵陣を横に切り裂いていき、村の柵に沿って走り抜ける。
「しかし、この程度の柵でよく1日も持ちこたえていたな」
俺は柵を見ながらそう呟く。
村の柵はあくまで獣避けというレベルの柵であるように見えたのだ。
一応丸太を地面に打ち付けてあるけれど、堀がある訳ではないし、高さも2mほど。
頑張れば普通に乗り越えられるくらいだ。
それもこれだけの数がいたら、あっという間だとは思うのだが……。
「あの伝令の兵士が大分早くに伝えてくれたのかもしれません。どこの誰かは知りませんが、褒美をやった方がいいのでは?」
「確かに、誰か調べておかないとな」
「敵の残りが見えて来ました」
「ああ」
俺は気合を入れ直し、部下達に再び叫ぶ。
「敵は残り150の雑魚でしかない! 俺に続け! 勝利は目前だ!」
「おお!」
俺達が敵に向かって突き進むと、敵も頭がいるからかこちらに向かって迎撃態勢を整えてくる。
敵の中に馬に乗り、野盗達に指示を下している者がいた。
「あいつが頭だ! 奴を狙ってただつき進め!」
敵が俺達に向かって構えようとしているけれど、所詮は野盗。
武器はバラバラで槍衾を作れていないし、指示が綺麗に行き届いている訳ではない。
俺達の速度に逃げ出す連中もいるほどだ。
「切り込め!」
俺達は切り込み、そのまま頭相手に一直線に向かう。
ヒュン。
今まさに俺が切り込もうとした瞬間、森の方から俺に向かって矢が放たれた気がする。
「! ハァ!」
キン!
その矢は寸分たがわず俺の頭を狙っていたが、俺は速度を緩めることなく剣で切り払った。
「ユマ様! 大丈夫ですか!?」
「ルーク! 俺がこの程度で死ぬはずがないだろう! 前を見ろ!」
「は、はい!」
俺はそう言って敵を蹴散らし、頭に向かって突き進んだ。
「ま、守れ! オレを守れ! 何をしている! オレが死んだらお前達も死ぬしかないんだぞ!」
敵の頭が慌てて守りを固めようとしているけれど、野盗では練度が足りていない。
それに、俺達の突撃に恐れおののいて動けていない。
「ひぃ! なんでこんなに早く!? しかもあいつらはなにを!」
「敵将の首、貰い受ける」
「ぐあ!」
ヒュボ!
俺は1人で叫んでいるやつの首を切り飛ばし、全軍……敵にも味方にも叫ぶ。
「敵将討ち取った! 後は雑魚しか残っていない! 殲滅せよ!」
「おおおおおおお!!!!!」
「た、助けてくれぇ~~!!!」
味方の士気はあがり、敵の士気は地の底に落ちる。
それからは一方的な蹂躙戦だった。
村の兵士達も大多数がこちら側に集まっていたからか、村からも兵士達が出撃してきて、野盗は討伐されるか、大人しく投降して捕まるか、森の中に逃げていった。
こちら側が終わると、俺は無事な兵士達を引きつれ反対側の討伐に向かう。
「終わったか……」
「はい。流石ユマ様です。この圧倒的な速度、ユマ様が天才であられるからこそできる手並みでしょう」
「そんなことはない。それよりも村に入るぞ。暗くなりすぎて何かがあってからでは遅い」
「は……まだ敵がいると?」
「そうは言っていないが、ここまで飛ばしっぱなしだったからな。少しは休ませてやりたい」
「ユマ様のためであれば3日3晩みな戦いましょう」
「嬉しいが……休める時にはしっかりと休んでくれ」
「ですな。村の者達もユマ様を今か今かと歓迎してくれるでしょう」
「だといいがな」
俺はそう返して、村の中に入った。
村の中では、多くの民達が待ち構えていた。