第79話 マルコス平野の戦い⑤
***ヴォルク視点***
「ばあっはっはっは! 早速借りを返してやる時ができたようだな!」
「ヴォルク様。すぐに向かいませんと」
「そうだなぁ。では全軍! 突撃! 儂らクルーラー伯爵家の騎馬2000! 同盟によりグレイル侯爵家の助力に入る!」
「おおおおお!!!!」
儂は全軍の士気をあげ、最強と名高いカゴリア騎士団に向かっていく。
敵の騎士団は儂らの存在を見つけるや否や、即座に突撃隊形を敷いている。
その様に血が滾る。
「ばあっはっはっは! 最強相手に正面から戦える機会などそうないぞ! 数はほぼ同数! どちらが最強か世界に見せつけてやろうぞ!」
「おおおおお!!!!」
儂を先頭にして、敵に向かって突撃する。
敵も正面から迎え撃つつもりらしく、騎馬同士での正面衝突になる。
儂は吠え、ハルバードを振りかぶった。
「マーカス! 仕えた相手を間違えたなぁ!」
「糞じじいが! さっさと引退させてやろう!」
儂は、昔馴染みのマーカスに向かって全力でハルバードを振り下ろした。
******
ドゴォォォォン!!!
カゴリア騎士団とヴォルク殿の衝突は互角だった。
騎馬でのぶつかり合いだったけれど、互いの足は完全に止まった。
「敵側面を突く! 続け!」
「おう!」
万が一ヴォルク殿が抜かれることを考え、少し離れた所で待機していた。
止めてくれるのであれば、俺達がとどめを刺す。
だが、マーカスは殺したくはない。
優秀なキャラだし、彼が味方になったら百人力だ。
しかし、今はそんなことを言っている余裕はない。
アーシャやシエラ達が上手くいけば解決するかもしれないが、それに期待していては味方の損害が馬鹿にならない。
俺達は突撃をして、あと少し……というところで、まさかの邪魔が入った。
「ここから先はいかせん!」
「落とし穴に落ちた奴らか!?」
カゴリア騎士団達と俺達の間に割って入ったのは、落とし穴に落ちていたカゴリア騎士団の残党だった。
彼らは全身傷だらけだろうが、俺達の前に立ちはだかる。
数は数百人といった所で、無事な者はだれ1人としていない。
その心意気は本当に素晴らしい。
賞賛を送られること間違いないだろう。
だが、
「俺の前に立つなら斬り飛ばす」
俺はハルバードを思い切り振って、敵を薙ぎ払った。
「ぐああああ!!!」
「ちく……しょう……」
「このまま敵将の首を取る!」
「おお!」
俺達はそのままカゴリア騎士団に突撃し、マーカスへと一直線に向かう。
「マーカス! 俺と戦え!」
「させるか!」
「どけぇ!」
ズバァア!!!
俺はハルバードを振り、敵を鎧ごと上下に両断した。
「す、すごい……流石ユマ様……」
「俺達の武器では弾かれるあの鎧を両断とは……」
「ユマ様についていけば勝てるぞ! 進め!」
そのままの勢いで、俺達は進む。
すると、激しい剣劇の音が響いていた。
「音のする方に向かうぞ!」
「おお!」
その音の方に向かうと、そこでは多くの敵と味方が2人の人物を囲んでいた。
ヴォルク殿とマーカスだ。
彼らは馬上で激しく互いの武器を振り、激闘を繰り広げていた。
ヴォルクはハルバードで巧みに敵のなぎなたをからめとろうとしたり、突きを放ったり攻め立てている。
マーカスはその動きに慣れようとしているのか、防戦一方だった。
だが、確実にヴォルクの動きを把握しようとしている鋭い目をしていた。
「守っているだけでは勝てんぞ!」
「終わりだ」
「何!?」
俺達が到着した途端、マーカスの斬撃がヴォルクを袈裟切りにする。
「ヴォルク殿!」
俺は慌てて飛び出す。
今ならまだ間に合う。
「誰だ!?」
「グレイル領次期領主、ユマ・グレイル! 参る!」
「次から次へと!」
俺はマーカスに向かい、ヴォルクに急いで下がるように目線を送る。
彼は袈裟切りにされたけれど、瞬時に後ろに身体を下げてギリギリ致命傷を避けていた。
それをヴォルクの部下もわかっているのか、彼を急いで後方に下げている。
俺はそれを目の端に捕らえながら、ハルバードを思い切りマーカスに振り下ろす。
ガギィン!!!
「やるな!」
「まだまだ!」
俺はそれからハルバードで攻め立てる。
だが、今回も彼は俺の動きを把握しようとしているのか、防戦一方だ。
強い。
ヴォルクが負けるのも納得の強さだ。
だが、タイマン最強の俺が、マーカス程度で時間をかけることは許されない。
すぐに戦を終わらせるために、俺は斬魔法を使ってハルバードを振り下ろした。
ズバァァァン!!!
「な……に……」
俺は彼の武器……それと、馬だけを斬る。
彼は馬から飛び降り、地面に着地する。
「降伏しろ。悪いようにはしない」
俺は彼の首筋に斧を突きつけ、そう要求した。
ただ、彼は俺の目をまっすぐに見て答える。
「断る」
「なぜだ」
「貴様らを殺して力の差を見せつけろと厳命されたからだ」
「貴様が生きていようが死んでいようがそれは無理だ」
「それはどうかな? カゴリア騎士団は最強だ。たとえどんな状況であろうと戦い、勝ち筋を求める。俺が死んでいたとしても、他の者達が生きている限り、必ず」
俺はそんな彼を少し諦めきれずに言う。
「あんな愚かな主につき従って死ぬのか。その最強の命を散らしていくことに問題はないのか」
「ない!」
彼は即座に断言した。
その瞳に、一切の迷いは見られない。
「どのような主であろうと、忠誠は忠誠として捧げている。俺達は主の剣であり盾! 主が戦を求める限り、俺達はどのような相手でも戦う!」
「そうか……」
これ以上の問答は無用。
そう思って俺は斧を振りかぶる。
マーカスはそれでも、じっと俺を見つめて動かない。
「さらばだ」
俺がそう言って斧を振り下ろそうとした瞬間。
「ちょっと待ったー!!!」
聞きなれた声が耳に届いた。