第25話 騎士団長視点 魔法の才能
本日も3話更新です!
私はセルヴィー、グレイル領で騎士団長をしている。
北部の治安維持活動をやっと終えて、領都に帰ってきたらユマ様に魔法を教えて欲しいと頼まれてしまった。
領主様に報告を終えて、私は信じられない気持ちでユマ様とアーシャ様の2人を見守る。
「……」
「……」
私はグレイル領主に恩がある。
だから、あの方のために騎士団長として働き、敵を屠ってきた。
でも、そんな私をもっても目の前にいる2人の魔法は希少であると同時に、とても強力だと感じられる。
斬魔法。
斬る……と言ったけれど、いきなり私の氷柱を両断してみせた。
いくら斬る魔法だからといって、長年戦場で敵を串刺しにしてきた私の硬く、強力な魔法をだ。
魔力の練習をしていたとはいえ、魔法をたった今習ったばかりの彼が。
もう一人のアルクスの里の娘であるアーシャ。
彼女の魔法も恐ろしい。
戦場で敵がどこにいるのか分からないなんて、そんな恐ろしいことはない。
彼女の魔法がより洗練された時、どうなるかが楽しみなような恐ろしいような。
裏を取ったと思ったらそこに矢を浴びせられるだけでも、突撃の失敗する可能性は高まるだろう。
現に今私は集中しないと彼女の存在さえ気づくのが怪しくなってくる。
「私も……引退する時が来たかな」
「どうかしたか?」
「いいえ、続けて下さい。私ができるのは氷柱を出していくことだけですけど」
この練習だって、死ぬほどやったのだ。
毎日魔力が空になるまで、意識が朦朧としながらも魔法を出せるように。
彼らがそれをできるようになるまでどれくらいかかるか分からない。
でも、私は彼らを見守ってあげたいと思えるようになっていた。
それから、半日ほどすると、流石にずっと魔力を使っていたからか息をあげていた。
「今日はこれくらいにしましょう。上限はありますが魔力は使えば使った分だけ増えるので、毎日空になるまで魔法は使うこと。いいですか?」
「分かった……セルヴィー騎士団長。忙しいのに教えてくれて助かった」
「……いいえ。では私はこれで」
「ああ」
「……」
アーシャは地面に体を投げだして動けないようだった。
ユマ様は魔力も桁違いにあるのか、それとも体力が多いからか息が上がっているだけだ。
私はそれを見た後に、急いで領主様の元に向かう。
「失礼します」
「騎士団長。どうかしたか?」
「はい。ユマ様はすごいですね。私の氷柱がいきなり壊されました」
「そうか……ユマは魔法の才能もあるのか」
「はい。魔法の訓練も熱心ですし、素晴らしいですね」
「うんうん。なら、やはりこれに行かせてもいいかもしれんな」
領主はそう言って手に持っている手紙を見てにやけている。
「どうかされたのですか?」
「ああ、実はハムロ伯爵よりユマに武芸大会に参加しないかという招待状が届いていてな。私が常々ユマの素晴らしさを語ったことを聞いてぜひにと言って来たのだ」
「しかし、ハムロ伯爵はヘルシュ公爵の派閥……急進派ではありませんでした?」
「ああ、だが、そんなあからさまに暗殺などせんさ。もしもそうなったら奴らの領地を消し炭にしてやろう」
「……」
親ばかとはこの方のことを言うのだろうか。
でも、武芸大会に出るということのメリットもあるし、彼が言う様に暗殺などいくらなんでもするわけがない。
そこまでやったらハムロ伯爵自体の格が数段落ちる。
招待した人が暗殺されました等、貴族として容認できる物ではないからだ。
「では、いいのではないですか?」
「セルヴィーもそう思うか! よし、早速話をしてみよう。ゴードン!」
彼はそう言って執事を呼ぶけれど、私は首をかしげる。
「あの、私が行ってきましょうか?」
「お前はいつまで鎧を着ているつもりだ。それよりも家族が待っているのだろう? ユマのために使わせて悪かったな。ユマが武芸大会に行っている間はここでゆっくりしているといい」
「しかし護衛は……」
「お前がいく必要はない。1年以上も働かせてしまったからな。家族との時間を大切にしろ」
「……はい。ありがたき幸せ」
「よい。その忠義、いずれユマにも頼む」
それから、私は大切な家族……父の元に向かった。
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豪華な部屋には、いつもの急進派の3人がいた。
口を開くのは当然ヘルシュ公爵だ。
「それで、首尾はどうだ?」
「はい。滞りなく。招待状もお送りしましたし、後は武芸大会で叩きのめすだけです」
「そうか……私が連れていくと言っていたやつも頷いた。これであの脳筋の名声を地の底に落せる」
「おお! では彼女が?」
「ああ、せっかくだ。入ってこい!」
そう言われて入ってきた女性は面倒そうに口をへの字に曲げる。
「なーに? 強い人と会えるって聞いたんだけど?」
「それはもう少し先だ。その時にお前が戦う相手に強いかもしれない奴がいる」
「ふーん。ま、領地でのんびりしてるのも飽きてきたし、そろそろ戦いたい気持ちだったんだよね」
「ああ、お前なら簡単さ。幾多の戦場を渡り歩き、その悉くを焼き尽くしてきたお前ならな。『焼尽龍姫』」
「姫ってついてるけどーその名前可愛くないからいやなんだよねー。それよりも、あたしより弱いやつとか……消し炭にしてもいいよね?」
彼女の口元はその時だけは嬉しそうに曲がっていた。