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第2話 訓練

「えーで、あるからして……」

「……」


 俺は自分でも分かるほどブスッとした顔で家庭教師の授業を受けていた。


 ゴードンに剣を教えて欲しい。

 そう頼んだのだけれど、それをやる前にまずは食事、そして次期侯爵としての勉強をしろ。

 ということらしく、こうして家庭教師の勉強を受けていた。


 まぁ……俺の知っているこの世界と、本物のこの世界が一緒かどうか分からないので、やっておいて損はないんだが……。

 強くなると決めていただけに、はしごを外された感じがして釈然(しゃくぜん)としない。


「少しいいかな?」


 ということで、俺は1時間ほど彼の授業を受けていたけれど、ある程度分かったので彼を止める。


「はい? いかがいたしました?」

「その辺りのことはもう知っている。だから、授業を終わらせたい」

「はぁ。しかし、昨日まではさっぱりという感じだったように思うのですが」

「本を読んで勉強した。だから分かる」


 彼が教えてくれているのは『ルーナファンタジア』の地理や歴史、今の状況等を教えてくれていた。

 しかし、1000ページを超える攻略本を5周はした俺に分からないもの等ない。

 むしろ、他国の状況を裏の方まで知っている分、俺の方が詳しいだろう。


「では……今日やった部分を教えて頂けますか?」

「分かりました。まず、俺達が住むこの大陸、ルーナリア大陸は右上が欠けた月のような形をしている。それから……」


 この大陸は今でこそ落ち着いているけれど、昔は12の国々で争いあっていた。

 それが永らく続いていて、各国は疲弊(ひへい)していた。

 そんな時、このままではまずいとして、3つの国が中心となって、停戦条約をまとめ上げたのだ。

 その3つの国が三真国と呼ばれ、今は実質的なこの大陸トップとして君臨している。


 他の9か国は自治は認めてもらいつつも、どうしても下に見られたり、争ったりしていて仲自体はよくない。

 ただ、その三真国が最近内輪揉めでぐらついているので、周辺各国もこれを気に反旗を翻してもいいかもしれない、ということになっている。


 それに、最近では飢饉が起きていて、盗賊や山賊になる者達も現れているくらいだ。

 三真国の心配よりも、自分の国の心配をする方が先ということだ。


 俺がそう説明をして席につくと、家庭教師は呆然としたあと我に変える。


「素晴らしいです。そこまでお詳しいとは……ありえません。昨日の今日で一体なにが……?」

「……なんでもない。これでいいか?」


 流石に転生してきましたとは言えない。


「そ、そうですね。あなたのような天才に勉学をお教えできたこと、とても誇りに思います」

「気にしないでほしい」


 攻略本の力だから。


「いえ、あなたのような方がこの領地を継いでいただけるだけで、私は満足できます。子供も……きっと幸せになってくれるでしょうから」

「……任せておけ。この領地は必ず発展させてみせる」


 俺個人としても死にたくないが、こうやって言われるとこの領地のことも見捨てることができない。

 元々逃げるという選択肢はなかったけれど、これでより一層なくなったと言ってもいいだろう。


「では、俺は剣の訓練に行ってくる」

「はい。よろしくお願いいたします。それと、何か分からないことがあれば聞きに来てください。私はここにおりますので」

「ああ、分かった」


 ということで、俺はゴードンを呼びに行き、話をすると剣の稽古をしてくれることになった。



「しかし、私で本当によろしいのですか? 必要であれば騎士団の者にでも……」

「いい。今は治安に不安があるのだろう? 連日出撃しているし、疲れも溜まっているだろう。だから休ませてやりたい」


 今、本編が始まるより前からの所為だが、乱世になるための問題が絶賛進行中だ。

 そして、強い者がいる騎士団は、治安回復のためにかなり出払っている。

 それを叩き起こして教育しろというのは忍びない。


「……ユマ様……あなたのお気持ち、我々、従者一同感涙に耐えません。必ず彼らにも伝えておきます」

「そんなことはしなくていい。それよりも剣を教えてくれ」

「かしこまりました。といっても、私があなたに教えられることはないでしょう。なので、実戦形式での指導になりますが、よろしいですか?」

「構わない」


 これで俺がどのレベルにいるか分かるし、もしも彼よりも圧倒的に強かったら騎士団になんとか頼んで呼べばいい。

 彼で足りるのであれば彼に、ダメなら騎士団を叩き起こす。

 俺が死なないためにはそれくらいはしようと思う。

 もしくは、俺が治安回復に行ってもいい。

 むしろそっちの方が実戦訓練ができていいかもしれない。


「では行きます」

「ああ」


 お互いに木剣を持ち、小手調べにゴードンが手を狙って打ち込んでくる。


 俺はそれを見て剣で受け止め、弾き返す。


「!?」


 そしてそのまま俺の番だと大きく振りかぶって打ち込むが、当然のように受け止められる。


 しかし、ゴードンは俺の太刀筋を見て驚いていた。


「驚きました」

「流石にやるな」

「まだまだ、ユマ様に指導をしなければなりませんからな!」

「たのしみだ!」


 武力は俺の方が上のはずだけれど、ゴードンの技術は学べるところがある。

 そんな彼との打ち合いは楽しかった。

 自分の体が自分の体ではないかのようにするすると動き、こんなにも動けたら強くなる努力も楽しくなる。

 そう確信できるくらいに楽しかった。



 それから俺は毎日ゴードンの時間が許す限り、剣の指導をしてもらった。


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