第130話 継承
父上の死から数日。
俺は絶望していた。
「父上……」
父上の葬儀の準備が行われいてる中、俺は自室に籠り何も出来ずにいた。
全てが守れると思っていた。
父上も、アーシャも、このユマ・グレイルも『ルーナファンタジア』で悲しい思いをした者達を、俺なら守れると思っていた。
そのために努力し、原作知識を使って多くの人材も集めた。
どんなに厳しくとも、俺ならやれると思った。
でも、父上は死んだ。
「何を間違えたんだ……」
俺が父上を救いたい。
この気持ちはこの身体の物か、それとも転生してきてからのものか。
両方ではあると思う。
それなのに……俺は……。
「失礼します」
そう言って部屋に入ってきたのはシュウだ。
足音からすると他に3人ほどいる。
俺は椅子に座ってうつむいていたけれど、顔を上げる気にはなれなかった。
けれどその4人は気にした風もなく俺を囲む。
「ユマ様、僕達はいつでもあなたを支えますよ」
後ろに立ったシュウにそっと肩を押される。
「あたしが支えてあげましょうか?」
シエラが左から二の腕を掴んでくる。
「わたくしの隣にいる方はあなたを除いていません」
メア殿下が右からそっと手をとって立つように力を貸してくれる。
「わたしは先を確認して見てくる。だから進もう」
正面に立ったアーシャがそう言って俺に抱き着いて引き上げようとする。
俺はみんなの力に任せるままに立ち上がった。
「みんな……」
「みなユマ様のことを心配しておいでです」
「ダーリンが辛いとあたし達も辛いわ。相談してよ」
「悩みがあればおっしゃってください。わたくしでよければ力になりますから」
「わたしもなんでもする。だから言って」
みんなが情けなく落ち込んでいる俺にそう声をかけてくれる。
みんな……それぞれ辛いことや、悲しいことがあるはずなのに、俺のことを心配してくれる。
なら俺がすべきことは何だろうか。
ただ椅子に座り、父上のことについて考え続けるべきなのだろうか。
違う。
俺は俺がやらなければならないことに向かうべきだ。
俺が道を斬り開き、それにみんながついてくる。
俺は俺の道を進まなければならない。
だけど、こうして、すぐ側にいてくれる大切な仲間もできたのだ。
うなだれている暇なんてない。
「ありがとう。父上の葬儀の準備は?」
「すぐにでも」
「わかった。行くぞ」
「はい」
「そう来なくっちゃ」
「ええ」
「うん」
俺はそれからつつがなく葬儀を終えた。
葬儀を終えた後、時刻はもう夜。
夜空にはキレイな星々が輝き、父上の死に涙してくれているようだ。
そんな夜空の下、屋敷の広場ではかがり火がたかれ、多くの者達が集まっている。
ゴドリック侯爵やギドマン伯爵も来てくれているのだ。
他にも領内の多くの首長達が参列し、父上の死を悼んでくれた。
領内だけでなく、穏健派のほとんども者が来てくれたように思う。
中立派の者もかなりの数が来ているようだった。
多くの者が忙しい状況であるのに来てくれた。
それだけ父上は素晴らしく、慕われていた。
俺はそれに匹敵するように……いや、超えるようにならなければならない。
父上はそれをできると言ってくれた。
この世界に来て、ずっと側にいてくれる大切な者達もできた。
最初はあくまでゲームキャラとして好きだったのが、その程度では済まないほど好きになった。
最初はただ生き残ればいいと思っていた。
だが、今は大事な者達みんなで生き残り、この乱世を生き抜くと決めた。
俺はひときわ高い台座に立ち、多くの者達が俺の言葉を待っていた。
その場にいる人をざっと見まわし、口を開く。
「父、ベイリーズ・グレイルは素晴らしい人だった。彼はこのグレイル領のために、そしてノウェン国のために必死で働き、多くのことを為してきた。諸君も昨日のことのように思い出せることだと思う」
軽く頷く者達も、じっと聞き入る者達もいる。
「そんな素晴らしい彼も年には勝てず、ついに旅立たれた。だが、絶望することはない! この俺がいる! ベイリーズ・グレイルの息子であり、あのカゴリア騎士団を打ち破ったこのユマ・グレイルが、これからのグレイル領を率い、そして守っていく!」
俺は自分で言い、熱が入っていくのが分かる。
「これから多くの苦難が訪れるだろう。くじけそうになる時がくるかもしれない。そんな時は俺を見ろ! 俺がお前達の道を斬り開き先へと進む! 今日この時をもって、ユマ・グレイルがグレイル侯爵の地位を継承する!」
俺はそう言って腰の剣を引き抜き、それを天に掲げる。
俺の言葉に合わせて、そこにいた者達が皆膝をつく。
「新たなるグレイル侯爵に永久の忠誠を!」
こうして、俺はグレイル侯爵の地位を継承した。
ここまで読んでくださってありがとうございます!
これにて、【次期侯爵編】は終了となります。
次の【国内統一編】についてですが……少々お待ちください。
具体的には2か月以内にはちゃんと投稿を再開する予定です。
ちゃんと話をまとめてから投稿したいと思っているので、それまでお待ちいただけると幸いです。
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