第128話 戻ってきてからは……
俺達はセルヴィー騎士団長の軍に守られて、グレイロードに戻ってきた。
「父上! ご無事ですか!」
俺は早速父上の馬車に向かった。
「ユマ、今はそっとしておいてくれ。長旅で疲れた」
父上はゴードンに支えられながら、馬車からゆっくりと出てくる。
顔色は悪く、所作全てに力が感じられない。
「父上……」
「当面のことはユマ。全てお前に任せる」
「失礼いたします」
父上とゴードンはそう言って、屋敷の中に入っていく。
俺はレナの元に向かう。
「レナ。父上の体調がよくない。診てくれないだろうか?」
「はい。ゴードン様とお話して、主治医の方と共に診ようと思っています」
「頼む」
「はい。これからよろしくお願いしますね」
彼女はそう言ってくれる。
すると、彼女の側にいたジャックが話しかけてくる。
栗毛に吊り上がった目、頬に傷の残るいたずらっ子をそのまま大きくしたような風貌だ。
「約束は忘れるなよ」
「ああ、もちろんだ。そのためにお前も力を尽くせよ」
「わかっている。練兵場はどこだ」
「お前達の住む部屋などを決めてからだ。ルーク! その辺りも含めて案内してくれ」
「わかりました!」
ということで、彼らの問題は解決。
後は……。
「アーシャ。先頭でよくやってくれた」
俺はアーシャに話しかけにいく。
彼女もかなり疲れていたので、あまり話すに話せなかったのだ。
「ううん。シエラの方が頑張っていた。ちゃんとそっちを褒めてあげてほしい」
「ああ、ちゃんと甘やかしてやらないととは思っている。だが、アーシャにも感謝していることは忘れないで欲しい」
「……」
彼女は顔を隠し、足をゲシゲシと蹴ってくる。
「わかった、悪かった」
「悪くない」
「わかったわかった」
犬がじゃれついてかみついてくるようなものだとわかるようになった。
なので、後ろからうたれる心配ももうしていない。
それくらい一緒にいたから分かる。
そんなことをしていると、声をかけられる。
「あたしも頑張ったんだけどなー。誰か手を貸してくれないかしらねー」
俺達の後ろでそう主張するのはシエラ。
苦笑して振り向くと、脇腹を抑える仕草をしていた。
「わかった。部屋まで案内してやる」
「ほんと? さっすがダーリン。よろしく!」
と、わざと俺の胸に飛び込んでくる。
俺はそれをかわしてお姫様抱っこした。
「さ、部屋に行くぞ」
「え? このまま運んでくれるの? 期待しちゃうぞー?」
「わたしが護衛するからダメ」
「アーシャも一緒にやりましょうよ」
「身体をちゃんと治してから」
「もう……仕方ないわね」
ん? なんか外堀が埋められているような気がしないでもない。
それから俺達はシエラを部屋に運び、ベッドに寝かせる。
「ダーリンの場所も開いているわよ?」
「悪いな。アーシャで我慢してくれ。今はやらないといけないことがあるからな」
「シエラ。わたしで我慢する」
アーシャも俺の悪ノリに乗ってするりとベッドに入り込む。
「ちょっと? これは誰も得しないんじゃない?」
見ている俺は得をするかもしれない。
「ダーリン?」
「いや、悪い。今は本当にやらなければならないことがある。陛下が暗殺されたかもしれないからな」
「それは……しょうがないわね。アーシャの身体で我慢しますか」
「ちょ! 本当に触るな!」
シエラはアーシャの身体をまさぐり始めた。
アーシャはシエラがけがをしたのを知っているのか抵抗はしているが、強く抵抗できていない。
もう少し見ていたい気持ちがあるが、今回はやめておこう。
「ほどほどにな」
「ちょ! 助けて」
「仲良くしましょうよー。あれ? ちょっと大きくなってる?」
と言ってこれ以上は目に毒なので、扉を閉めて部屋を後にした。
それから、俺は急いでシュウを探すと、最初の場所にいて部下と話していた。
「シュウ」
「ユマ様、情報の裏が取れました。やはり国王陛下は暗殺されたようです」
「急進派の動きが早すぎないか?」
「それだけこちらを警戒しているのかと。ただ、朗報……と言っていいのかわかりませんが、暗殺犯を捜索中ということで、こちらをすぐに攻める気はないようですね」
「本来であれば俺達を殺す予定だったから……か?」
「それができていれば、発表して、穏健派の他の領地へ攻めていたと思います」
「だろうな」
ということではあるが、俺達が無事に帰ってきて、練兵などもかなり進んでいる。
であれば、後することは……。
「こちらから仕掛けるぞ」
「そうですね。いずれぶつかります。相手の準備ができていない今が最上かと」
「ああ、父上に領内のことは任せ、俺が奴らの領地を奪う。シュウ。これからも働いてもらうぞ」
「……はい。お任せください」
ただ、問題はある。
このことを……メア殿下にも伝えなければならないということだ。
「必要であれば僕がお伝えしますが……」
「いや、俺が伝える」
「かしこまりました」
ということで、俺は部屋に戻っていたメア殿下の元へ向かう。
コンコン。
「開いておりますわ」
「失礼する」
俺が部屋に入ると、彼女は1冊の本を読んでいた。
俺の姿を確認すると、本を閉じて机に置く。
「いかがされました?」
「……陛下が暗殺されました」
「………………」
一瞬目を見開いた後、目を閉じてうつむく。
「そう……ですか……父上が……」
辛そうな彼女の隣に腰を下ろす。
「俺にできることはたいしてない。なんと言おうと、偽善でしかない。だが、隣にいることは許してくれ」
「……ありがとうございます。であれば」
彼女は俺の胸に飛び込む。
俺は動くことをせずに、ただ彼女の為すがままにしていた。
彼女は涙を流し、俺はただそこにいる。
「しばし……しばしこのまま……いさせてください」
「ああ」
「父上……」
彼女は……涙を流し続けていた。