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第127話 急進派のダゴンの詰問

 急進派の居室にて。


「失敗しただと!?」

「は、近衛騎士弓兵、魔法兵共に壊滅。騎士は多少の損害で済みましたが、隊長は戦死されたとのことです」

「……何があった? グレイルの奴らが王都にまで軍を差し向けていた訳ではあるまいな?」


 ヘルシュ公爵も衝撃を隠せないようだった。

 それほどに、今回の作戦は成功する物だったからだ。


 ハムロ伯爵もフィブルス侯爵も同様に口が開けない。


 秘密裏に近衛騎士を動かし、暗殺を計ろうとした。

 それが失敗したのだ。

 なにより、敵対勢力の旗頭であるグレイルの2人を仕留めきれなかった。

 相手は護衛対象が多くおり、こちらは戦闘員だけ、それも近衛騎士という戦力を投じてまでの失敗。

 戦争となった時に勝てるのか? という言葉が脳裏にちらつく。


 それから、報告を聞いたヘルシュ公爵は険しい顔をして、腕組みをしたまま考え込む。


「………………」


 他の者達もそんな彼に話しかけることはできない。

 誰しも不要な怒りは買いたくないもの。


「……生き残った指揮官がいたな?」

「ダゴンという最近勧誘した者でよろしいでしょうか?」

「そいつを連れてこい」

「は!」


 報告した者は逃げるようにして部屋から出ていく。


 その間、ヘルシュ公爵は黙って扉を睨みつけていた。


 しばらくして、ダゴンは急進派のトップを相手にするとは思えないノリで部屋に入ってくる。

 片手には酒を持っていて、余裕といった様子だ。


「失礼しますぜ~。何かお話があるとのことですが?」


 彼は部屋に入ると、重苦しさに眉を寄せても態度は変えなかった。


 ヘルシュ公爵は単刀直入に聞く。


「最期の言葉はあるか?」

「最後の言葉? なんでです?」

「此度の作戦の失敗の責任はキサマにある」

「ありませんよ」


 ダゴンは即座にヘルシュ公爵の言葉を否定する。


 それを聞いた急進派の2人は冷や汗を流す。

 ヘルシュ公爵の言葉を平民風情が否定する。

 それは死を意味する言葉だ。


 まぁ……すでに責任を取らされて死にそうだから関係はないかもしれないが。


「貴様、この私の言葉を否定するのか?」

「間違っていることを間違っていると教えてくれる忠臣はいないんですかね?」

「……ではどう間違っているのか言ってみろ」

「その前に、部下からの報告されたことを教えていただいても?」


 ハムロ伯爵とフィブルス侯爵はドキドキしていたが、会話は思いのほか淡々と進む。


「いいだろう。まずは貴様らが……」


 と部下からの報告を要約すると、

 ダゴンらが後ろから奇襲をかけたが失敗。

 それにより敵に警戒され、しかもそのまま撃退された。

 その影響で近衛騎士達が造った土の城壁も突破される。

 それもこれもダゴンが奇襲をしたからに他ならない。


 ということであった。


「想像以上に合っていますが、違っていますね」

「どう違う」

「俺達が奇襲をしたことと、城壁を突破されたことには因果関係がない。ということです」

「お前達が奇襲をやってもやらなくも城壁は突破されていたと?」

「ユマ・グレイル……奴1人にこちらの精鋭が壊滅したからですね。包囲できなかったとは言え、こちらの数は多く、相手は護衛もいる。そんな状況で傷一つつけられない。そんな相手に奇襲をすることは関係ないんですよ」

「またあいつか……」


 ヘルシュ公爵は苦虫をかみつぶしたような顔になる。


「ええ、もし最初に俺達が奇襲を仕掛けなかったとしましょう。奴らはゆっくりと行き、城壁の存在に気付くと思いますよ」

「別に気づかれてなんの問題がある。その頃には周囲の包囲が完成している」

「《焼尽龍姫》の魔力が削れていないんですよ。それに、考える時間を与えることにもなる」

「どういうことだ」

「そこでこちらが張っているとバレ、あそこに城壁を気づかれた時点で、敵には別の選択肢が生まれます」

「どのような選択肢だ?」

「林を魔法で吹き飛ばすんですよ」

「……」

「そんなこと……と思いますか? あの《焼尽龍姫》に……ユマ・グレイルの魔法もけた違いでした。その程度のこと、できないと言えますか? 林をさっさと切り開き、そこから脱出されれば城壁にいた兵士等かかし以下。道中後ろから追いかけるだけで、少ししか攻撃しなかったのもあの城壁に追い込むために必要な奇襲だったのですよ」


 ダゴンの言葉に、ヘルシュ公爵はじっと黙る。


 その代わりか、ハムロ伯爵は口を開く。

 ただ、それはいかにダゴンが悪かったのかと考えようとするものでしかなかった。


「で、ではお前達の奇襲で奴らが引き返した場合どうするつもりだったのだ!?」

「その場合はこちらも引きますね」

「そうだったら貴様の選択は間違いだろうが!」

「その途中で時間稼ぎをしつつ、《暗雲轟雷》を林に忍ばせてグレイル候爵の馬車をうっていましたよ。魔法使いがそこそこいたので、相手の足を止めさせながらならですがね」

「そ、それなら最初から奴を林に忍ばせておけば……」

「グレイル候くらいならとれていたかもしれませんね」

「なら!」

「その代わり、《暗雲轟雷》が討たれる可能性もあった訳ですが、一度負けている……という話でしたよね? しかも、ユマ・グレイルの方とだったら交換でも全然いいですが、死にかけの方の侯爵とでは割に合わないと思いません?」

「それは……」


 ダゴンの言葉にハムロ伯爵は言葉を失う。


「という訳で、あれを殺すなら《剣聖》くらい引っ張ってきてくださいよ」

「……なるほど」


 ヘルシュ公爵は黙ったままだったが、ついに口を開いた。


「貴様なら奴を殺せるか?」

「俺に全軍の指揮を握らせる度胸があるならですが」

「……」


 ヘルシュ公爵は迷っていた。

 このような奴に全軍の指揮を握らせたくなどないが、ユマ・グレイルを殺すにはそれくらいしなければならないのではないかと。

 今までの戦いも、奴は常に勝ってきた。

 それを殺すには相応に有能な者でなければならないからだ。


 彼は迷った末、注文を出す。


「条件がある」

「どのような?」

「不利な条件で私の配下の将軍を討て、模擬戦だがな」

「お安い御用です」

「ふん」


 ということで話は終わり、振りどころかかなり不利な条件で戦うことになった。

 その結末は……。


「くっ……無礼だぞ」

「戦場で無礼等気にするバカから死んでいくんだよ。というか、公爵家の将軍がこれか? 弱すぎてあくびが出る」


 ダゴンの圧勝だった。


 仮にも公爵家の将軍、貴族である相手を縛り上げてあしげにする。

 酒を飲みながらヘルシュ公爵に向かい合っていた。


「……いいだろう。お前に全軍の指揮権を与える」

「おう。ちゃちゃっと勝ってやるぜ。すぐにはじめていいんですかい?」

「いや、まだ準備ができていない。そのために来年の春までは待て」

「準備ができていない……どういうことですかい」

「その通りの意味だ。だが、時が来れば分かる。それまでは軍を掌握しておけ」

「へへ、まぁ、それに多少時間はかかるからなぁ。わかりましたぜ。領主様(・・・)


 ダゴンはそう言って、穏健派に勝つため、そしてその後のことにも考えを巡らせる。


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