第125話 近衛騎士の誇り
少し時は遡り、俺は馬車が止まったことに驚いていた。
「シュウ! 何があった!?」
「わかりません! 前が止まりました!」
「前が……」
俺は後ろから来る奴らを警戒しながら考える。
前方……先頭は林から出ていてもおかしくはない。
そこで止まったということは、アーシャやシエラでも突破出来ない状況になったということか。
伏兵……それも土魔法の城壁か掘りがあった? こちらの帰還ルートまで正確に読まれている。
そんなことができるのは……ダゴンくらいか。
奴がいる時点でそこまで読まなければならなかった。
読んでいても、俺がここから離れることは出来なかったので意味はないかもしれないが。
ただ、俺が行かねばならんな。
こちらが止まったのに、警戒をして近づいてこない敵。
最初からその想定だったのかもしれない。
「来ないのか?」
「あんたならもうわかってんだろ? こっちは伏兵でゆっくりと殺していけばいい。あんたの首を俺の手柄にしたかったんだがな。それだけが心残りさ」
「そうか」
俺は馬車から飛び降り、すぐ近くにいた男に近寄りフードをはぐ。
「な!」
「当たりか、こい」
「やめ!」
俺はその男、ジャックの首根っこを掴んで馬車まで戻る。
そして、彼に馬車の中で伏せているレナを見せた。
「レナ様!?」
「ジャック!? どこにいたのですか!?」
「俺はおぶ!」
俺はジャックを床に投げ捨て、後ろからの攻撃を斬り落とす。
「ジャックよく聞け。レナはグレイル領に入ることになった。レナに仕えるお前はどうする」
「そんな! ヘルシュ公爵様はワドランディ家の再興を約束してくださった!」
「守ると思うか。あいつらが」
「それは……」
ジャックは答えられずうつむく。
「そういうことだ。それに比べ、ここで俺に実力を証明しておけば、ワドランディ家の再興を約束してやる」
「ほ、本当に……?」
「この危機的状況を救った者を遇さずして誰を遇するのだ?」
「……わかった。だが勘違いするな。俺はレナ様に忠誠を……「わかっている。時間がない。ここは任せるぞ」
「は? いや、お前は」
「俺は先頭に行く。だがその前に!」
俺はジャックに馬車の護衛を任せ、後衛のダゴンやサギッタの連中に向かって突撃していく。
時間が惜しい。
いつの間にか逃げていたダゴンやサギッタの連中数人を除き、他の者達の首を全員刎ねていく。
今まで突っ込まれなかったのは俺に突撃できない状況があったから。
それが変わればいつでも行く。
そのことに頭の回らなかった連中はもう起きてくることはない。
俺は馬車に戻り、シュウに言う。
「こちらの指揮は任せる。先頭は俺が必ず斬り開くから待っていてくれ」
「わかりました!」
俺は1人先頭に向かい、道中の敵を斬り殺していく。
その中の後ろの方にいた数人に、シュウの元へ行くように話す。
「あそこが先頭か」
何かえげつない魔法が放たれ、城壁に風穴があいていた。
ただ、その状況はかなり厳しく、アーシャは矢も切れながらも、地面に刺さった矢を手にとって迎撃し、リリスは矢が刺さったままシエラを支えようとしている。
シエラは……顔から血を流し、ぐったりとしていた。
俺は敵の攻撃で倒れかけたリリスとシエラを抱き留めた。
「よくやってくれた。シエラ」
「……」
シエラは何も言わず、ぐったりとしている。
「リリスもよくやってくれた。立てるか?」
「は、はい。でもシエラ様が……」
「わかっている。馬車にだけ運ぼう」
「はい」
俺は彼女を優しく運び、そっと馬車の中に寝かせる。
「リリスも入っておけ。アーシャ。ありがとう。後ろの援護をしてくれ」
「ユマ様。でも……」
「ここは俺がやる」
「……はい」
俺は右方向に単騎で突撃する。
矢や魔法が飛んでくるが、今までの戦闘に比べたらおままごとのようなもの。
必要な物は迎撃し、不要な物はそのままスルー。
「はぁ!」
俺は斬魔法を発動し、敵城壁を斬りつける。
しかし、少しヒビが入った程度でしかなかった。
その城壁を破ったシエラを帰ったら褒めてやらねばと思う。
そのためには……。
俺はヒビを足場にして一息で登り、上にいた数人の首を刎ねる。
「逃げられると思うなよ」
「ひぃ!」
俺は悲鳴を上げた者の首をさらに刎ね飛ばし、速度を緩めることなく殺していく。
敵は腐っても近衛騎士ということか、魔法兵や弓兵でも抵抗しようとしてくる。
杖や短剣を俺に向けてくるのだ。
だが、奴らには足りないものだらけだ。
遠くから攻撃し、近くで殺し合う者同士の殺意が足りない。
ギィン!!!
「ほう。少しはできるな?」
「近衛騎士隊長として、お前ていどかひゅっ」
「お前の名前等いらん」
「隊長が、隊長がやられた!」
「無理だ! 無理だ!」
敵の隊長の首を飛ばしたせいで、残っていた者達は背を向けて逃げ始める。
「おいおい、それでも近衛騎士か? 背中に傷を受けることに誇りはないのか」
俺がそうひとり言をつぶやくけれど、彼らは逃げるのをやめない。
「ならせめてもの慈悲をくれてやろう」
俺は逃げる者達全ての首を斬魔法で斬り飛ばす。
「首が飛べば背中からの傷ではない。良かったな。近衛騎士の誇りと共に逝け」
俺はそれから城壁の敵のほぼ全てを掃討した。




