第122話 撤退戦
「お前はダゴンか?」
「へぇ、グレイル領主様に知られてるたぁ、悪くはねぇな」
奴の名はダゴン。
国内で指揮官としたら超がつくほど優秀な人物。
そんな彼のステータスがこちら。
名前:ダゴン
統率:93
武力:74
知力:85
政治:80
魅力:61
魔法:30
特技:指揮、鼓舞、冷静、反骨、酒乱、殲滅、追撃、堅守
ここまで特技がついているキャラが今までいただろうか? いや、いない(反語)。
ただ、これら全てがいいという訳ではない。
酒乱は酒に弱く、勝ちがほぼ決まると勝手に飲み始めてデバフになる。
まぁ……こっちはいい。
基本的に勝ち確になったらそこまで影響はないから。
でも、もう片方が問題だ。
反骨。
これは主を裏切りやすくなるという物。
というのも、これだけ性能が高ければ、自分の国を持ちたいと思う人物が出てくるのも世の常。
その例に漏れず彼はそのような人物だったのだ。
仲間になった最初は問題なくその才覚を発揮してくれる。
しかし、国を統一し、他の国との争いごとを起こしていくと、かなり厄介な存在になっていく。
自分を厚遇しろ、主としての器を見せろ。
でなければ……という感じで重要な局面で裏切りをしてくるのだ。
俺がこいつを仲間にしに来なかったのにも理由がある。
俺自身がより強く、そして成果を出して奴に俺を主として認めさせる。
そうしてから仲間にしようと思ったのだが……そのせいでまさか敵方にいるとはな……。
「そんなお前がヘルシュ公爵につくとはな」
「なんのことだ? 俺の今の主は誰だろうなぁ」
ちゃんと喋りながらも手の内は明かさない。
ちゃんと頭が回る優秀な人間だ。
「そうか。こうやって話すだけで帰ってくれると嬉しいんだがな」
「それはできない相談だ。これでも国に対しての忠誠心はあるからなぁ」
「先ほど、国王殺し……と言っていたが、なんの話だ?」
「あ? てめぇらが国王様を殺したんだろうが、それで逃げている。違うか」
「そんなことする訳がない」
「犯罪をした奴らはみんなそう言うさ」
しかし、もしや本当に国王陛下が暗殺された?
急進派はもうすでに動き出している……ということか。
それでこうやって襲ってきたということになっているのだろう。
国王が……。
俺自身がそのことを考えるよりも、先にこの事実を父上に伝えるかどうかに頭がいった。
父上は陛下と親しくしていた。
そんな相手が暗殺された等と……。
「今はこちらが先か」
それ以降を考えるのは領地に戻り、父上の回復を待ってからでいい。
今は俺達が生き残る方が先決だ。
そして、視界の端に騎馬が見えた。
ダゴンもただ時間稼ぎをしていた訳ではないようだった。
シュウもそれに気づく。
「ユマ様! 林の中に敵騎馬がいます!」
「数はいくつ見える?」
「1騎かと」
「あの奥にももう1騎いるぞ」
「……わかっていらしたんですか?」
「当然だ」
「なら、放置はできないのでは?」
「いや、あれは放置でいい」
「……なるほど。そういうことですか」
シュウは俺の言っていることをすぐに察した。
あの騎馬は2騎、所詮2騎。
俺を無視して中央に行ったとしても、ルークやゴードンが守ってくれるだろう。
なら、敵は戦力分散をしただけで問題はない。
まぁ、ダゴンならそのことはわかっているだろうが。
「ほうほう、あいつらの存在を知っていながら無視か。中央にもそれなりの敵がいるようだな。ちゃんとしてやがるなぁ」
「大人しく帰ってくれると嬉しいんだがな」
「そいつぁできねぇな。次だ。やれ!」
ダゴンが叫んだ瞬間、左右の騎馬が短杖をこちらに向ける。
そして、魔法を放ったのが分かった。
「そこか!」
俺は直感で動く。
左右から来る不可視の一撃、おそらく風魔法の攻撃の線上に斬魔法を置く。
これだけで敵の魔法は霧散するはずだ。
だが、それだけではない。
敵の攻撃は地面にも向けられていた。
そう、地面からの攻撃と言えば土魔法だろう。
俺は地面に向かって斬魔法を放ち、敵の魔力による土への干渉を斬る。
斬!!!
敵は俺のやったことが理解できていなかった。
その証拠に全員が目をむいて俺を見つめている。
「シュウ。一瞬止めろ」
「はい!」
「「ヒヒィィィィィィン!!!!!」」
次の瞬間には馬がいななきを上げて前足を上げる。
そしてこちらが止まれば、敵の足はそのまま進んでくる。
すぐ後ろに迫っていた敵は、俺の魔法の射程内になった。
「じゃあな」
俺は斬魔法を使い、先ほど魔法を放ってきた3人の首を刎ねる。
「!」
「シュウ! 出せ!」
「はい!」
シュウは即座に馬に鞭を入れて動き出す。
魔法使いは殺しておかなければならないが、囲まれるようなことをしていけない。
そのための行動が今の行いだったが、シュウがすぐに聞いてくれて助かった。
「おいおい……俺達だけでお前ら全員殺す気で来てんだぜ? 逆に全員殺されそうになってんだが……つか、どうやって見抜いたんだよ」
「勘だよ」
「勘……くそが。そんなの対処できねぇよ」
ダゴンはそうはいいつつも、何やら考えを巡らせている。
だが、俺がやることはこの林を抜けるまでこいつらを抑えること。
林から出ることさえできれば、シエラがこちらに来て殲滅できるだろう。
ダゴンはこちらに口元を読ませないように隠しながら相談をしている。
馬に乗りながらではあるのに、かなり器用なことだ。
「始めろ! さっさと次期グレイル領主を殺すぞ!」
今まで隠していたのに突然そう叫ぶ。
ということは、何かの合図である可能性が高い。
だが、それを考える時間はなかった。
俺達の後ろにピッタリくっついていた連中が3騎進み出てくる。
そいつらの手には武器を持っているが、それ自体がフェイクか。
もしくは陽動か。
「死ねぇ!」
3騎はそれぞれ武器を突き出してくるが、その攻撃に殺気はあまり感じない。
それこそ、何かを狙っているような……。
近くにいる敵の数は5騎。
正面に3騎、左右に1騎ずつだ。
そのうちのそれぞれから1騎ずつが前に出てきている。
何かするならその後ろにいる連中だろうか。
「だが、全て斬り裂けば問題ない」
俺は正面から来る敵に意識を半分向けて迎え撃つ。
しかし、俺が右手の剣を左に振りかぶり反撃に転じた瞬間、敵はすぐに足を緩めた。
「しっ!」
俺が振りかぶったのを狙い、正面にいた2人がナイフを投げてくる。
狙いは顔と心臓。
どちらも躱せなければ致命傷になる場所を狙っている。
さらに俺の後方……進行方向、シュウの方から林に隠れていた2騎が飛び出してきた。
しかも、狙いは俺ではなくシュウ。
シュウを殺して御者がいなくなれば、それだけで俺を排除できると思っているのだろう。
さらに、俺がそれを助けに行こうとすると、ナイフが俺に当たるように計算されている。
だが、
「舐められたものだな」
俺は空いている左手で顔に飛んでくるナイフを掴んでシュウを斬り殺そうとしている人に投げる。
「ぐぁ!」
奴はそのまま落馬し、地面を転がっていく。
もう片方のナイフは剣の底で叩きつけてはたき落とす。
「間に合うまい!」
奇襲してきた1騎が、そう言ってシュウに剣を突き出す。
シュウは身体を丸めてなんとかしようとしている。
こんな時でも逃げ出そうとしない忠臣だ。
そんな大事な者は守らなければならない。
「はぁ!」
俺は使わなかった斬魔法を発動させ、奴の剣を根本から叩き斬る。
バギィン!
「な……」
「惚けている暇があるのか?」
俺はそう言って奴の首をそのまま刎ねた。
「おいおい……こっちは精鋭を連れてきてんだぞ? あんなのどうやって殺せっていうんだよ……」
「お前ら程度で俺を殺せると思うなよ。幾千の屍の上に立っているんだからな」
動揺する敵をそう言ってにらみつけ、アーシャやシエラ達は無事だろうかと思案する。