第121話 襲撃者
「え……は?」
「あ! いえ! なんでもありません! なんでもないです! 気にせず戦ってください!」
「わかった」
今は彼女の言葉の真意を知るとかそういうのはいい。
とりあえず、この状況を脱することが先決だ。
戦闘の音を聞いたのか、少し前を進んでいた騎士が戻って来る。
左右両方を守っていた騎士の内、左の騎士が叫ぶ。
「ユマ様! ご無事ですか!」
「ああ! 問題ない!」
「私が行き、奴らを血祭りにしてきます!」
「いや! 待て!」
俺が止めるが、騎士は敵に向かって馬の向きを変えた。
ズドォン!
次の瞬間にその騎士は馬ごと矢で貫かれてしまっていた。
俺は反対側の騎士に向かって叫ぶ。
「急ぎ先頭に行き速度を上げるように伝えろ!」
「は、はい!」
「それと! シエラ達に援軍はいらないと言え! まずはこの林を抜けるまでは来るなと!」
「かしこまりました!」
その騎士は反対側であったことを見ていたからか、すぐさま馬に鞭を入れた。
しかし、味方が先頭に行き、速度を上げさせる前に敵に追いつかれるだろう。
その間、俺は1人で敵を止めなければならない。
シエラ達を呼ばなかったのも理由はある。
こちらに来ている最中に、先頭が潰される可能性を排除するためだ。
奴らは林に入ったタイミングを狙っていた。
なら、必ずどこかに敵の伏兵がいる。
アーシャが索敵し、シエラが魔法で防御すれば守れるはず。
ズドォン!
そうやって考えている間も、《暗雲轟雷》は構わずに矢を放ち続けている。
ただ、全ての矢は俺が斬り落としている。
受けるだけで精一杯だった昔とは違う。
今の俺は全て見切り、斬り落とせるまでになった。
俺より後ろの馬車を狙ってもいるけれど、それすらも俺は斬り落としていく。
「すごい……」
「ユマ様って今こんなことできるんですか?」
「俺だって成長するさ」
「成長の度合いが半端ないと思います」
「そうでもない」
俺はなんたって最強だ。
この程度の攻撃は朝飯前。
しかも、運のいいことにか、考えがあるのか敵が近づいてこない。
距離を保っているのは、俺との直接戦闘を避けるためか。
その方が万が一もなくて助かる。
そうやって斬り落としていると、今度はサギッタの連中が全員で弓矢を構え始めた。
「おいおい、10本以上は流石に聞いてないな」
「僕も伏せておいた方がいいですか?」
「私はここにいていいんでしょうか……」
「心配するな。俺が守ると言っただろう」
俺はそう言って2人を安心させる。
次の瞬間、奴らが同時に矢を放ってきた。
《暗雲轟雷》ほどではないが、剛弓で知られるサギッタの里。
他の者達もかなりの威力を誇っていた。
「だが、《暗雲轟雷》だけに任せ過ぎたな」
俺は《暗雲轟雷》の矢は自身の剣と魔法で撃ち落とし、他の矢は斬魔法で線を引くようにして撃ち落とした。
ズバァァァァン!!!
砕けた矢の破片が飛び散る。
「この程度の攻撃で俺を殺せると思うな」
「かっこいい……」
「ユマ様、それだけ強いなら、こっちから攻めたらダメなんですか?」
シュウの言葉に俺は答える。
「大事なことは父上を守ること。俺が攻めている間に林から出てきたらどうする気だ」
「……そうですね。失礼しました」
「いいさ。俺も状況が許すならこちらから出向いている」
相手の矢がなくなるのが先か、奴らがうち抜けるのが先か。
その根競べかと思っていたら、敵が違った動きをしてくる。
「ん? 今度は向かってくるのか?」
サギッタの連中が馬間を開け、フードを被った連中が突撃してくる。
そのころにはこちらの馬車の速度も上がっていたけれど、馬車と馬では速度が違いすぎる。
どうして来るのかと待ち構えていると、3人の騎馬が突っ込んできた。
彼らは全員槍を持ち、タイミングを合わせて俺を突いてくる。
「たぁ!」
「とぉ!」
「はぁ!」
「悪くはないな」
俺はまず、後ろの馬車を狙っている、《暗雲轟雷》の矢を剣で斬り落とす。
その返す刀で前左右から来る槍の穂先を斬魔法を乗せた剣で斬り飛ばした。
ズバァン!!!
「な!?」
「ん!?」
「だ!?」
3人の息の合った連携を見て、欲しかった人材である3兄弟に似ているなと思う。
彼らは俺に穂先を斬り飛ばされた後、すぐに下がって俺の射程から出る。
先ほどまでの戦いでその辺りは見ていたようだ。
なかなか戦い慣れている。
では次とばかりに、10体の騎馬が前に進み出てくる。
その中の1人が酒瓶をあおりながら指示を出す。
「よーし! いいかてめぇら! 数で囲め! だが決して前に出過ぎるなよ! 奴の力を舐めるんじゃねぇ!」
「はっ!」
そう言って、今度の敵は左右に3騎ずつ、俺の正面に4騎という風に囲んでくる。
ただ、俺達の馬車より前に行こうとすれば俺の魔法が届く距離。
それを奴らは知っているのか、適度に迫ってくる。
それ以上来るなら斬る。
俺がそう思ったタイミングで、敵が声を上げた。
「今だ!」
バッ!!!
「何!?」
なんだと思ったそれは、黒くて丸い爆弾のような物だった。
それが上空に投げられていた。
「ちぃ!」
俺は斬魔法を使い、それを撃ち落とす。
次の瞬間。
ボシュゥゥゥゥ!
煙が噴き出し、俺達の視界を塞ぐ。
「こんな場所で煙幕? なんの意味が……」
馬車で走りながらの煙幕等すぐに晴れる。
だが、敵は《暗雲轟雷》。
最初から狙いをつけていた俺の後ろの馬車目掛けて矢を放っていた。
「そこか!」
俺はすぐにその意図に気づき、風きり音を頼りに撃ち落とした。
ズバン!
「危ねぇ……やるじゃないか」
「撃ち落とすとか化け物かよ!?」
「あれだけ撃たれればわかる。後は、そこか!」
「ぐあ!」
一瞬の煙幕に乗じて、馬車に取り付いていた奴の首を刎ねる。
「いやいや、やべーだろ。1人で何人分の働きする気だよ。あれを殺せって100人で囲っても無理なんじゃねーの?」
「ユマ様は単騎で200人に囲まれても勝てるほど強いんですよ!」
ピリ。
シュウの言葉に、さきほどまで殺意を向けていた連中の動きが硬くなる。
だが、先ほどから声を上げている敵指揮官らしき男は楽しそうに笑う。
「マジかよ! じゃあこの人数で殺したら俺様の名が上がっちまうなぁ!」
「できるものならやってみろ。暗殺者風情に俺は殺せんがな」
「……暗殺者ねぇ……国王殺しの反逆者がよく言う。別に隠す必要もねぇし、死ぬ前に教えてやるよ。グレイル家を滅ぼした男の顔をな」
そう言って、指揮官はフードを取る。
「お前は……」
「おや、俺様を知っているのか?」
「……ああ」
彼は俺が王都で勧誘しようとしていた男だった。
性格に難はあるが、指揮能力は抜群の彼だ。
ということは……もしかしてこの連中は……。