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凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第120話 ことは起きた

 少し時は遡り、とある王都の一室。

 そこではいつものように急進派の面々が会議をしていた。


 最初に口を開いたのはフィブルス侯爵だ。


「しかし、議会でのゼノ殿下は見ていられませんでしたな」

「ああ、我が娘をくれてやったというのに、小娘1人いい負かせないとはな」

「儂の時も確認のために頷くことばかりで、ほとんどこちらが決めたのですよ。将来性はありそうでしたが、それが開くのはいつになるやら」

「どちらでもよい。開けばこちらのいいようにやらせるだけ。開かなければ適当に寝たきりで我々が舵取りをすればよい」

「なるほど、愚問でしたな」

「そんなことはない。しかし、奴らでもダメか」


 フィブルス侯爵と話していたヘルシュ公爵は、ダルそうに侯爵を見返す。


「ええ……王都でもそれなりの腕前と聞いていたのですが……所詮平民風情でしかない。あれだけの数と装備を揃えておいて護衛の誰も殺せないとは」

「まぁ、それだけ奴の所の戦力は強い。奴自身もだが、我々から《焼尽龍姫》を奪って行った奴らだからな。対策はしていたつもりだが……」

「伊達に戦い抜いてきた猛者達ばかりではないか」

「あの……そんな奴らと一緒に議会をして、危険ではなかったのですか?」


 そう2人の会話を遮るのはハムロ伯爵だ。

 ユマの戦いぶりを直接見ていたこともあり、対面するのにかなり警戒をしていた。


 そんな彼を、2人は笑い飛ばす。


「はっは! なかなか面白いことをおっしゃられる」

「違いない。いくら奴らが強かろうが、そんなことはできんよ」

「できない……ですか?」

「左様。いくら奴が強くとも、武器もなしにバゼルを止めることはできない。奴はカゴリア騎士団長を超える武力の持ち主だからな」

「そこまで強いのですか」

「ああ、奴はこちら側の提案にのってこないだろう。絶対の忠誠を国王に誓っているからな。そして、バゼルが奴を止めている間に他の近衛騎士が議会に駆け付け、奴らを殺す。むしろ襲って欲しかったくらいだぞ?」

「近衛騎士はどれほどこちらの味方なのですか? 半分程度は買収できているのでしょうか?」


 ハムロ伯爵の言葉に、ヘルシュ公爵はニンマリと笑う。


「そうか、知らなかったか。バゼルの部隊と第4近衛騎士部隊以外は全てこちら側だ」

「そこまで……では、むしろこちらから仕掛けた方が良かったのでは……」

「いいや、そうするとバゼルが敵に回る。奴が敵に回るとどう転ぶかわからないからな。だからやらなかった」

「なるほど……」

「知らなければ無理はない。それよりも、ちょうどいいからグレイル領の連中を殺すぞ」


 ヘルシュ公爵の言葉に、ハムロ伯爵はぽかんと口を開け、フィブルス侯爵はやっとかという顔をする。


 伯爵は絞り出すように聞く。


「それは……どのように」

「先日から平民達の多くを雇い入れたのは知っているか?」

「は、はい。王都で勇名のある者に片っ端から声をかけていると……」

「そうだ。その者達を使い、グレイルの奴らが帰る途中に襲わせる。失敗したら所詮平民ということ。成功したらそのまま使い捨ての駒として雇っておけばよい」

「成功するでしょうか……奴らはただの平民、いきなり貴族を襲撃しろなどと……」

「それについてだがな。フィブルス侯と話していたのだよ。そろそろ席を空けてもらうべきではないか……とな」

「席を……開けてもらう?」


 ヘルシュ公爵はゆっくりと頷いて答える。


「そう、ゼノ殿下に次の国王になっていただくのだ」

「……ついに……ですか」


 ハムロ伯爵はごくりと喉を鳴らす。


「ああ、そして、グレイルの奴らは陛下を殺した反逆者として喧伝(けんでん)する。平民の奴らはそれで少なくとも戦うことはするだろう。国王を殺した反逆者を打倒した英雄の名は誰でも欲しいものだからな」

「……わかりました」

「もう動かしているのですかな?」


 フィブルス侯爵の問いに、ヘルシュ公爵はにやりと笑う。


「ああ、すでに……ことは起きている」

「なんと」

「さぁ、喜ぼう。国王を片付け、穏健派の馬鹿共を消し、この国を最強の国にする時だ」


 ヘルシュ公爵の言葉に、2人はただ黙って頷いた。


******


 私はメアが去った後、中小貴族達に送るための手紙を書いていた。


 部屋の外はバゼルが守っているので、この部屋に入られる心配はないだろう。


「しかし……メアがあそこまで考えられるようになっているとはな……。たいしたことはしてやれなかったが、うれしいことはない」


 政務にかかりきりで、遊んでやることも、何かを教えてやることもできなかった。

 王として、本当に自分のやったことは正しかったのか、もっと多くの民達を救えたのではないか。

 そんな後悔と共に政務をしてきた。


「いや……十分に恵まれてきた。妻を持ち、優秀な子も得られた。そうすることが出来ずにどれだけ多くの命が散っていったことかを考えれば……後悔をする資格などない」


 私は自分自身に答え、首を横に振った。


「ふぅ……今は私にできることをしよう」


 つい多くなってしまった1人ごとをつぶやく。

 信頼できる相手がおらず、気軽に世間話すらできない。

 それでも、誰かと話をしたくて言葉を漏らす。


「あなたにできることってなーに?」


 その言葉と共に、首筋に冷たい何かが当てられた。


「……誰だ」

「質問に質問で返すの?」

「貴様に答えるような質問はない」

「あっそ、じゃあ、バイバイ」

「な……かっ!」


 スパン。


 あてがわれた何かが簡単に引かれ、喉から血があふれ出るのかわかる。


「ぐ……く……」

「あ、そうそう。わたしは1。ターリイの1。他の子達が死んじゃって色々と忙しいからこれでね。ああ、ちゃんと質問には返す。人としての常識だよ?」

「きさ……ま……」

「無理無理、もうしゃべれないよ。温い仕事なんてわたしはしないからさ。じゃあねー」


 声の持ち主はそう言ってどこかへと消え去る。


 私はそれからすぐに意識がなくなった。


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