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第12話 シュウにとっての大事な部分

 シュウは俺を真っすぐに冷たい瞳で見つめながら問う。


「あなたは、この国をどうするおつもりですか?」

「俺は……どうするつもりもない」

「この国を変えるつもりはない……と?」

「そうだ。俺は俺の土地を守るだけ。それに手を出そうとしてくる奴は全て打ち倒す。それだけだ」

「では……この国……ノウェン国以外の国どころか、外の領地のことさえ気にしないと?」


 シュウの目の温度が更に温度が下がっていくのが分かる。


 けれど、俺のこの感情は心の奥底から湧き上がってくる感情で、俺自身……死にたくないとは思っていても、他の国に手を出したり、領地を攻めようとは思っていない。

 外を攻めたくないという考えは日本で暮らしてきた俺の理性のせいか、それともこの体が元来持つ自身の領地が一番という気持ちか……。

 どちらにせよ、俺の答えは変わらない。


「そうだ。俺は俺の領地を守るためにある」

「お話になりません。我々は我々でやります。お帰りを」

「ならん」

「なぜ?」


 彼の眼はもう人を見るような眼ではない気がするけれど、放っておくこともできない。


「君は俺の領民と言ってもいい。なら、危険なことを見過ごすことはできない」

「……我々山賊を民だと?」

「今のところ君達が被害を出したとは聞いていない。一応……村で少女が酷いことをされて死んだと聞いたが、君達ではないのだろう?」

「我々はそのようなことはしません。先日攻めた山賊達の仕業です」

「だろうな。であれば、お前達はまだ法を犯していない。つまり、我がグレイル領の領民である。何か問題があるか?」


 ユマ・グレイルにとって大事なのは自身の領地だ。

 そして、その場所だけでなく、そこに生きる人、存在する物。

 これを傷つけられた時に、感情のタガが外れるのだ。


 シュウは少し目を見開いた後、俺に聞いてくる。


「では……僕がこの領地の人を殺した時はどうされるのですか?」

「首を()ねる。そうしなければならない理由があると認められたなら、その限りではないが」

「……なるほど、面白い。領地が守られる限り、法は必ず守る……ということですか?」

「そのつもりだが……やむを得ない事情があれば破ることはあるだろう」

「なるほど、もし……もしもですよ。あなたがこの国の王になり、大事な部下……大切な身内でもいい、その方が法を犯したとします。見逃しますか? 処刑しますか?」


 なんだこれ? 泣いて馬謖(ばしょく)を切る的なあれか?

 でもまぁ……どうなるかは犯した罪による……と考えるのが普通じゃないか?


「犯した罪に相応しい処罰を下す」

「……ふふ、なるほど、なるほどなるほど。何も考えていない方かと思っていましたが……こんな所におられたのですね」

「?」


 彼はそう言うと、スッと膝を地面について頭を下げる。


「このシュウ・アズマ。あなたの元で微力ながら尽くさせて頂きます」

「いいのか!?」


 なんか普通のことを言っただけだと思ったのだが、彼には何か刺さったみたいだ。


「はい。今すぐに……という訳にはいきませんが、この場所を片付けたらすぐに」

「分かった。しかし、シュウ、君の部下も配下に加えたい。だが、嫌な者は好きにしてくれていい。それに必要であれば言ってくれ」

「ありがとうございます。準備が終わり次第伺わせていただきます」

「よし! では待っているぞ!」

「はい。これから、よろしくお願いいたします」


 俺はそう言ってくれたならもう大丈夫だろうと、彼らのアジトを後にした。


「ユマ様!」


 俺が意気揚々とアジトから出ると、外は既に真っ暗になっていた。

 そして、俺の姿を確認したルーク達が駆け寄ってくる。


「おお! 待たせて悪かったな! 全て解決したぞ! シュウは今後俺の配下になる! よって、受け入れるために急いでグレイロードに戻るぞ!」

「話の展開が早すぎます!? 説明していただけませんか!?」


 俺はそれから、帰りながらルーク達にどうするのかを説明する。


「そんな……すごすぎます……」

「シュウが味方についたのだ。これでグレイル領もより発展するだろう」

「はい! それもこれも、ユマ様のお陰です!」

「そんなことはない。みなの力があってこそだ。これからも頼むぞ」

「もちろんです!」


 そんな話をしつつ、流石に今日帰るのは無理ということで、翌日帰ることになった。


******


 僕は初めて出来た主を見送った後、このアジトの処理にかかる。


 その指示が終わり、これから作業という時に、部下が数人で近づいてきた。


「どうしたんだい?」

「シュウ様。先代からの知略を持つあなたのことを疑っている訳じゃねぇ。だけど、いきなり領主の元につくなんて、俺達は納得できない。せめて……理由くらいは話してくれねぇか?」

「そうだな……彼は……どんな男だと思った?」

「……はっきり言って、力の底が見えなかった。10人がかりでも、傷一つつけられそうにない」

「なるほど、そう思うか、僕はこう思ったよ。彼ほどの力があれば、それに溺れてもおかしくない。なのにそれをせず、それどころか、法を守る……その気概がある」

「法律……貴族が都合のいい時に振りかざし、都合が悪くなると勝手に変えるあれですか」

「そうだ」


 僕の考えは間違っているかもしれない。

 今、この国は貴族達が自分達の都合で動かしていて、動かしている理由はただの感情でしかない。

 でも、それはその時の者によって勝手に作られ、いつの間にか変わる。

 だからこそ、上にいる者達を縛る何かが必要だと思った。

 そして、それが法だと僕は思う。


 しかし、今の法は彼が言ったように貴族が都合のいい時に振り回しているだけだ。

 でもそれを公表し、キチンと全ての人に守らせる。

 それをしてこそ、国という物が成り立つのではないかと思うのだ。


 ユマ・グレイルという男は、そんな法を守ることが当たり前だと考えている、稀有(けう)な貴族だ。

 これは一種の賭けではあるが、彼にはその賭ける価値がある。


 僕がそう説明すると、彼は納得してくれた。


「分かりました。シュウ様がそういうのであれば、我々もお供します」

「ああ、助かる……と言いたいところだが、お前達は兵士にしておくよりも、密偵として周囲の情報を収集してもらう部隊を作り、そこに配属させたいと思っている」

「もうそこまで考えているのですか?」

「ああ、彼なら大丈夫だろう。僕が仕えてみたいと思える人だからね」

「かしこまりました。それにたる人物であると嬉しいのですが」

「間違いない」


 僕はそれからユマ様のいるグレイロードに向かう準備を着々と進めた。


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