第118話 回復魔法
コンコン。
「はーい」
俺は街中にある、一軒家に来ていた。
後ろにはルークがいて、どうしてこの家に来たのか不審がっていた。
ただ、俺が必要だと言うと、特に文句も言わずに黙っていてくれる。
ガチャ。
「はい。えーっと、どちら様でしょうか?」
扉を開け、そう聞いてくる少女の名はレナ・ワドランディ。
元々はヘルシュ公爵の領地にいる貴族だったのだけれど、そこでの勢力争いの余波で没落した家の娘。
彼女は回復魔法を使えるようになるので、父上を治してもらうために勧誘に来た。
そんな彼女のステータスはこちら。
名前:レナ・ワドランディ
統率:61
武力:39
知力:72
政治:53
魅力:76
魔法:86
特技:回復魔法
という正直あんまり強くない性能をしている。
そもそも『ルーナファンタジア』のゲーム世界において、回復魔法は弱い。
戦場で人等簡単に死ぬし、その前に全員を回復できるようなチートキャラはほぼ存在しない。
彼女の回復は使えるので戦場に連れていくと、回復させたい奴がケガをする前に彼女が死んでしまうこともあるくらいのキャラだ。
なので、領地で大人しくさせておきたいけれど、そんな時にケガをする者はほぼいない。
わざわざ彼女を仲間にするメリットは薄いので、最初王都にきた時は無視していた。
だが、父上を治してもらえる可能性があるのは彼女しかいない。
よって、仲間に……できなくとも、助けてもらえないかと思ってきたのだ。
「俺はユマ・グレイルという。君に頼みがあってきた」
「頼み……ジャックにでしょうか? 彼だったら数週間帰ってきていませんが……」
「いや、君に頼みたい」
「私ですか? なんでしょう?」
「父上を治して欲しい。君の回復魔法で」
「? 私は魔法は使えませんよ?」
「いや、使える。君は自分の力に気づいていないだけだ」
「と言われましても……」
彼女は形のよい眉を困ったように寄せる。
「頼む。君だけが頼りなんだ」
「そう言われましても……」
「魔法の使い方は教える。そうすれば君も使えるようになるはずだ」
「はぁ……いえ、でも、ジャックに相談しないと」
「数週間帰って来ていないのだろう? 時間がない。頼む」
俺が必死に頼み込むと、彼女は渋々といった様子で頷く。
「あの……本当に使えないですからね? いいんですね?」
「ああ、もしもの時は……すぐに送り帰えそう」
「そういうことでしたら……」
「助かる」
ということで、彼女を連れて急いで屋敷に戻ってきた。
それから俺は彼女に魔法の使い方をこれでもかと丁寧に教える。
最初こそはできませんと言っていたけれど、教える内にすぐにものにしていった。
「私にこんな才能があったのですね……」
「ああ、父上を頼む」
「……はい。どこまでできるかわかりませんが、任せてください。私も誰かの力になれると教えてくれてありがとうございます。ユマ様」
「その力は大事な者のために使うといい」
「はい! ジャックばかりに任せてはいられませんから!」
「必要ならそのジャックとやらも我が領で雇おう。検討しておいてくれ」
「本当ですか!? 帰ってきたら話します!」
彼女はそう言って喜んでいるが、俺としてもジャックが仲間になってくれるのはうれしい。
それもこれも、前回勧誘に行った時、仲間にならなかった内の1人がジャックだからだ。
そんな彼のステータスがこう。
名前:ジャック
統率:74
武力:84
知力:63
政治:48
魅力:55
魔法:32
特技:鼓舞、追撃、突撃
という感じで、普通に強く、前線部隊の一部隊を任せるのにちょうどいい人材だからだ。
彼はとある商会に行き、レナの家を再興することを条件にすると仲間にできる。
ただ、その商会に行ってもすでにいなかったので、今回は諦めていた。
レナも本来はそちらが仲間になってから引き入れることができるようになるはずだったのだが……。
今回は助けてもらうということだから、来てくれたのだろうか。
まぁ……何にしても、彼女の力で父上が助かるのなら何でもいい。
ということで、俺達は父上の部屋に行く。
部屋には父上以外にゴードンとシュウがいた。
「ユマ様。もうお戻りに?」
「ああ、彼女が父上を治療してくれるレナ嬢だ」
「あ、あの。よろしくお願いします」
彼女はそう言って頭を下げる。
「それでは、ベッドで寝ている父上の治療を頼む」
「……わかりました」
彼女はそう答えてくれて、父上に近づく。
そして、膝立ちになって父上に手をかざし、魔法を発動する。
「…………」
「…………」
父上もレナどころか、他の誰もしゃべらない。
ただじっと優しい光が父上を包んでいるのを見守った。
どれくらい続いたのだろうか。
数時間続いた所、レナの手から光が消えた。
ドサ。
彼女はそのままベッドに倒れ込んでしまう。
「大丈夫か!?」
俺が慌てて駆け寄ると、彼女はすうすうと寝息を立てている。
魔力を使い切ってしまい、動けなくなったのだろう。
なら、父上は……そう思って彼の方に視線を向ける。
「ふぅ……なるほど、確かに治ったのかもしれんな」
父上は一瞬苦しそうな顔を浮かべたけれど、上半身を起こした。
「父上!」
「ユマ、助かった。これで心置きなく領地に戻れるぞ。準備をしろ」
「はい! シュウ! 急いで領地に帰るぞ。メア殿下達が帰り次第すぐに出られるようにしておいてくれ!」
「……は、はい! かしこまりました」
辛そうな表情をしていたシュウは、俺が話しかけるとすぐに返事をして部屋から出ていく。
「それで、その娘はどうされますか?」
「そう……だな。帰る時に礼金と一緒に送り届けよう」
「はい。かしこまりました」
ということで、彼女は送り返し、俺達は王都を脱出するための準備を始める。
父上にはこんな所で死んでもらう訳にはいかない。
これからも、助けてもらうのだから。
俺はアーシャやシエラ、メア殿下が帰ってくるまで脱出の準備をする。




