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凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第117話 王と王女

「父上!」

「ユマ……そう叫ぶな。ちゃんと聞こえている」

「父上……」


 そう言って優しく微笑む父上は、王都の屋敷にある私室のベッドで横になっていた。



 議会が終わり、俺達もグレイル領に戻ろうとしている最中だった。


 屋敷での準備を整え、馬車に乗り込んだ瞬間。


「ぐぅ……」

「旦那様!?」


 父上はその場にうずくまり、ゴードンが介抱して戻るのは中止された。

 王都一の医師にも診てもらったが何も改善しなかった。


 そのため、俺達は領地に戻れずに王都に留まることになった。



「ユマ……お前達は先に戻れ。領地での仕事もあるだろう?」

「父上、父上がいなければなりません。領民も皆父上のことを待っています」

「そう言ってくれるのはうれしいが、今お前がやるべきことをやる時ではないのか?」

「父上を置いて行くという選択肢はありませんよ」

「ユマ……」


 父上はそう言って少し困ったような顔をする。


「ユマ様。少しお話が」

「シュウ。後にしてくれ。今は父上の側にいてあげたいんだ」

「ユマ様……では、そのままお聞きください。今現在、王都は急進派の影響が急速に広がりつつあります」

「それがどうした」

「こちらの拠点も既にいくつか潰されています。ここも危ないかもしれません。急ぎ王都を出ましょう」

「こんな状態の父上をそのままにしてか? それはできない」

「しかし……」

「シュウ。父上を見捨てろ。そう言っているのか」


 俺はシュウの言葉にそう返して、彼を見定めようとする。

 父上はグレイル領にいなくてはならない人。

 そんな彼を置いていくという選択肢はない。


 なのに、それを提案するシュウは……。


「ユ、ユマ様。落ち着いてください。僕はそのようなことを言ったつもりは……」


 俺はシュウに向かって一歩踏み出す。

 そんな俺の袖を、父上が弱弱しくだが確実に握る。


「ユマ。落ち着きなさい」

「父上……俺は落ち着いて「落ち着きなさいと言っている」


 俺はとても強い言葉に慌てて父上の方を向く。


 彼は枯れ木のようになりながらも、しっかりと俺を見つめていた。


「ユマ。シュウはこれまでずっとお前のために忠義を尽くしてきた。それを疑うことが主としてふさわしいか?」


 父上の言葉を聞き、俺は深呼吸をして頭に血を巡らせる。

 そして、自分の行動を思い返して答えた。


「……ふさわしくありません」

「なら、言うべき言葉があるだろう」


 俺はシュウの方を向き、頭を下げた。


「すまなかった」

「い、いえ。ユマ様にとってそれだけ旦那様が大切ということ。僕の方こそそのことを知っているのに、差し出がましいことを……」


 俺がシュウに謝罪すると、彼は彼で頭を深く下げてくる。


「いや、シュウの言葉にはいつも助けられている。これからもよろしく頼む」

「はい。ユマ様のことをいつも見ておりますので、十分にわかっています」

「そうか……それで、王都がまずいという話だったな」

「はい。かなり危険かと……」


 シュウは笑顔で水に流してくれた。


 俺はそれに応える形で、彼がしたいであろう話に戻す。


 先ほどは頭に血が上って我を忘れかけたけれど、今の状況は良くないのだろう。

 急進派も後先を考えずにかなり強引な手法を取ってきている。

 王都にいる貴族で中立派と穏健派の者はほとんど領地へ戻っているはずだ。


 俺達も戻らなければならない。

 ただ……もう一度考えるが、父上を置いていく選択肢はなかった。


 ならどうするか。

 俺にできること……。


「そうか」

「ユマ様?」

「シュウ、少し出てくる。父上のことは任せた」

「ユマ様!? 外は危険です!」

「ならばシエラとアーシャを連れていく」

「今はおりません」

「何?」


 どういう事かと思い、彼の方を振り向く。


「今現在メア殿下の護衛として王城に行っています」

「王城に……? なぜ?」

「陛下がメア殿下に用があるとおっしゃられて、バゼル近衛騎士団長の部隊が迎えに来られました」

「そうか……ならルークだけを連れていく」

「あの! ユマ様はどちらへ?」

「俺は……医者を連れてくる」

「医者を……」

「父上、待っていてください。すぐに回復させられる者を連れてきます」

「……気を付けて」


 父上の弱い言葉を聞き、唇をかみしめて足を速めた。


******


 わたくしはメア。

 今はアーシャ様とシエラ様に護衛をしてもらい、お父様に会いに来ていた。


「ここより先は護衛の方々には待っていていただこう」

「えーそれじゃあ護衛の意味ないじゃない」


 シエラ様がバゼルにそう言い返すが、彼はその要求をひっこめることはない。


「シエラ様、少々お待ちいただけますか」

「……いいの?」


 先日も襲われたことを警戒してのことだろう。

 だけど、バゼルであれば問題はないはずだ。


「ええ」

「そう、なら待ってるわ」

「よろしくお願いします」


 わたくしは彼女にそう返して、お父様のいる部屋に入る。

 後ろからバゼルもそれについてきた。


 部屋の中ではお父様が椅子に座って本を読んでいた。


「お父様。失礼いたします」

「おお、メアかよく来たな」


 わたくしが挨拶をすると、彼は本を閉じて机に置き、わたくしの方を向く。


「それで、用というのはなんでしょうか?」

「先日のことを話そうと思ってな。バゼル」


 お父様の声で、後ろにいたバゼルはお父様の側に行き、わたくしに向き直る。


「先日、グレイル領の護衛の方々を襲った際に鎧を使われていた第4近衛騎士隊長が死体で発見されました」

「!」

「他にも数名の近衛騎士が死体となって発見されており、調べでは賊に鎧を貸したことがばれるのを恐れて自害した……と報告が上がっておりますが……」

「それは……違うと?」


 わたくしが尋ねると、バゼルは少し顔色を暗くして答える。


「はい。第4近衛騎士隊長は忠義に篤い素晴らしい騎士でした。そんな彼が賊を招き入れるとは考えずらく……」

「他の近衛騎士隊長が何か仕掛けていると?」

「……そうなります」

「解決できないのですか」

「今の者を変えて、よくなるとは思えません」


 そう話すバゼルの表情は暗い。

 というか、いつでもお父様は殺される可能性があるということだろう。

 第4近衛騎士隊長のように、1人ずつ、一人ずつ。


「ではお父様。共にグレイル領へ行きませんか」

「できぬ。国王が王都にいるからこそ。民達の安寧は続く」

「しかし、お父様が暗殺されては元も子もありません。それこそ、国が割れての戦になります」

「もうこの火は止められない」

「お父様……」


 お父様はあきらめにも似たような目をして、わたくしをじっと見つめてくる。


「私はこの国をそれなりに豊かにすることしかできなかった。そして、その結果、貴族達を割ってしまった」


 お父様は、農業を発展させ収入を増やし、豊かになった分を平民達に還元した。

 平民達は喜び、名君と讃える。

 しかし、豊かになり力を持った平民達を急進派の貴族が取り込んでいった。


 父上が豊かにした分はほとんどが急進派の力にされたのだ。

 それを止められる有能な者は中立派にはおらず、穏健派もその力量を持つ者も身体の弱さ故に王城での仕事は耐えられなかった。


「それでも……お父様は素晴らしい王です。後世の者達もきっとそう言ってくださいます」

「どうかな。結局は国を割った最後の王。ということで語り継がれるかもしれん」

「わたくしがさせません。お父様は素晴らしい名君であったのだと。その臣下に私利私欲しか考えぬ愚か者がいたのだと、わたくしが語り継ぎます!」

「ふふ……そうか。それは……楽しみだ。では……これをやろう」


 お父様はそう言って、先ほどまで読んでいた本をわたくしに差し出す。


「これは……」

「この国の歴史書だ。気が向いた時に読むといい。それと……バゼル。2人きりにしてくれるか」

「はっ。かしこまりました」


 バゼルはすぐに頷き、部屋から出ていく。


「メア。お前が議会でゼノに言ったことを聞いた時、私は本当にうれしかった」

「お父様……」

「できるかわからないが、半年後の祭りの時にはお前が次期国王であると宣言しよう」

「いいのですか?」

「ああ」


 彼はそう言ってわたくしを抱きしめてくれる。

 とても優しく、だが力強い抱擁だった。


 お父様はそれから、わたくしの耳元でささやく。


「だが、私の命もそれまで持たないかもしれない。だから、中小の領地の貴族達に、お前を支持するように願う書簡も送っておく。これくらいは送れるといいのだが……」

「お父様……それなら……やはりグレイル領からではダメなのですか? もっとお話を聞きたいです」


 まぎれもない本心。

 立場上あまり会うことはできなかったけれど、それでも彼には大事にされていたと感じる。


 彼はぎゅっと力を込めて答えた。


「できないさ。そんなことをしようとすれば、すぐにでも奴らは私の首をはねようとするだろう。そして、それができるだけの影響力がある。お前達を巻き込む訳にはいかない」

「そんな……でも、ユマ様や他の方々がいれば……皆素晴らしい実力の持ち主です」

「守る相手が多くなれば、それだけ漏れてしまうだろう。お前が犠牲になるかもしれない。それは困る」

「では、グレイル領から軍を連れてきてもらえば……」

「この街から出る頃には、私は生きてはいまい」

「……」

「お前は生き延び、この国を……頼む」

「……はい。お父様」


 お父様はもう覚悟が決まっていた。

 それでも、最期まで国のことを考えていた。

 彼はそれからすっとわたくしから離れて背を向ける。


「メア。元気でな」

「はい。お父様。今まで、ありがとうございました」


 わたくしはそう言って、部屋を後にした。


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