第115話 王の器
次回更新は30日になります。
よろしくお願いします。
俺はメア殿下がゼノ殿下に向かって答えるのを見ていた。
「わたくしは……」
ドオオオオン!!!
次の瞬間、後ろの方で爆音が響いた。
「!」
俺は即座に腰を落とし、音のした方を警戒する。
ゲームではこんなことが起きたことはない。
だからどんなイベントが起きるのか、警戒して損はない。
他の貴族達も警戒した様子だけれど、急進派の連中は落ち着いているように見える。
音がしたのも仲間がいる方なので、正直俺が向かった方が……。
「ユマ」
「父上」
「じっとしていろ。私達は私達のするべきことに集中するのだ」
「……はい」
そんな動揺が広がる中、父上の言葉で俺は落ち着きを取り戻す。
「お前の集めた仲間達はこの程度は対処できるだろう?」
「はい。すみませんでした」
「誰だって心配はするものだ。だが、それでも取り繕うのが貴族たる者の務め。トップが動揺すれば、下も落ち着いてはいられない」
「はい」
父上は本当にすごい。
これからもずっとグレイル領を率いて、俺にもっと教えて欲しい。
いずれは……とも思うけれど、それは10年後か、20年後か。
それでも、生きている間に全てを教えてもらえたらと思う。
そんなことを思っていると、国王陛下が叫ぶ。
「うろたえるな!」
「っ!」
「城は我が近衛騎士達が守っている。何があろうと問題ない。バゼル!」
「はっ!」
そう言って進み出るのは、近衛騎士団団長であるバゼル。
ゲームキャラ的に強く、真面目で国王に忠誠を誓っている。
急進派になびいているとは思わないので、今回のことに関しても問題ないだろう。
「一部隊を率いて音の原因を調査してこい」
「ここの警備はどうなさいますか?」
「部隊の状況は?」
「は! 第1、2がここの警備に当たっております。第3は城の警備、第4は休み、第5、6がいざという時の控えになっています」
「ではこれ以上の警備はいらぬ。必要があれば音の出どころの者達を連れてきてもかまわない。直ちに対処しろ」
「は!」
バゼルはそう言って数人を引き連れて音のした方に向かう。
彼を見送った国王はゆっくりとその場にいる連中を睥睨し、安心させるように話す。
「これで問題はすぐに解決するだろう。メア。話の続きを」
「は……はい」
メア殿下は驚いていたけれど、軽く呼吸を整えてゼノ殿下の方を向いて話す。
「お兄様。わたくしに聞く前に、お兄様の王の器という物を教えていただけますか?」
「ほう。オレのを聞いてからでいいのか? お前が何も言えなくなっても知らんぞ?」
「それほど素晴らしいのであればぜひともお聞きしたいですわ」
「いいだろう。頭の足りぬお前に教えてやろう。王とは、あらゆる者達の上に立ち、従える者のことを指す。ゆえに、王の器とは、あらゆる民に崇められる者のことだ。民は王の言葉を聞き、その通りに行動し、上手くいくことを感謝して王を崇める。それが正しい王と民のあり方であり、王1人で民全てに足る存在でなければならないのだ。そして、それは生まれながらにして決まっている。オレでなければそれは満たせない」
自分が王に相応しいと言うゼノ殿下の話。
メア殿下はそれを黙って聞いていた。
「どうだ? 王の器を理解したか?」
ゼノ殿下は見下すようにしてメア殿下を見る。
メア殿下はまっすぐに彼を見つめ返し、答えた。
「理解できませんわ。そのような戯言」
「な! 戯言だと! 本当に聞いていたのか貴様!」
「ええ、当然です。むしろわたくしこそ聞きたいですわ。お兄様、あなたは今まで何を聞いて生きてこられたのですか?」
「な……なにを……だと!? 貴様! オレを侮辱しているのか!?」
「最上級の侮辱であることくらいは理解してくださったのですね。その程度の頭はあってくれたようで何よりです」
「な……な……メア……きさ……ま……」
ゼノ殿下はメアの煽りに口をパクパクさせて言い返せないでいる。
それほどにメア殿下は正面から彼のことをこき下ろしていた。
王族として、ひたすらもてはやされて生きてきたのが彼だろう。
ヘルシュ公爵の元でも、彼の娘と結婚し、王になるとひたすらに言われてきたのだろう。
だが、メア殿下に……自分よりも下に見ている彼女に侮辱されたことが想像以上に屈辱だったようだ。
「お兄様。この際ハッキリ言わせていただきます。あなたは王の器ではありません」
「オ、オレが……王の器ではない?」
「ええ、はっきりとそう確信いたしましたわ」
「なぜだ。適当に言ったのだとしたら、オレは許さんぞ」
少し話していて落ち着いたのか、ゼノ殿下は話せるようになった。
だが、胸の内は怒りで燃えているようで、今にも殴りかかりそうだ。
メア殿下はそんな彼を気にした様子もなく、ゆっくりと話し始める。
「王の器とは、人の言葉を聞くことができる者ですわ。お兄様はそれができていない。自分の言いたいことを言い続けるあなたに、王は相応しくないのです」
「人の言葉を聞く……? 何を馬鹿な、逆だ。民が王の言葉を聞くのだ」
「いいえ、間違っておりません。ではお兄様にお聞きしますが、お兄様は全てのことを、誰の力に頼ることなく完璧に判断することは可能ですか?」
「何を言うかと思えば、できる訳がない」
「では、どうやって何か起きた際の判断を下すのですか?」
「それは当然部下の……」
そこまで言って、ゼノ殿下は口をつぐむ。
「ええ、そうです。誰かの……部下でも仲間でも、どなたでもいいのですが、人の言葉を聞くのです。人の手はとても短い。どこまで伸ばそうとしても、限界がきます。だから、人の手を借り、その人が見聞きしたことを王が聞き対処する。これが王に必要なことだと、グレイル領で働かせていただいた結果、思い至りました」
「はっ! では悪人の言葉も聞くと言うことか? 流石玉座を盗もうとする女らしい考えだ」
「当然です。悪人だろうが声は声、当然聞きます」
「語るに落ちたな!」
「いいえ、違います。悪人だろうが声は声。というかお兄様、悪人かそうでないか等、すぐに聞いてわかりますか?」
「それは……」
「わからないのに、どうやって相手を悪と決めつけるのですか? 法に反したから? 人を害したから? 自分の意見を聞かなかったから? 自分の意見に反対したから? それだけで悪と決めるのですか? 正義と悪など、立ち位置によっていくらでも変わるでしょう」
「な……」
メア殿下はそれからさらに続ける。
「あらゆる人の言葉を聞き、そして、それの判断を下す。正しい判断もまずは聞くことから始まるのです。それをできる者が王の器に足る者ですわ」
そう自信を持って言うメア殿下は、とても王としての魅力に溢れているように感じた。
「人の上に立つ等そんなことに固執しているから、お兄様は王の器にはふさわしくないのです」
「……」
ゼノ殿下はプルプルと震え、次の瞬間にメア殿下に向かって跳びかかる。
「メア! 貴様ぁ!!!」




