第114話 リリスの覚悟
私はリリス。
絶賛襲撃されている。
「ネズミは駆除しないといけないよなぁ! 殲滅だ!」
「おう!」
「くっ!」
マルコさんという人が床に倒れると、近衛騎士達は全員が即座に剣を抜いてこちらに向かってくる。
ゴードン様も剣を抜き、盾のような物を浮かべて侵入を阻もうとする。
しかし、敵は最初から決めてあったのか、関係なく突っ込んできた。
「全員殺せ! 奥の奴らも必ずだ!」
近衛騎士の隊長はそう叫んで突っ込んでくる。
「させません!」
ギィン!
それを阻むのはルーク様。
大きな槌を使って室内で器用に戦っている。
でも、多勢に無勢。
すぐにルーク様も囲まれて……。
「あらぁ……ちょうどいい相手じゃないかしら」
シエラ様が杖を振ると、見えない何かが近衛騎士の鎧を刻む。
「ぐああああ!!」
「ぐぅ! 我らの鎧すら切り裂くか!」
「ふふ……その程度の鎧じゃあたしの魔法は防げないわよ」
シエラ様は不敵に微笑み、細かい魔法を連射していく。
とにかく敵の動きを止めて、後ろが侵入するのを防ぐようにしているらしい。
だけど、敵もその程度は織り込み済みだった。
「出てこい!」
「はっ!」
隊長の言葉に、後ろの方にいた近衛騎士が進み出てくる。
「無駄よ」
シエラ様はそう言って魔法を放つ。
キキキン!
「え! それはやばいわ!」
敵は魔法防御の施された鎧をまとっていたのだ。
有名なのはカゴリア騎士団の団長だけれど、それ以外でも高価な加工を施せばつけられないことはないらしい。
高コスト過ぎて普通はつけられるようなものではないらしいが、近衛騎士となれば別なのだろう。
シエラ様は焦った様子だけれど、下がる気配はない。
それどころか、敵はシエラ様に向かってくるのに、その場に立ったまま新しい魔法を使おうとしていた。
「シエラ様!」
私が叫ぶと、彼女の目の前で血が噴き出した。
それも、彼女に向かっていた近衛騎士から。
「え……」
私が近衛騎士を見ると、ヘルムの隙間に矢が突き立っていた。
「アーシャ! さっさと全滅させなさい!」
「わかっている」
シエラ様が叫ぶと、部屋の中にいるはずなのにどこにいるかわからないアーシャ様が矢を放つ。
屋の音が鳴るたびに、全て近衛騎士に突き刺さっていく。
すごい。
やっぱり彼らはすごい。
私がそこに入っていいのか……本当に……皆さんの力になれるのか……。
「ちっ! 話にあった姿を隠す奴か! 室内でできるとは優秀だ、だが! そこだ!」
「っ!」
敵の隊長がある一点に剣を向ける。
私も思わず視線を向けると、そこには弓を引き絞るアーシャ様がいた。
彼女は次の瞬間には矢を放ち、1人を撃ち抜く。
しかし、敵はまだまだいて、アーシャ様の方にも、シエラ様の方にも向かって行く。
誰一人自由にさせないつもりのようだった。
ゴードン様は盾のような魔法を浮かべ、数人と切り結び合ってる。
ルーク様は槌をこれでもかと振り回し、敵を近寄らせない。
でも、残りの敵はアーシャ様とシエラ様に向かって躊躇なく剣を振り下ろす。
「甘い」
「その程度?」
「な!」
「なんだと!? ぐあ!」
しかし、アーシャ様もシエラ様も敵の攻撃を避けて反撃に出ていた。
アーシャ様は近距離から頭を撃ち抜き、シエラ様は杖で敵を転がしていく。
「近距離で戦えなくて戦場に出られるか。アルクスの里を舐めるな」
「女の1人旅をするなら、近距離程度できないといけないわよ? 学べたわね。来世で使える機会があることを祈ってる」
「すごい……」
私の口からぽつりと言葉が漏れる。
それほどにみんなは強く、かっこよかった。
「ええ、ユマ様が集められた精鋭ですよ。僕は……まぁ、こういう時はあまりですが」
「シュウ様……」
私の隣にはいつの間にか下がってきていたシュウ様と、連れてこられたおじ様2人がいた。
おじ様2人はこの状況に顔を真っ青にしているので、荒事には慣れていないのだろうか。
このままいけば返り討ちにできる。
そう敵の隊長は悟ったのか、方針を変えた。
「ええい! 先にあの奥の奴らを先に殺せ!」
「はっ!」
「え、ちょ! そっちは!」
「お前達の相手はこっちだ!」
シエラ様が慌ててこっちに魔法を放つけれど、魔法耐性を持つ敵が鎧でそれを防ぐ。
シエラ様とアーシャ様の攻撃を抜けた1人の近衛騎士が、私の方に向かってくる。
私に向かって? 私を殺すっていうこと?
私を……さっきの人のように……。
喉を剣で突き刺され、絶命した人の目が、私の目をまっすぐに見ていた。
お前もすぐにこうなるのだと。
こちら側に来いと、呼んでいるような気がした。
私は彼の方へ行こうとして……。
「リリス! 戦え!」
「!」
アーシャ様の声が私を呼び覚ます。
「兵を率いるのなら、これから何度も見ることになる! 覚悟を決めろ! できなければ大切な物から失うことになる!」
そう言われた途端、両親の顔が思い浮かぶ。
失いたくない。
両親も……私自身も。
正面からは全身鎧をまとった近衛騎士が私目掛けて突っ込んでくる。
勢いよく、すぐには止まれない。
なら、
「はぁ!」
私は即座にレイピアを抜き、彼が進む線上に置く。
「ぐっ!」
レイピアに肉が突き刺さる感触を、強引に抑える。
それは恐怖か……高揚か。
どちらかわからない。
でも、確かに今、私は人を……。
「なるほど。これが覚悟……ですか」
手を血で染めた。
でも、そうしなければ自分が血を流すことになっていた。
理由なんてどうでもいい。
ただその事実があるだけ。
一度超えてしまえばもう後戻りはできない。
戻りたいとも思わない。
大事な物を、自分を守るために必要なら、喜んでより濃い血で手を染めよう。
「皆さん! 強化します!」
私は敵が近づいてくるまでに、味方の3人目掛けて魔法を発動する。
シエラ様は魔法の威力が上がり、アーシャ様はより気配を消せる、ゴードン様の盾もより固くなるはずだ。
それが私の魔法、強化魔法(魔)。
最初はなんだと思っていたけれど、頼りになる仲間を強化できる。
最高の魔法ではないだろうか。
それからやることは、驚いている敵はいい。
ゴードン様とルーク様は問題ない。
アーシャ様は私でも姿を捉えきれない。
なら。
「助太刀します!」
「うっは! あなたほんとにリリス!? すごいわね!」
シエラ様の助力に入り、彼女と戦っている敵の動きを封じる。
関節部の狭い隙間を狙って突き、動けなくしていくのだ。
そうやってシエラ様が楽になったら次にやることは。
「シエラ様! 魔法で吹き飛ばしてください!」
「オッケー! その間の時間稼ぎはしてよね! 信じるわよ!」
「! はい!」
シエラ様が集中している間、私は彼女をなんとしても守り切る。
信じると言ってくれた。
すごい人が、私なんかを信じると!
何があっても守り切ってみせる!
「いかん! 魔法使いを狙え!」
「はい!」
隊長は叫び、部下が即座に反応して手斧を投げてきた。
「うええ!? それは!」
近衛騎士が手斧なんて投げるな。
そう思ったけれど、今は……なんとかするしかない。
レイピアで防げるか……いや、大事なのは時間を稼ぐこと。
私は両手をクロスし、何とか骨で止まってくれと祈りながら間に入った。
ギィン!!!
「無茶は良くない」
「アーシャ様……」
手斧はアーシャ様が矢で撃ち落としてくれたようだった。
信じられないが、近くに落ちている手斧と、無事な私を見るとそうとしか思えない。
「でも、よくやってくれた。ありがとう」
アーシャ様はそう言って、手斧を投げてきた敵に向かって矢を放つ。
「あ、はい。いえ……」
「それじゃあ派手に行くわよ!」
私が返事をする前に、シエラ様が叫び、敵を吹き飛ばした。
ドオオオオオオン!!!
「きゃっ!」
「うわ!」
「っ!」
私達は何とかしゃがみこんでそれに耐える。
だが、敵はほとんどが吹き飛ばされていた。
「ここまで強化されるの……? これは……やっちゃったかな」
「仕方ない」
ゴードン様は盾魔法で、ルーク様は離れていたので無事だった。
それから、残った数人を討伐して襲撃は終わる。
私は私をじっと見つめていた男。
マルコの目をそっと閉じる。
「ゆっくり休んで」
私はそう言って起き上がると。
「すごいじゃない! 初陣だとは思わなかったわ!」
「うん。頼りになる」
「あ、はい。ありがとうございます」
シエラ様とアーシャ様にそう言われて、とても恐縮してしまう。
そんなところに、再び来客があった。
「これは何があった! 近衛騎士である我々に説明してもらうぞ!」
先ほどの爆音を聞きつけたのか、再び近衛騎士が現れた。




