第111話 王子と王女の話し合い
「ではオレから言わせていただこう!」
第1王子であるゼノ殿下はそう高らかに宣言して話し始める。
「まず、これまで王家を代々継いできたのは男子のみ、メアのような女が継いだことは一度たりともありません! さらに、オレは陛下の最初の子として生まれ、先ほども上げたように手腕も歴代1! オレ以外に国王に相応しい者等誰もいないでしょう!」
彼の言葉に、急進派の3人は黙って頷いていた。
これらのことは元々話し合っていたのだろうと思う。
まぁ……陛下がこのような場所で話し合いをさせるとは思わなかったけれど。
話し合いで解決できるならしている……とも思う。
でも、これはこれで必要なことなのかもしれないと思い、俺は黙ってゼノ殿下とメア殿下を見守る。
次に話すのは当然メア殿下だ。
「王家を継いできたのは男のみ。確かに、歴史を見ればそうでしょう。ですが他国ではいかがでしょうか? 過去に女王が誕生したことがなかったでしょうか? いえ、それは確かにありました。さらに、3真国では今も女王が君臨していますし、他の国に目をやっても、過去にいたこともあります。よって、それはわたくしが王位を継げない理由にはなりません」
当然、こういった絶対に突っ込まれるであろうことは事前に話してあった。
どのような形式になるかわからなかったけれど、王位の話をするのであれば、相手は必ずこれは使うと思ったからだ。
ゼノはそれを鼻で笑う。
「ふん。だから何だと言うのだ。他国でやったから、3真国にいるから? オレはノウェンの王について話をしている」
「同じですよ。我が国で女王を認めないということは、他国の王も女王として認めないことと同じでしょう?」
「別に他の国等どうでもいいだろう」
「よくありませんよ。王位につくということは、その国の代表だと認められること。他国の女王を認めたのであれば、我が国で認めるのと差はないのではなくて?」
メアの言っていることはこう。
他国では国のトップに女が王になることを認めているのに、どうしてウチの国では女がトップになることは認められないの? ダブルスタンダードじゃない? おかしくない?
ということである。
その問いに対し、ゼノ殿下が出した答えはこうだった。
「では! 先に生まれたオレが王位を継ぐべきことに対してはどうなのだ!」
とりあえず保留にしたらしい。
「それこそ別に最初に生まれた方が王になる。なんて法はありません。違いますか?」
「法は確かにない。だが、慣習として、代々第一子が継いできたことは確かだ」
「あくまで慣習としてでしょう? なら別にわたくしが継いでも問題ありません。慣習とはあくまでそうなっていたからそうしてきたということにすぎません」
「だが、それも続けば伝統となる」
「伝統は必要なものだとは思います。しかし、だからと言って必ず守らなければならないものではないでしょう」
「我が国の伝統を侮辱するか!」
「侮辱などしていません。必要があるなら変えるべきではないか。そう言ってるのです」
「それを侮辱していると言っているのだ!」
「何がですか?」
メア殿下は本当にわからないというようにゼノ殿下を見返す。
彼は語気を強めて叫ぶ。
「ノウェンは最高の国! そして、すでに完成されていると言ってもいい! だからこそ、伝統を守ることこそ必要なのだ!」
「そうは思いません。わたくしはグレイル領で市政に参加させていただき、グレイル領や、その他のやり方を聞く機会がありました。そこでは……」
メア殿下は力強く反論をしていたのだけれど、途中でしりすぼみになっていった。
彼女がそうなってしまった理由には検討がつく。
グレイル領や他の領地での運営に問題があるとして、それを指摘し、改善して、成果を出せれば、能力があると示すことができる。
だが、その一方で、彼女の身柄を保護しているグレイル領のやり方を非難することになりかねない。
このノウェン国で多くの権力者が集まるこの場所で、自分の足場を否定するということだ。
そんなことをしたら、グレイルは小娘に指摘されるような運営をしていると言われるかもしれない。
他の貴族達、それこそ身内からも、そんなに運営が上手くいっていないのかと思われるかもしれない。
追加して言うと、彼女のやったことを詳しく話すと、グレイルの内情を晒してしまうということになる。
せっかくシュウが隠すように立ち回ってくれているのに、それを無駄にしてしまうかもしれない。
そういったことがメアの頭の中で結びつき、それ以上言えなくなったのだろう。
ゼノ殿下もそのことを分かっているのか、攻め立ててくる。
「メア。そこでは……なんだ? 言ってみろ。言えんのか? グレイルにいると聞いていたが、そんなにも運営的にお粗末な場所なのか?」
「……少し考えさせてください」
メアは先ほどのゼノ殿下のように保留したりせずに考え込む。
彼女もそうすることができただろう。
しかし、それでも彼女は正面から立ち向かうことを選んだ。
難しい道だとしても、それが必要だと思っているから。
俺は、そんな彼女を助けるために声を上げた。
「そのことに関しては私から話しましょう」
「!」
周囲の視線が俺に集まる。
「彼女がグレイル領に来られて、我々の仕事を見ていただきました。そして、助言に従った結果、前年比、10パーセント効率が上昇しました」
「そんな……どうしてメアのお陰だと言える。それに、あやふやすぎて本当に効果があったのかわからんな」
ゼノ殿下は詳しいことは言えまい。
と、たかをくくっているのか、そう言ってくる。
なので、俺はそれに答えた。
「我が領では……」
俺は彼に領内の経済状況などを詳しく語り、そして、それがメア殿下のお陰であると口にしたのだ。
敵……と言ってもいい相手に経済状況を話す。
相手はあのヘルシュ公爵。
その話からでもこちらの戦力などについてある程度推察をするだろう。
だが、こいつを王と認めるくらいなら、俺はその程度話してもよいと感じた。
「……ということです。ゼノ殿下。ご納得いただけましたかな?」
「あ……うっ……そ、そう……だな」
彼は少ししどろもどろになって戸惑っていた。
そして、そのまま押しきれるかと思ったけれど、相手もしっかりしている。
少し呼吸を整えて反撃を繰り出してきた。
「なるほど、それは素晴らしい。ただ、本当にメアの功績か?」
「どういうことですか?」
「そのままの意味だ。メアはグレイル領に確かにいった。しかし、いきなり行って、少し仕事をした……それで本当にそれほどの改革を行えるだろうか? ということだ」
「私も父上も認めています」
父上も黙って頷いてくれる。
しかし、ゼノ殿下は止まらない。
「だが、それは全てグレイル領で起きたこと。証明などできまい。オレの国交に関してはあちらが認めてくれるがな?」
ようは遠回しに、俺達がやった成果をメア殿下に渡してんだろ?
だから、それは成果ではねーだろ。
ということだ。
「これは異なことを、メア殿下ご自身のお力ですよ。私はこの場で嘘をつくようなことはいたしません」
「しかしそれは言葉だけでは、勘違い……ということもあるだろう」
「ではどうしろと?」
俺がそう言うと、彼はにやりとして話す。
「オレと政治について話をする。ということですよ。人の後ろに隠れ、玉座につけるなどと思わないことだ。メア」
彼は突然メア殿下の方を向いてそう言った。
そして、その肝心のメアはと言うと、少し呼吸をしてゼノ殿下を見つめ返す。
「ええ、そうですわね。わかっておりますわ。お兄様」
彼女の目にはとても強い光が讃えられていた。
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