第110話 議会の開幕
前回からの続きであっています。
前回からの続きであっています。
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翌日。
俺達は議会に参加していた。
場所は城の中の一室。
この議会のため専用の場所で行われている。
机は円卓になっていて、それぞれが距離を開けて座っていた。
王から時計回りに、ゴドリック候、父上、ニジェール、カゴリア公爵、クルーラー伯爵、中立派の貴族、ケラン公爵、ハムロ伯爵、ヘルシュ公爵、フィブルス侯爵という席順だ。
王から順に穏健派、中立派、急進派で並んでいると思ってもらえればいい。
ちなみに、俺は父上の後ろに立っている。
メア殿下や第一王子も陛下の後ろに立っていた。
アーシャやシエラ達は控室の方でいざという時の護衛として待ってくれている。
「揃ったようだな。議会を始める」
陛下が皆を見回してそう言う。
俺が参加する初めての議会が開かれる。
「早速だが、今回より新しく参加することになった。ニジェール・ギドマン卿。自己紹介を頼む」
「は、はい。ボクはニジェール・ギドマン。ギドマン家の一員として、議会に参加させていただきます。よろしくお願いします」
ニジェールはなんとかそう言って挨拶を済ませる。
中立派も急進派も特に言うようなことはなかった。
「うむ。では次にグレイル領の新たな領主となる者だ。グレイル卿、紹介を」
「はい」
父は頷いて、俺のことを紹介する。
「既にご存じの者もいるだろうが、我が息子、ユマ・グレイルだ。今回は私がこの席より失礼するが、次回以降はユマに全て任せることとなる。ユマ。挨拶を」
「はい。父上。私はユマ・グレイルと申します。若輩の身ではありますが、皆様と共にノウェン国を盛り上げていきたいと思っています」
すごく白々しいかもしれないが、建前というのは大事だ。
さっさと終わらせて本題に入ってもらう。
陛下はうなずき、早速国内の問題について話を始める。
「さて、では先日より報告のあったデケンによる国境付近での軍事行動に関して……」
「オレに話をさせてもらえますか!」
そう言って陛下の言葉を遮ったのは、第一王子だった。
彼は父譲りの金髪を払い、貴族全員を軽く下に見るような目を向けていた。
「……今回はお前が功労者だったな。いいだろう。話せ」
「ありがとうございます。陛下。次期国王として、オレがどれだけのことをしてきたのか。語らせていただきます」
彼はそう言って陛下に頭を下げた後、何をしたのかについて話していく。
色々と装飾されていて長かったので要点だけ書いていくことにする。
その前に国としての位置情報に関して。
俺達ノウェン国は内陸国で、周囲を4か国に囲まれている。
北東に位置するデケン、南東に位置するユリウス、南西に位置するグストゥウ、北西に位置するオクタル。
この内、グストゥウとオクタルに関してはゴドリック候の影響などもあり、それなりに良好な関係を築けている。
そして、問題は残りの2か国。
デケンとユリウスは一触即発……というか、もう戦争を仕掛けられているレベルで仲が悪い。
クルーラー伯爵領を攻めてきたのも、さっき上げたユリウスだった。
もう一つのデケンに関しては、急進派の連中の領地が近く、普段から戦いを起こしていたりする。
そして、王子の話曰く、
そのデケンとの間に国交が正常化とは言わないまでも、停戦には至ったとのこと。
その過程でいかに自分が尽力し、優秀であったかを聞かされるのはだるかったけれど、それだけのことはしたと言ってもいいだろう。
しかし、これもシュウの情報である程度は調べがついている。
停戦自体は出来ているが、かなりデケン側に有利になるように締結されたらしい。
しかも、それを行ったのも彼だけでなく、急進派最後の1人フィブルス侯爵と共にだ。
まぁ、それでもずっと関係が悪かった国とそれなりの仲に持って行けた。
という事ことはすごいことではあるのだが。
まるで1人の手柄のように話しているのは、彼の元にもメア殿下と同様の手紙が届いたからだろう。
「そのようなことがあり、オレはこの度の両国の繁栄を願い、古今東西走り回り、時に難題にぶつかろうとも粘り強く努力し、問題を解決したのです! 王とはオレのようなことを言うのだと確信しております!」
「……ご苦労だったな。では、次の議題に」
国王がそう言って話を終わらせようとすると、王子が待ったをかける。
「陛下! それだけですか!? もう決まったのではないでしょうかな!?」
「……ゼノ。お前の功績は確かにあるのだろう。だが、この場はそれを褒めるためにあるのではない。国の行く末を左右する場である。どちらが優先が分からぬ愚か者ではないな?」
「は……失礼しました」
そう言ってゼノは軽く頭を下げて口を閉じた。
「では、しきり直して、次の議題だな。ハムロ伯爵より提案のあったユリウスへの侵攻だったか」
陛下がそう言うとハムロは大きく頷いて話を引き継ぐ。
「ええ、今現在我が国は3か国と友好関係を結んでいます。であれば、常日頃から侵攻をしてくるユリウスを撃滅するべきです!」
「左様。今こそ好機、私も力を惜しみません」
「ですな。今やらずしていつやるのか。国のために、ここは攻めるべきでしょう」
そういうのはハムロ伯爵、ヘルシュ公爵、フィブルス侯爵と急進派の者達。
だが、ここで父上が待ったをかける。
「それは早計ではないかな。ハムロ伯爵」
「グレイル侯爵……」
「まずは停戦を決められたこと、近隣の領地の方々には素晴らしいと言わざるを得ない。だが、あくまで停戦でしかないだろう」
「それは……」
「確かに停戦はしたが、それ以上は決まっていないのでは? 不可侵条約を結んだ訳でも、ましてや友好条約を結んだ訳でもない。そんな判断で決定することはそもそも夢見がちでは?」
「だが、ユリウスにはわからせなければならない! でなければ奴らは再び攻めてくるだろう!」
「何を言う。昨年のセイラン将軍以降、奴らからの侵攻はない。違うか?」
「それは……」
「クルーラー伯爵が我が息子ユマと協力し、撃退したからだ」
「ならば! よりこちらから仕掛けてけりをつけるべきだ! そう言っている!」
ハムロ伯爵も引くに引けないのか、強く言ってくる。
しかし、父上はゆっくりと首を横に振った。
「そうなれば彼らも本気を出して迎え撃ってくるだろう。多くの犠牲を払って何を得られるというのだ」
「安全に決まっている。我々の安全のために敵を滅ぼしておかねばならん」
「これは異なことを、自ら安全を捨てているのに、安全を欲しているとはおかしいとは思わないのか?」
「私が言っているのは恒久的な安全だ。奴らがいればそれはかなわない」
「では奴らを滅ぼしたら安全になると?」
「そうだ」
「それは違う」
「どういうことだ」
「ユリウスを滅ぼしても、他の国々と争うことになる。むしろ滅ぼしに来る敵として見てくるようになるだろう」
「だが、我が領は安全になる!」
「この議会は……我らノウェンにとってどう益があるか、ということを話す場であろう。貴殿だけが得をするようなことを話す場ではない」
父上はそう断じるが、ハムロ伯爵は止まらない。
「隣国を滅ぼし、傘下に収めればそれだけで国としての利益は増えるであろう!」
「気軽に言ってくれるな? 今残っている国を滅ぼすなどと、3真国でもできなかったことを、貴殿がやってくれると?」
「それは……」
ハムロ伯爵の勢いは止まる。
それほどに、3真国という名は重たいのだ。
それぞれが経済力、軍事力共に大陸随一。
1国対1国で戦えばまず負ける……というレベルで強い国家なのだ。
今でこそ衰えていると言われているが、それでもその名は健在。
それに、それらの国のトップは普通に強い。
ある国の女王とか本当に……いや、今はやめておこう。
父上は彼が止まった時を狙ってさらに言う。
「だが、貴殿が領地の安全を願う気持ちもわかる。だからな。何かあった際は、ユマが力になってくれるかもしれぬ」
父上の言った言葉の意味が分からず、俺は父上を凝視する。
他の者も何が起きているのかわからず、ただただ父上を見ていた。
「は……?」
「私と貴殿はそうではなかったが、代が変われば方針も変わるだろう」
「いや……それは……しかし……」
ハムロ伯爵は急進派の2人と父上を交互に見ていた。
「我々の領地は隣り合っている。協力することもできると思うのだがな? まぁ、それは今後、ユマが考えることではあるが」
「……だろうな」
ハムロ伯爵は俺を一瞥して、苦い顔をした。
父上がしたかったのは、俺に可能性を作りたかったのではないだろうか。
穏健派、急進派と別れて居続けるのでは、いずれぶつかってしまう。
だが、お互いの力が圧倒的であれば、ぶつからずに……国内を荒らさずに済むかもしれない。
その可能性を残すために、急進派の切り崩しをしつつ、戦をさせないように話していたのだろう。
父上はそうやって議論を誘導しつつ、俺に可能性が残るように話していってくれた。
それ以降の話も、父上はとても丁寧に対応をしていた。
法律に関する話も、穏健派だけが得をするのではなく、それぞれの派閥の利益を調整していく。
政治手腕は素晴らしいと思っていたけれど、こういった駆け引きもとても素晴らしかった。
俺も父上のこういった部分を見習い、できるようになっていかねば。
家督は譲り受けるけれど、これからも後ろから教えて欲しいものだ。
そうやって議会は進んでいき、最後の議題となる。
陛下が次の議題を話す。
「では、最後の議題だ。このノウェンの王として、ゼノ、メア。どちらが相応しいのか。それぞれ話し合ってもらいたい」
最重要と言ってもいい議題を、陛下は最後にぶち込んできた。




