第11話 山賊の頭
森の中に身を隠し、アジトの様子を伺う。
「見つけてしまったな……」
「ですね。引き返しますか? それともこのまま突撃しますか?」
ルークはワクワクした表情でハンマーを握っている。
なんで嬉しそうなんだよ。
そんなことを思っていると、アジトの方から声をかけられた。
「貴様ら! 何をしている! ここがどこか知って来ているのか!?」
そう声をかけられては、ここにいる訳にはいかないだろう。
でも、いきなり戦闘はしない。
バメラルの村の襲撃に加わっていた様子ではないし、もしかするとこいつらが俺達の元に連絡を寄越してくれた可能性もあるからだ。
まぁ……低いだろうけれど。
「俺はユマ・グレイル! ここの頭と話に来た!」
「は、はぁ!? ユマ!? ユマってあの次期領主のか!?」
「それが何か?」
「ちょ、ちょっと待て、シュウ様に確認を取る」
そう言って彼は慌ててアジトの中に入っていくけれど、俺はそんなことよりもシュウという名前に衝撃を受けていた。
シュウ、それは主人公で普通にプレイしていれば、最初から最後まで付き従い、決して裏切らず、引き抜きにも応じず、主人公を支え続ける超優秀な軍師だ。
そのステータスは最終的にこれくらいになる。
名前:シュウ・アズマ
統率:82
武力:40
知力:91
政治:90
魅力:42
魔法:50
特技:軍師、補佐、軍略、駆け引き、大局眼、情報網
という感じで、正直軍師として最も欲しいキャラと言っても過言ではない。
彼は最初から最後まで主人公の側にいたので、こんな所にいるとは……いや。
まだ判断は早い。
確かに彼は義賊をやっていたという話は攻略本で読んだ気はするけれど、ここにいるのがそのシュウかどうかは分からない。
でも、もし本当にそのシュウだとしたら、今回伝令を送ってきたのは彼で間違いないだろう。
山賊がバメラルの村を攻めるという情報をいち早く察知し、仕掛ける前にこちらに連絡を送る。
彼ならばそれくらいはできるだろう。
そう思っていると、アジトから先ほどの兵士が出てくる。
「1人だけ入ってもいいということだ! 誰が来る!」
「俺が行く!」
「ユマ様!? 危険です!? 相手は賊なのですよ!?」
俺が元気よく答えると、ルークに止められる。
でも、もし本当にあのシュウだとしたら、絶対に欲しい。
生き残るために優秀なキャラは何人いてもいい。
だから絶対にこのチャンスを逃したくない。
「俺が行く。俺は1人であれば何があっても戻ってこれる。だから信じて待っていてくれ」
「ユマ様……我々のことを考えて……?」
「そうではないさ。ではな」
俺は適当に答えて1人アジトに向かっていく。
警備の2人に警戒されながら俺はアジトの中にはいる。
アジトの中は思いの外広く、明かりも焚かれていて明るい。
「ついてこい」
待ち構えていた山賊……義賊と言った方がいいか、その中の頬に傷のある男がそう言う。
俺はアジトってこんな作りになっているんだと思いながら彼の後をおった。
「こっちだ。勝手にキョロキョロするな」
「ああ、悪い」
少し移動したところで、部屋に案内された。
「ここだ、その前に武器を預からせてもらう」
「断る」
「な……ならここから先には入れることはできない」
「お前達10人もいるのだろう? なら俺が武器を持っていようが問題ないだろう」
「ダメだ。シュウ様に万が一もあってはならない」
「安心しろ。決してシュウには手を出さないと誓う」
「お前達貴族の言葉を信頼しろと?」
その言い方に不安を覚えるけれど、俺は頷く。
「そうだ。もし俺が約束を違えた時は望むものをくれてやろう」
「……」
それでも信用できないという彼に、部屋の中から声がする。
「いいですよ。あなた達も一緒に入りなさい」
「シュウ様!?」
「1人で山賊の元まで来られたのです、それ以上求めるのは礼儀をかくでしょう」
「……かしこまりました」
それから、部下達が部屋の中に入り、俺が入る。
貴族扱い……という訳ではないけれど、正直、そんなことはどうでもいい。
元々貴族じゃないからそれくらいの扱いは普通だったし、それよりも、シュウと早く会いたい。
そして……あわよくば……。
俺が部屋に入って机に向かって座り、相手の顔を見る。
にこやかな笑みを俺に向けてくる顔を見て、俺は歓喜の舞を踊りそうだった。
「初めまして。僕はシュウ、シュウ・アズマと言います」
その男は黒髪黒目で、顔だちはルーナファンタジアの大陸よりも東方の国の出身だということが分かる。
かなり細身で正直戦闘はできないけれど、そんなことはどうでもいい。
「話がある」
「ええ、どのようなお話でしょうか?」
「君を俺の配下に加えたい」
「……これは驚きました。てっきり先日の襲撃の件で聞きに来られると思っていましたが……それか、討伐か」
「最初はそのつもりだった。だが、君であればそんなことは小さなことだ。君を配下にする以上に重要なことなんてない。君が配下になってくれれば、それらの問題も全て解決するだろう」
「ふふ……なんと強欲なお方。そのお気持ちは嬉しくはありますが、お断りさせていただきます」
彼はにこやかな表情のままそう言うけれど、俺は許さない。
「ダメだ。君が俺の配下になるというまではここにいよう」
「……どうしてそこまで僕にこだわるのでしょう? 第一、僕を配下に加えたとあっては、グレイル侯爵は元より議会からもにらまれてしまうのでは?」
この国は王政だけれど、それを支える議会という組織がある。
それは王を側で支え、時に民衆をまとめる10人の貴族達のことを言う。
基本的に力ある10の貴族が選ばれて、当然、グレイル家も入っている。
が、俺が勝手に山賊を配下にしたら、議会のほかの貴族から説明や認めないという話がくるかもしれないということだ。
「関係ない。君のように優秀な人材を山賊にしておくわけにはいかないからだ」
「優秀……僕のことを……ご存じなのですか?」
「いや、知らない。だが、俺の直感がお前を配下にするべきだと言っている」
出来る限り彼には正直に話すべきだとは思う。
配下になって、自分の背中を預ける人間なのだから、嘘をついていいこと等ない。
でも、俺がこの世界の記憶を持っているということだけは誰にも言うべきではないだろう。
それが本当になるかも分からないし、どのように思われるか分からない。
俺がそう答えると、彼は一度嘆息して、冷たい目を浮かべる。
「はぁ……では、一つだけお答え下さい。嘘をつくことも、はぐらかすことも決して認めません」
「構わない」
「あなたは、この国をどうするおつもりですか?」
「俺は……」
俺は少し考え、意を決して話す。