第109話 勧誘と話し合い
「いえ、そのような人はおりませんが……」
「そうか……悪かったな」
俺はそう言って宿を後にする。
「今の所にいるはずだったの?」
そう声をかけてくるのはシエラ。
彼女の隣にはアーシャもいる。
「ああ、あそこにいたはずなんだが……」
俺が勧誘しようとしたのは指揮官を任せたいと思っていた男。
それなりに有名だったけれど、ある敗戦の責任を取らされて指揮官の職を下ろされていた人物だ。
ちょっと性格に難もあるが、優秀な人材には間違いないので欲しかったのだけれど……。
「どうしたのかしらね?」
「わからん……」
最初のリリスは良かったけれど、それ以降の勧誘はこれで5人続けて失敗している。
まぁ……ゲーム本編が始まってすらいないので、目的の人物達がいないという可能性もあるが……。
わからん。
「まぁ、リリスっていう指揮官を勧誘できただけでもいいんじゃない? 普通、勧誘なんてそうそううまくいくものじゃないし」
「まぁな」
実際には人材募集をしてから、テスト等かなり時間をかけて登用するかどうか決める。
それをゲーム知識で強いかどうか知っているだけでも、かなりチートクラスの行為だろう。
シエラの言うことも確かだ。
それに続けて、アーシャも口を開く。
「議会も始まる」
「そうだな……そちらの準備もしておかねばならん」
一度穏健派で集まってどのようにやるのか。
ということについて話し合っておく必要があるだろう。
殿下も連れてきていることだし、情報のすり合わせも必要だ。
「それじゃああたし達はお屋敷で待っておく感じ?」
「いや、俺の護衛として控え室で待機しておいてくれ」
「えー待ってるだけって面倒なんだけど」
「頼む。議会には武器を持って入れないからな」
「しょうがないわねぇ。勧誘って名目でデートもできたし、それくらいはいいわよ」
「助かる」
そんな話をしながら俺達は拠点に戻った。
翌日、俺は父と穏健派の2人に姫様を加えた5人で、議会のための話し合いを行う。
どのような法について話すのか、あちらが提案してきたことに対する案に対してはどうするか。
ということを話し合っていく。
元々そちらのことに関しては特別なことはしない。
今まで通り、着実に国内を運営していくということだ。
なので、一番に話すべきことは国王が送ってきた手紙についてだ。
彼らにも当然知らせておいたので、そのことに対して最も時間を割くことになった。
基本的には、シュウやゴドリック候が集めてくれた急進派や第一王子等についての情報の共有だ。
それらが終わると、口を開いたのはゴドリック候爵。
「まず確認なのですが、メア殿下。あなたは玉座につく覚悟がある。ということでよろしいのですね?」
ゴドリック候はその細い目で彼女を射すくめるように見つめた。
彼女は正面からそれに答える。
「ええ、玉座にはわたくしがつきます」
「正統な後継者は順序的にも、男系しかいなかったことにしても、ゼノ・クレイ・ゼラストル・ノウェン殿下だと思いますが?」
このゼノ・クレイ・ゼラストル・ノウェンという男が、急進派のヘルシュ公爵の娘を娶った第一王子である。
ゲーム的なことを言うと、王子ということもあったりして、かなり傲慢なキャラだ。
しかも、急進派の娘を貰っただけあって考えもかなり攻撃的。
他の領土から始めた際に、こいつらが国を取ったと思ったら反撃されて滅ぼされていたということも。
まぁ、逆にかなりの所を滅ぼすこともあったりしていたのだけれど……。
そう言ったキャラだが、傲慢なだけあって意外と優秀。
政治や魅力は高い。
まぁ、メア殿下には負けるが。
と、その今話しているメア殿下は、ゴドリック候から目をそらすことなく答える。
「だとしても、わたくしの方がふさわしいと思っております」
「どうしてでしょう?」
「お兄様は……王としての器を備えておりません」
「王としての器?」
「はい。お兄様は、王になることしか考えていませんわ。王になり、自分がただ他の者を従えさせたいだけ。ヘルシュ公爵と手を取っているのも、公爵が下手に出ているからにすぎません。ですので、王になって、自分は好き勝手に言うことを聞かせたい……ということしか考えていないのです。そんな方が王に相応しいと思いますか?」
「なるほど、殿下のお話が確かならば、そうでしょう」
ゴドリック候はまだ手を緩めるつもりはないようだった。
「ですが、ならばあなたには王になる器がある。そう言いたいのですね?」
彼の言葉に、メア殿下は視線を下に下げる。
「どうされたのですか?」
「今は……まだわかりません」
「ほう、正統後継者の器を疑ったのに、自分の器も信じられない者が王になろうというのですか?」
ゴドリック候の言葉は丁寧だけれど、とても鋭い。
ニジェールは殿下とゴドリック候の顔を交互に見てオドオドしていた。
父は目を閉じてじっくりと話の行く末を待っていた。
メア殿下は、絞り出すように答える。
「わたくしは……」
次の更新日は気合で投稿します。




