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凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第108話 勘違い

 俺は殺気に驚いて振り向くと、そこには鬼神になった2人がいた。


 シエラは全身に魔力を回していて、オーラが漏れ出ている。

 アーシャは背筋がゾクリとするほど冷えた目をしていた。


「ダーリン? あたし達だってさ? 今の状況はわかっている訳よ。その……ね。もしそういうことをして、子供が出来たら、あたしとしてはうれしいけど、でも、まずい可能性があるっていうことくらいはさ。でもさ。ならダーリンも我慢するべきじゃない?」

「待て、待ってくれ。話せばわかる」

「問答無用」


 シエラが魔法を放とうとしたところに、アーシャがシエラの腕を握った。


 アーシャはやはり話を聞いてくれるのか!

 そう思って彼女の方を向く。


「遺言くらいは聞いてあげるべき」

「アーシャぁ!」

「それが遺言でいい?」

「待って! 待って! 本当に待ってくれ! 俺は彼女に大事な役目をはたして欲しいだけなんだ!」


 俺がそう言うと、2人は目に炎を燃え上がらせる。


「さっきと言ってること変わらないじゃない。なによ自分好みにするって。あたしだって変えられるわよ」

「いや、お前は無理だ……いえ、なんでもないです」


 杖を突きつけられてそう答えるしかない。


 そこにアーシャがどこからか弓矢を取り出して引き絞っている。

 当然狙いは俺だ。


「手取り足取り教えて? しかも部下に何をさせるの? ちゃんと詳しく教えてほしい」

「目が据わってる……」

「ユマ様?」

「は、はい」

「わたし達だって邪魔をしたい訳じゃないよ? でも、危険って言われてる王都に来て、やることが嫁探し? いくらわたし達でも看過できない」


 そう言っているアーシャの言葉に俺は首をかしげた。


「嫁探し? なんのことだ?」

「さっきからあの子にずっと言っていたことを思い出して、どう考えてもいかがわしいことをする気しか感じない」

「はぁ……いや……俺はちゃんとクルーラー伯爵を通してナゼル男爵に……」


 そう言った所で、俺は嫌な予感がした。


「ナゼル男爵」

「はい……」

「今回の話、誰から聞いた?」

「ヴォルク様より伺ったことですが、『グレイルの次期侯爵が貴様の所の娘を所望している! あのグレイルと懇意になれるのだ! 良かったな! ばあっはっはっはっは!!!』とのことです」


 ナゼル男爵はどことなく似ている物まねでそう答えてくれた。


「それ以外の言葉は聞いていないのか?」

「はい……詳しく伺おうにも、『そんなことは忘れた! それよりも訓練だ! あ奴に負けたままでは許せんからな! 斬られた傷が(うず)くわ!』と言われるだけで……」


 俺は頭を抱えたくなった……抱えたくなったが……それよりも先に、先ほど言った言葉を思い出す。


「……すまなかった。その……リリス・ナゼル嬢には、ゆくゆくは魔法部隊を率いる指揮官として陣容に迎えたいと思っている」

「……え」


 ナゼル男爵は鳩が豆鉄砲を食ったような顔をしていて、当のリリスは首を傾げていた。

 後ろからはさっきまでの殺気は消え失せている。


 最初に我に返ったのはナゼル男爵だった。


「え……あの……失礼ですが、娘は特に戦いに出たことがないと思うのですが……」

「色々と手を回している。リリスの魔法もな」

「! ご存じだったのですか」

「ああ、悪く思うな。いい人材は手が出るほど欲しい。だからこうして来ているのだ」


 まぁ……彼女が生きているということを知った時点で、グレイロードに呼びつけることはできた。

 ただ、彼女をグレイル領に呼びつけた……と急進派にばれるとどうなるか怪しかったので、こうして来たのだ。

 後はまぁ……ゲームでも最初に会うのは王都だったので、それを踏襲したというのもある。


 しかし、男爵の顔色はいまだに悪い。


「娘を……兵士に……ですか」

「ああ、才能がある。リリス。お前が必要だ。手を貸してくれ」


 男爵はあまりよくなさそうだ。

 なので、娘の方を見る。


 彼女は心配そうな顔をしているが、目には戦う意思が宿っていた。


「お父様……私は常に思っていました。お父様が私達のために戦ってくれていてくださるから、無事で過ごせるのだと」

「リリス……」

「ですが、同時に思っていたのです。私も何かできないかと。この魔法が役に立つとユマ様はおっしゃってくださいました。なら、私は彼のために働いてみたい。女だからというのではなく、私という……リリスという存在を認めてくださる方の下で」

「いいのか。戦場は甘い場所ではない。わたしも守ってやることはできん」

「はい。それでも、私はお父様の力になりたいのです」

「……」


 それからしばらくナゼル男爵は黙り、決意が固まったのか俺をまっすぐに見る。


「ユマ・グレイル様。どうか娘をよろしくお願いします」

「任せてくれ。多くの者を守れる。素晴らしい人になるだろう」

「はい……ありがとうございます」


 そんなこんなで、このまま彼女をグレイルの拠点に連れていくことになった。

 魔法に関してはシエラ等に教えてもらう時間を少しでも欲しいということだったからだ。


 一時はどうなるかと思ったが、何とかなって良かった。

 ただ、ヴォルクは次に会った時、半殺しにしようと心に固く誓った。


 そして、俺達は来客用の部屋でのんびりとしていた。

 リリスがこちらに来る準備があるからだ。


「全くダーリンってば……勘違いさせないでよ」

「危うく開けるところだった」

「それ風穴だよな? 頼むからやめてくれ」

「でもあの子、本当に使えるの? 確かに魔法は使えそうだけど……」

「ああ、あいつは兵を指揮するのが向いてるはずだ」


 まぁ……ゲーム知識があるからだけど。

 

 そんな所に、アーシャがシエラに問う。


「あなたはそれでいいの? 魔法兵を指揮するならあなたの方が適任というか、妥当な気がする」

「え? あたし? そんな面倒なことしてらんないわよ。魔法をぶっ放すのはいいけど、兵を指揮するのはぜーったいいや」


 確かにシエラの統率は低かったからな……。

 純粋に火力を出せるキャラとして運用するということの方が多かった。


 本人もそう思っているならよかった。

 もしも自分が指揮したいとか言い出したらどうしようかと思っていたくらいだ。


 シエラはそう言ってから、俺に目線を送ってくる。


「それに、ダーリンの側にいるなら単騎の方がいいのよ」

「そう……まぁ、そういう言い方もある」

「なによ。あなただってその方がいいでしょ?」


 シエラがそう言うと、アーシャがニヤリとして答える。


「でも、前回の戦いで助けに入ったのはわたし」

「な! その前までずっと助けてたのはあたしでしょー!?」


 というようなことを話したりして、危険な王都にいるはずなのにとてもゆったりと過ごせた。


 ただ、これ以降の勧誘に関しては、想定外のことが起き続けた。


すいません。

3月中は鼻炎によるデバフで更新がちょっと滞ると思います。

申し訳ありません。

花粉を全て消し去ってくれる化学の進歩があればいいのですが……。

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