第107話 俺好みにしてやる
「ここが王都か! やっぱりすごいな!」
俺は馬車には乗らず、1人馬にまたがって王都を見ていた。
俺達が暮らす国の王都は国内で最も発展していて、他とはけた違いに人が来る。
それを受け入れるだけの大きさと、巨大さがこれでもかとあった。
城壁が3重にも存在していて、それぞれどれも守りが固く難攻不落。
今まで一度足りとも敗北したことのない城だ。
ゲームでは何度も統一した際、ここを拠点に定めて活動をすることになる。
その影響でかなり凝った作りになっていて、見ているだけでも飽きない美しさがあった。
中心の城は白亜の城とでも言うべき見る者を魅了する。
それから徐々に外に行くに連れて黒ずんでいくのは、建材の影響と、王家が白い建物は城のみと定めたことによるものだ。
外に向かうにつれて深い黒に染まり、真上から見るとグラデーションのようになっていた。
上から見るすべがないのが少し悲しいが、こうして遠くから見るだけでも十分に素晴らしい。
「わたしも初めてきたけどすごい」
そう言うのは隣で馬を並べているアーシャだ。
「アーシャも初めてだったのか! 中がどうなっているか楽しみだな!」
「……うん。楽しみ」
まぁ……そうやってテンションを上げているのはいいが、油断もできない。
何しろ王都は急進派が相当に強い。
シュウやゴドリック侯爵が手を打ってくれているとはいえ、遊んでばかりいられないのだ。
城門を問題なくくぐり、いつもの拠点に俺達は向かう。
道中は大変テンションが上がって色々と残念な目を向けられたので忘れたい。
到着したのは王都中心部のグレイルが持っている屋敷で、かなりの広さに加えていざという時の防衛もこなせる。
ここに引きこもっていれば安全に議会の日を迎えられるだろう。
だが、それではいけない。
この王都には、今は仲間に出来ないかもしれないが、とても優秀な人材がいる。
その者達の勧誘をするために、今すぐにでも行動をしなければならない。
「俺は少し出てくる」
「予定通りの場所でよろしいですか?」
「もちろんだ」
俺は尋ねてくるシュウにそう返して、さっさと仕度をする。
「ダーリンはどこに行くの?」
「勧誘だ」
「あたしも行っていい?」
「いいぞ。ただ、行くのは貴族街だ。ちゃんとしてくれよ?」
「おっけー」
シエラがそういうので、彼女も連れていく。
「わたしも……行く」
「アーシャもか? いいぞ。いいと言っておいてなんだが、交渉するだけだから楽しい場所ではないぞ?」
「……いい」
アーシャがそう言うのであればまぁいいが……。
それから、後はお付きの者や護衛等を合わせて10人もいないくらいだ。
馬車2台と騎馬に分かれてその貴族の元に向かった。
街中は当然のように発展し、清掃もかなり行き届いている。
そんな中を抜け、たどり着いたのは少し小さめの屋敷だった。
門番などはおらず、呼び鈴を鳴らすとメイドが息を切らして走ってくる。
迎えてもらった後も、すれ違うメイド達はとても忙しそうだった。
「なんだか忙しそうね」
「今はどこの貴族も忙しいさ」
「そうなの?」
「議会で決まったことは色々な所に影響が出るからな。そのことを少しでも知ろうと情報集めに動いているんだ」
「なるほどね」
そんなことを話していると、用意されていた来客用の部屋に案内される。
部屋の中にいた人物は3人。
40代くらいの貴族らしいいで立ちをした2人の男女。
それと、10代半ばの精一杯におめかししましたという風の少女だ。
少女は水色の髪を三つあみにして垂らし、黄色いドレスを着ているが、あまり慣れているという感じではない。
結構可愛らしい少女と言って差し支えないだろう。
今会っている貴族はナゼル男爵といって、ゲーム本編で会う時には没落して死んでいた。
彼らの領地はクルーラー伯爵家の外側よりで、本来であればその時にヴォルクは死に、ナゼル男爵も死んでいるはずだった。
しかし、ヴォルク殿と協力して、ユリウス国のセイレン将軍を撃退した。
俺が参加し勝利したことによって、彼は生き延びているので没落していない。
クルーラー伯爵に取り次いでもらって、こうして会っているという訳だ。
「よ、ようこそおいでくださいました。ユマ・グレイル様」
「この度はお越しいただきありがとうございます。それで……要件というのは……その……本当に……」
「ああ、貴様達の娘。そこにいるリリス・ナゼルをもらい受けたい」
「っ……」
ナゼル男爵夫妻は息をのむ。
まぁ……そう言われるのも無理はない。
いきなり娘を軍人に……というのだから。
だが、これも必要なこと。
元々のストーリーでは、彼らは死に、リリスは1人で生きていかないといけなくなる。
しかし、そんな状況では女として売るか、他の何かを売るしかなかった。
そこで彼女は得意であった魔法を売り、金を得ることにした。
それも兵士として。
彼女の才は並外れていた。
しかし、その没落したということから、厄介な扱いを受けていた所をレックスに拾われ……という話だ。
それでも彼女が欲しい!
そんな彼女のステータスがこちら。
名前:リリス・ナゼル
統率:87
武力:71
知力:75
政治:64
魅力:59
魔法:92
特技:強化魔法(魔)、鼓舞、疾走
欲しい!
本当に欲しい!
彼女のステータス! よく見て欲しい!
鼓舞は部隊の士気を上げ、疾走で移動する時のステータスも上がる!
前回の戦いで彼女に士気を任せることができていれば、昼寝をしながらでも勝てていただろう。
そして、特徴的なのが、彼女の魔法である強化魔法(魔)というもの。
これは、味方の魔法を強化することができるかなり希少な魔法だ。
そして、この2つが何を意味するかというと、超高火力を誇る魔法部隊を作れて、それの機動力が高いということだ。
魔法兵部隊の中でも、けた違いに強いものができる。
たまらない。
だが、今の彼女は没落もせず、魔法も本気ではないだろう。
これからを考えると、育てる……ということも考えるとかなり大変だ。
それでも、強い魔法兵部隊は大陸の統一をする気があるなら必須。
必ず作らなければならない。
あ、ちなみにウチもちゃんと魔法兵部隊を持っているし、基本的に大きなところはどこも持っている。
ただ、これまでの戦で出てこなかったのは、国内最強のカゴリア騎士団がいるためだ。
その最強といざ敵対した時、魔法兵部隊は運用コストの割にただの案山子になってしまう。
だから、どこの領地もかなり少なく、持っていないということだ。
スルド男爵などのような弱小だと維持すらできないくらいコストがかかる。
魔法兵で有名なのだと三真国の一つがまじでやばくて、彼女には成長をしてもらわないといけないのだけれど……。
「あの……ユマ様?」
「ん? ああ、すまない。これからどうやって育てようかと迷っていた所だ」
やはりいきなり実践投入はかわいそうだ。
しかるべき部隊……だが、ヴァルガスではまずいか、ならセルヴィー騎士団長に任せるか……。
等々、すぐに考えが他の方に行ってしまう。
「育てる……育てる……」
「ああ、任せておけ。徹底的に俺好みにしてやる」
やはり彼女には統率と魔法を同時に上げてもらうのがいいだろう。
一騎打ちなんて普通はするものではないし、そもそも敵に近づかれてもらっては困るからだ。
ならば、ゆくゆくのことを考えて……。
ああ、いかん。
今はちゃんと部下になってもらえるようにしっかりと説明をしなければ。
「それで、問題はないかな?」
俺がそう聞くと、ナゼル夫妻は顔色を青くし、リリスは真っ赤になっていた。
「どうかしたか? ああ、リリス、安心しろ? 手取り足取り教えてやる。必要があれば部下もたくさんつけてやる」
魔法に関しては俺で良ければ教えるし、アーシャ、シエラ、セルヴィーと女性陣も数多くいる。
このことに関してはかなり自信を持っていい。
「そ、そう……ですよね。グレイル次期侯爵様がお望みなんですよね……。リリス……無事で帰ってきてくれ」
「ごめんなさい。リリス。私達にできることは、あなたの無事を祈ることだけ。でも本当に無理になった時は手紙を送ってきて。クルーラー伯爵様に頼み込んで、なんとかして返してもらうようにするわ」
「はい……お父様、お母様、行ってまいります。たとえどのような姿になろうとも、私はお二人の子であろうといたします」
3人はがっちりと抱き合い、涙を流している。
なんだこれ。
俺が金に糸目をつけずに少女を買っているようじゃないか。
そんな様子を見ていた2人の女性……いや、鬼神がそれぞれ俺の両肩を掴む。
「ねぇ……ちょっと話がある」
「ダーリン? あたし達の誘いを断っておいて……その泥棒猫はどういうつもり?」
「え……」
後ろからはビシバシと音がしそうな殺気が俺に飛んできていた。




