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第105話 ご褒美って必要だよね

「ユマ様を返して!」

「アーシャ……どうしたんだ?」

「ユマ様! 元に戻って! 優しいユマ様を返して!」

「いや……だから……」


 アーシャは俺を押し倒し、胸ぐらを掴んでめちゃくちゃにゆすってくる。


「ユマ様は努力家で! みんなが幸せになれるように色々と考えてるの! 全てを殺そうとするあなたじゃない!」

「アーシャ……」


 そう言ってくれるのはとてもうれしい。

 とてもうれしいが……。


 俺は彼女の手を掴んで止める。


「待ってくれ。俺は俺だ」

「ユマ様……さっきまでは凶悪な……自分が全員殺せばいいと思ってそうな雰囲気は……」

「ああ、少し飲まれかけていたかもしれない。だが、俺は俺で大丈夫だ」

「良かった」


 そう言って笑うアーシャの笑顔はとても美しかった。


「……」

「……」

「いつまで見つめ合ってるのよ」

「「!」」


 俺は慌てて声のする方をみると、そこにはかなりボロボロでヨレヨレになっているシエラがいた。


「ダーリンがなんかおかしくて行きたかったけど、前線も結構やばくて支援が必要だったからやってたのに。いい所は持っていかれるし……」

「わ、悪い。その……来てくれて助かった」

「いいけど……早く退いたら? ここでおっぱじめる気?」


 その言葉で俺の上……腰の辺りに座っていたアーシャが瞬時に飛びのいた。


 俺もそれに合わせて起き上がり、この空気を消すためには……。

 スルド男爵の部下の側に行く。


「降伏しろ。そうすれば命までは取らない」

「降伏します! 伝令! 降伏のドラを鳴らせ!」


 ということで、敵は即座に降伏して俺達の戦いは終わった。

 ナーヴァの方に援軍を……と思ったが、みな死力を尽くした後だったので行く力は残っていなかった。


 ちなみに、ナーヴァの戦場も翌日には勝利できていたらしい。


 こうして、スルド男爵は死亡、セモベラ子爵とソーランド騎士爵の捕縛に成功し、今回の戦いを終えた。


 シエラからのじとっとした視線が痛い。


******


 俺達は戦後の後始末をして、グレイル領に帰ってきていた。

 ギドマン家の方も色々とやっていかないといけない。

 最初は手伝うと申し出たのだが、ニジェールの言葉では、


「ボクも1人で……いえ、家臣達と一緒にやってみせます! ユマ様にご迷惑をかける訳にはいきません! ですので、こちらのことはお任せください!」


 ということを言われたので、彼に任せて帰ることにした。

 ちなみに侵攻してきた3人の領土は全てギドマン家が管理している。

 一応……ギリギリグレイル領の被っていないこともないのだけれど、点で重なっているという感じなので、ギドマン家に任せた方がちょうどいい。


 カゴリア公爵の領地の方もあるので、あんまり人手が割けないというのが本音だ。


 ということで、みんなでグレイル領に戻り、父上に挨拶をする。

 挨拶をするのは、俺とアーシャにシエラだけ。

 他の者達はそれぞれの持ち場に戻ったり、休暇で家族に会いにいったりしていた。


 父上はゴードンを控えさせ、執務室でいつものように仕事をしていた。

 少しうつろな目を俺に向けてくる。


「ただいま戻りました」

「ああ、よくやってくれた。ギドマンの新しい当主とも仲良くなれたようだな。ゴドリック侯爵とも問題はなかったか?」

「ええ、次の議会の時には王都の方に手を回してくれるとのことです」

「そうか……であればユマ。次の議会にはお前も連れていくぞ」

「父上?」


 議会は当主しか参加が認められていない。

 唯一認められているのは、当主が交代する時のみ。


 俺は父上を見ると、彼は少し目を閉じてしばらくしてから開く。


「ユマ。この意味が分からない訳ではないだろう」

「父上……」

「次の議会は3か月後だ。本来ならそろそろあってもいい機会だが、急進派の連中が国外対応で抜けられないと言ってきた」

「3か月後……」

「そうだ。それまでにユマ。お前は王都での安全を整えるために準備をしろ。シュウにも伝えてあるが、奴らのことだ。何を仕掛けてくるかわからん」

「……わかりました」

「任せたぞ。私は……少し休む」

「はい」


 父上の顔色は真っ白と言われてもおかしくないくらいだ。


「旦那様。一度お部屋でお休みしましょう」

「……ああ。そうだな」


 ゴードンに付き添われ、父上がゆっくりと立ち上がる。

 父上が仕事を止めてまでそんなことをするとは珍しい。

 いつも仕事は必ず終わらせ、他の者に任せたりしなかった。

 これは……俺に当主を譲るということで、俺に仕事の引継ぎをさせたいのだろうか。


「父上、父上の仕事は俺がやりますね」

「ああ……頼む」


 そう言って父上は執務室から姿を消した。


「よし……俺達も仕事を……」


 と思って一緒に来た2人を見ると、じっと俺を見つめていた。


「ねぇ、そろそろあたし達にもご褒美って必要じゃない?」

「いや、今からたまった仕事があるし、シュウの報告も……」

「アーシャ」


 シエラの言葉で、アーシャならきっとシエラに狙いをつけてくれる。


 俺はそう思っていた。

 

 ススッガッ!


「アーシャ!?」


 俺はアーシャに羽交い絞めにされる。


「……わたしもアルクスの里の部隊を率いてもいいと認めてもらった」

「……だからなんだというんだ!?」

「後ろで弓をうつだけじゃない。ちゃんと並べる、隣に並べるから」


 アーシャはそう言って手に力を込める。


「アーシャ……」


 そんなことを考えていたのかと思った。

 ただ、そんな思いに浸る暇はなく、前の方でごそごそと音がした。


「ん? シエラ!?」


 彼女は魔女の服を脱ごうとしていた。


「何? 大丈夫、ダーリンはじっとしてくれているだけでいいから」

「よくない! これからシュウの報告もあるし! 他にもたまった仕事もある!」

「あたし達のメンタルケアも仕事の内でしょ? 大丈夫だって、2人同時だから退屈はさせないから!」


 こういう時はアーシャに……と思い俺はアーシャの方を見るが、顔を赤らめているだけだ。

 その腕に入る力は一切緩んでいない。


 あかん。

 このままでは……。


 コンコン。


「ユマ様、よくお戻りになられました。ヘルシュ公爵領での工作結果を……」


 シュウが手に持った書類を見ながら入ってくる。

 しかし、俺達3人の姿を見ると、にこやかな笑顔になった。


「お3方、最初は普通にベッドがある部屋での方がいいのではないですか? 部屋には近づけないようにしておきますので」

「納得するな!」

「いいじゃない。シュウはもっと早くしろって思っていたわよ。多分」

「早く」

「いや、今大事な時期だろうが!」


 ということで、俺は3人に今の時期の重要性をこれでもかと話してなんとか思いとどまらせる。

 そして、騒ぎを聞きつけたセルヴィー騎士団長が間に入ってくれて事なきを得た。


 2人のことを悪く思っている訳ではない。

 だが、ゲームではなかった戦すらおき始めている。

 3か月後に王都にも行くことになるのだ。

 できる限りのことはしておかなければならない。

 俺が……グレイル領を継承し多くの者を守るために。


次の水曜日更新はお休みです。

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