第104話 全滅させよう vsスルド男爵②
俺はハルバードを振りかぶり、敵に向かって突撃していく。
「ユマ・グレイルだ! 奴を討ち取ったものには報酬は思いのままだぞ!」
敵指揮官の言葉に、その部下達は表情をこわばらせる。
普通は喜び勇んで向かってくるものだと思ったが……違うのか?
なんにしても俺がやることは変わらない。
「邪魔だ」
俺がハルバードを振りぬくと、あっという間に2つの首が飛ぶ。
「な……え……」
「しゃべっている場合か?」
俺はそのまま次々と敵の中を斬り裂き、突き抜けていく。
「か、囲め! 囲んで全員で攻撃するんだ! ぐあ!」
叫んだ指揮官を俺はすぐに仕留める。
囲ませて俺にこいつらを釘付けにするのが俺の今のやるべきこと。
でも、撤退を指示させる訳にはいかないので殺す。
この囲まれた状況のまま、敵兵を殺していくだけだ。
「ぎゃああああああ!」
「腕が! 俺の腕がかっは!」
「かあちゃん! かあちゃあああん!!!」
「なんだ、なんなんだこいつは! 化け物か!?」
そう声をあげた奴らの首を刎ねていくが、敵が減る様子はない。
流石に200人は違うな。
「俺はユマ・グレイル。さっさとかかってこい。こないなら……こちらから行くぞ!」
俺がここで騎馬をひきつけている間に味方がきっとうまくやってくれる。
ルークが敵右翼に突撃して後ろをついてくれれば中央が楽になる。
そして、そうなれば、シエラの助言を受けたギドマンの指揮官でもきっとうまくやってくれるに違いない。
俺がここで戦い続けるほど、味方は助かり楽になっていく。
生き残りやすくなる。
俺が殺せば。
「はぁ!」
俺は斬魔法も使って効率的に倒していく。
斬魔法は基本タイマン性能が高いけれど、数が多い敵に対しても使えない事はない。
斬撃を飛ばし、離れた敵の首を刎ねることもできた。
さらに俺ほどに強化していれば、鎧の上からでも斬ることも可能にする。
返り血を浴び、人の身体で見ていない部位などなくなったように思う。
「ぎゃあああ!」
「次」
この暗い夜空の下、俺は自身の目の瞳孔が開いているのが分かる。
次の獲物を、狩り取るべき敵を探す。
「ひ、ひいいいい!!!」
「無理だ! 勝てない! あれには勝てるわけがない!」
「助けてくれ! 俺は死ぬために兵士になったんじゃない!」
しかし、周囲の敵はそう言って逃げていく。
俺はその背を追いかけようとして、手綱を止める。
「いや……違うな。奴らが逃げる方向は問題ない……指揮官級はほぼ討ち取ったから再びまとまるのももっと後だろう。なら……次にやることは……敵将の首か」
月明りを頼りにざっと戦況を見たけれど、味方はかなり押している。
ルーク達が上手くやってくれたのだろう。
それに、シエラも敵陣に魔法を撃ちこんでいるのが分かる。
それらの影響でもうほぼ勝ち戦になっていた。
だが、それでも味方は死んでいる。
なら、どうするのが早いか?
「やはり敵将の首だな」
それを取れば味方は死なない。
そうと決まれば俺は馬を走らせ敵本陣を直接狙う。
「て、敵襲!」
「何人だ!?」
「単騎で突っ込んできます!」
「はぁ!? そんなバカなことがあるか!?」
「すごい勢いです! 味方が壁にすらなっていません!」
「ふざけっ!!!」
俺は叫んでいたやつらも、ただ黙っていた敵も等しく首を刎ねていく。
敵の予備隊はすでに前線に送られているのか、ほとんど抵抗なく敵本陣を強襲できた。
「スルド男爵! 敵騎馬が突っ込んできました!」
「レイン! 止めろ!」
「了解っす!」
俺の前に、きざったらしい槍使いが立ちはだかる。
馬に乗り、楽し気に口元を歪めていた。
俺はハルバードを振ってそいつの首を刎ねようとした。
ギィン!!!
「やっば! やばいっすねこれ! 普通の兵士なら絶対首落とされてたっす!」
「当然だ。その方はユマ・グレイル様、あの武芸大会でも圧倒的な力を示されたお方だ」
そう言って出てくるのは貴族らしい風体をした若い男。
雑魚だから記憶が怪しいがこいつがスルド男爵だったはず。
「男爵様の推しなんすよね」
「そうだ。ああ、ユマ・グレイル様。お会いしとうございました。この度は私にわざわざ会いに来てくださってありがとうございます」
「……」
俺はこいつが何を言っているのかわからずに思わず手を止める。
周囲の敵も俺に向かってくるわけではないので、話をして少しでも情報を集めたい。
「どういうことだ?」
「ああ! ユマ様のお声は素晴らしく、ずっと聞いていたい!」
「早く説明しろ。首を刎ねるぞ」
「それもいいでしょう! ですが、まだまだあなた様のお側で活躍を見守りたい。ご説明いたしましょう。今回の戦。私もユマ様の配下にしていただきたいと思って起こしたのでございます!」
「……は?」
今回の戦いが俺の部下になりたくて……?
いやだったら最初からそう言えば良かったのではないか?
最初からそうしていれば、俺は普通に仲間に加えただろう。
俺が思わず言葉を失っていると、彼は楽し気に話し続ける。
「ユマ様は武芸大会以降素晴らしい戦績を収めておいでです。ジェクトラン家、クルーガー伯爵と協力しての対ユリウス、そしてカゴリア公爵。その全てにおいて勝ってきた。だから、私も仲間加えてもらえないかと」
「……意味が分からない」
「今まであなたと敵対してきたものはみな討ち取られた。カゴリア公爵以外は……」
「それが?」
「そこで私は考えたのです! カゴリア公爵のように強い私を見せ、それからあなたに認められて仲間になる! そうすることが、私にとっての幸せであると!」
俺はこいつが何を言っているのか意味が分からず、目の前のレインという男を見つめる。
彼は首をすくめて首を横に振った。
「いやぁ、わかんないっす。主の思考回路は大分バグってきている気がするんすよねぇ」
「俺も理解できん」
「理解できる人がいたら頭がイカレているだけなんで、気にしない方がいいっすよ」
「主をイカレていると言っていいのか?」
「はは、だって、生きて帰れるかわかんないんすよねー。俺の首も次の瞬間には飛んでそうなんですもん」
事実ではある。
スルド男爵の話を聞くのに、この男が生きていた方がぺらぺらとしゃべってくれると思うから生かしていたにすぎない。
そして、相手もそれをわかっているからか、手がカタカタ震えている。
「降伏しろ。そうすれば命までは取らない」
今最優先はそれだ。
しかし、スルド男爵は納得しなかった。
「何をおっしゃいます! あなたはカゴリア騎士団長を下したのです! 我が忠実な部下であるレインもそれに並ぶほどの実力を持っています! ぜひ、戦ってその強さを知っていただきたい! その暁には! 私を認め、あなたのナンバー2に置いていただきたいものです!」
「本当に……本当に……そんな理由のためにこの戦を起こした……ということでいいのか?」
「当然です! あなたの隣に立つため以外になんの理由がありましょうか!」
「ではギドマン家の領地の民を殺していたのはなぜだ。俺達の仲間になりたいのであれば、それは必要なかったはずだ」
俺がそう言うと、彼は苛立たしげに地面を蹴りつける。
「ギドマンなどと言う雑魚があなたの隣にふさわしいはずがない! だから教えてやろうとしたまでのこと!」
「そうか……わかった」
「わかってくださいましたか!」
「ああ、お前にもう用はない。あの世でゆっくりするといい」
俺はそう言ってハルバードを振りかぶり、奴に向かって振り下ろす。
しかし、そこに先ほどの槍使いが割り込んでくる。
「させねぇっ……す……」
「邪魔だ」
俺は一言いってレインとやらの首を刎ねる。
ドサ。
「レイン……なぜ……いや、そんな……そん……」
ドサ。
俺はそのままスルド男爵の首も刎ねる。
「もう……このまま敵を全員殺した方が早い……か?」
こんなふざけた理由で、こんなことを起こしたというのだろうか。
人の命をなんだと思っている?
人が死んだ数は所詮数でしかなく、問題にもしていないのだろうか。
そんな奴らならば……殺すしかないか。
「さぁ、お前達。あの世へ行く準備をしろよ?」
「ひ、ひぃ!」
「た、たすけ」
俺はハルバードを持ち上げ、他の奴らに向けてそれを振り下ろそうとして、
「っ!」
俺はそれを止める。
今……何をしようとした?
俺は……今誰だった?
いけない。
飲まれてしまってはいけない。
俺は俺でなければならないんだ。
そうでなければ……この力に任せ続けていては死んでしまうことは知っている。
今やるべきことは降伏をさせて、すぐにでもこの戦を終わらせること。
「ふぅ……お前達の主は死んだ。直ちにこう……」
「待って!」
話している途中、誰かに抱き着かれて馬から落ちた。




