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第103話 敵のレベル vsスルド男爵①

「出過ぎるなよ! 俺たちの目的を忘れるな!」


 俺は前線の兵を指揮しながら鼓舞もする。


「そろそろあたしが行った方がいい?」

「もう少し待ってくれ。ある程度数は削っておきたい」

「わかったわ」


 俺たちはスルド男爵の兵2000と対峙していた。


 敵の布陣は正面に歩兵1000、その後方に弓兵200、騎馬200を配置していて、左右には歩兵を300ずつ置いている。

 対してこちらは正面に1000を置いているだけ。

 一応俺が連れてきた50は騎馬ではあるが、流石に数が違いすぎる。


 敵の策としては正面からぶつかり、こちらが逃げられなくなった所で左右から挟もうとしてくる。


 それに対して、こちらは敵が正面からぶつかり、包囲されそうになった時急速に後退し、敵が逃がすまいと食らいつこうとしている所をシエラが魔法で焼き払うということをやって時間を稼いでいた。


 こうすることで敵の左右の隊と弓兵と騎馬は遊兵になる。

 これを続けていれば、敵騎馬が出てくるまでは1000対1000の対等な勝負ができるのだ。

 敵の指揮もあまり優秀ではないので、戦況はこちら優位に進んでいた。


 そうしていると、ちょうど敵左右が前進を開始する。


「シエラ! 出てくれ!」

「わかったわ!」


 シエラは空を飛んで前線に向かい、俺の指示で敵を焼く。


 彼女がいるだけでとても助かっている。


 敵弓隊の射程外から前線だけを焼き、味方が撤退する時間を稼ぐ。

 シエラに頼った戦術だが、これが一番被害が少ない。


 今回もうまいことをやってくれていた。


「ただいまー。敵はずっと同じ動きね学習しないのかしら」

「そろそろ攻め方を変えてきてもいいころ合いだが……」


 敵正面は足を止めているが、左右の敵はいない俺達を包囲するように敵正面とそれぞれ合流した。


「何をするつもりなの? あれ?」

「……」


 敵が何もない所を狭めて包囲する。

 ただ指令が遅れただけ……という可能性も考えられるか?

 それだけで割り切っていい相手か?


 今まで知っている相手との戦いばかりだったせいか、敵の戦術レベルが分からない。

 あまり高いようには感じない、感じない。


「考えることは敵が策を講じてきてからでいい。無理に攻めて敵に挽回のきっかけを与える必要はないからな」


「なるほどね。こっちが考えて動きを止まったり、攻めてくれてうれしいのは向こうってことかしら?」


「そういうことだ」


 そう言って周囲の者達にもちゃんと説明して、今目の前に向き合ってもらう。


 俺は俺で、相手がどうしてくるのか、それをどのように打ち破るべきかに頭を回すべきだ。


「っていうか、敵はまだ味方同士でごちゃごちゃやってるわよ。やっぱり指揮系統が微妙なのかしら」

「そうやって時間を使ってくれるなら儲けものだな」

「あ、また別れるみたいね」


 しかも、敵の情報はこうやってシエラが逐一教えてくれる。

 魔法で空を飛んで敵の情報を得られるのは強すぎないか?

 ずっと飛んでいられる訳ではないので制限はあるが、ゲームでもこんなことはできなかった。

 現実になったことでできるようになったことの幅が広すぎる。


 シエラの魔法もだが、騎馬を50で編成できるとかもそう。

 ゲームだと100騎単位でしか編成できなかったのだ。

 それが今は分割したりやろうと思えば歩兵に弓を30だけ混ぜたり選択肢は無数にある。

 鎧のデザインも変えようと思えば変えられるのだ。

 まぁ……これらはあんまり意味はないけれど。


 そんなことを考えていると、敵が動き出したようだ。


「また同じ攻め方みたいね」


「同じ……こちらも迎え撃て!」


 俺は部下達にそう命令をして、敵の意図を考える。


 敵が動き出して……何をするつもりだろうか?

 さっき味方同士でごちゃごちゃした……ミス? 本当に?

 それなら、最初の時にもっと何かあってもいいはず。

 彼らを操っている前線指揮官がいなくなった? いや、それはあり得ない。

 前線の方にしか攻撃を加えていないので、多少後ろにいる指揮官が死ぬことなどありえないだろう。

 では味方同士が混ざって何をしたいのか?

 兵の配置を入れ替えたい……というのを隠すためとか?

 なんのために?


「シエラ、敵の後方を見てくれるか?」


「後方? いいわよ」


 彼女が登っていき、すぐに降りてくる。


「さっきから変わっていないわね。騎馬はずっと同じ感じでついてくるし、フードの弓隊もさっきよりちょっと近づいているけど。あたしを射程には捕らえられない場所だと思うわ」


「射程……なら、今まで誰か射程に近づいた奴らはいたか?」


「今日だと……敵弓隊が左奥にいるでしょ? だから右側を飛んでいるようにしているわよ。だから前線右側の相手か敵左翼の兵くらいかしら?」


 その言葉を聞いて、敵の意図を理解した。


「なるほど。狙いはシエラか」


「え? あたし?」


 なんのこと? と首を傾げる彼女に俺は説明する。


「奴らがさっき合流したのは味方同士の配置を入れ替えるためだ」


「どうして?」


「フードを被った弓隊がいるのだろう? そいつらは前線の兵士と衣装……上を渡す。それから、何食わぬ顔で前線に入る」


 正直俺達が攻撃を仕掛けたらどうするつもりだと聞きたい。

 ごちゃごちゃの中移動をしていたなどばかげているにもほどがある。

 でも、それくらいしか可能性はないように思える。


 シエラも納得してくれたのか、理解していた。


「左右が戦闘になったら……そうか」


「ああ、俺達は左右の敵兵がぶつかるまえにシエラで時間を稼ぎ、後退している。敵はそこを狙ってシエラを刈り取るつもりだろう」


「えーそれじゃああたしは左から行けばいい?」


 シエラも弓の的にされるのは避けたい。

 そう思っているのかそのように言う。


「そうだな……」


 ただ、それはあくまで俺がそう思っている……というだけである。

 ここで左に行ってシエラが普通に弓隊に撃たれたら裏目もいい所だ。

 それに、敵右翼にも弓兵を配置していないとも限らない。


「決めた。ルーク! 騎馬50で敵左翼に突撃をかける!」


「ユマ様!? 今ですか!?」


「そうだ! 今だ!」


「かしこまりました! 全員いつでも行けます!」


 ルークは声高に叫んでハンマーを掲げる。


「いいの?」


「ああ、同時にシエラも右翼方向に向かってくれ。シエラは俺達が撃たせない」


「……もう、そういうことは戦場では言っちゃダメらしいわよ?」


「俺なら問題ない」


「ふふ、そうね。じゃあここは?」


「元の指揮官に任せる」


「は、はい! がん、がんばらせていただきます!」


「……ああ」


 頼りないが……という言葉は飲み込んでおく。

 ギドマン家の指揮官は言うことは聞いてくれるが、戦に関しては少し自信がなさそうだった。

 今もガチガチに緊張していて、目が泳ぎまくっている。


 正直自分で指揮を執りたい所だが……敵300に突撃をかけるなら俺が指揮するしかない。


 であれば彼を信用し、任せるべき場所だ。


「出るぞ!」


「おおおおおおおお!!!」


 俺の言葉でたった50騎、されど50騎が叫び、敵右翼へ向けて突撃を開始する。

 50騎であるためかそれとも50騎しかいないからか、極めて速く敵陣に斬り込む。


「斬り裂け!」


「おおおおおおおお!!!」


「て、敵襲! 敵がそくめぐはぁ!!!」


「迎え撃て! なにをぎゃあああ!!!」


「ダメです! 弓隊100が邪魔になっています!」


 俺達はそのまま敵陣を斬り裂いていく。

 途中、剣ではなく弓を向けてくる連中がいたので、推測は当たりだったようだ。

 そいつらを斬りながら反対側に出る。


「よし! 敵騎馬が出てくる前に戻って後退する!」


「は!」


 目測ではあるが、敵兵は100以上はケガ以上を負わせることができた。

 これで敵左翼は洒落にならない戦力を失い、継戦も厳しいはずだ。


 シエラも魔法で敵を足止めしているし、これで無事に帰れれば大きい。


 後は戻るだけなので、俺達は自陣へ向かって進もうとする。


 そこに、シエラが降りてきた。


「ダーリン! 敵騎馬が動いたわよ!」

「今更だ! 俺達が戻って態勢を立て直す時間はある!」

「だけど! 歩兵の反対側に食らいつかれてる!」

「なに!?」

「味方が後退できていないわ!」


 敵右翼が味方に食らいついた……しかも、敵の騎馬が出てきている。

 俺達が下がったとしても、そのまま歩兵が包囲されてしまう。

 今から戻って俺が指揮をすればいけるか?


 いや……足を止めている間に敵騎馬が俺達か背後を突いてくる可能性が高い。

 そうなったら終わりだ。


 いや、もう食らいつかれているなら手遅れだ。

 せめてこの騎馬で反対側の食らいついている敵に襲い掛かれればいいが……。

 敵騎馬が俺達を追って背後から狙ってくるだろう。


 そうでなくても、味方背後を取られれば……。


「どうするの? ダーリン? あたしが騎馬やれるかやってみようか?」


 シエラがそんなことを言ってくる。

 ああ、彼女ならできるかもしれない。

 そして、彼女だけで敵騎馬を抑えられるなら、この戦は負けるどころか勝てるだろう。

 だが、彼女はここまでずっと飛んで魔法を撃ってと働かせ続けている。

 今も汗をぬぐいながらも、気にしないと言ってくれる。


「シエラは指揮官の所に行って、ルーク達が敵右翼の後背を襲うと同時に攻めに転じるように話してきてくれ。その後は彼ら護衛を任せる」

「ダーリンは?」

「俺が単騎で敵騎馬を殲滅する」

「えぇ!? ダーリン1人で!?」

「そうだ、シエラにできるなら、俺だってできる」

「いや……そうかもだけど……空飛べないでしょう?」


 俺はルークに向かって叫ぶ。


「ルーク! 騎馬を率いて敵右翼の背を突け!」

「かしこまりました!」

「いけ!」

「はっ!」


 ルークはすぐさま手綱を操って目的地へと向ける。

 そして、部下達もみな当然といったように付いていく。


「え……ちょっと、ダーリンが単騎で行くっていうことに疑問を抱かないの?」

「あいつらは知っているからな。俺の強さを」

「ダーリン……」

「俺は勝つ、今回も……これからも。名のある武将もいないたかが200の騎馬程度で、俺を殺すことはできん」

「……」

「シエラ。伝令の件。任せるぞ」

「ええ」


 彼女はそれだけ言うと、風魔法を操って自陣の方に向かって行く。


 俺は、こちらの方に向かってくる敵騎馬200目掛けて突撃する。


「死にたい奴から前に出ろ!!!」


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