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凶悪な悪役貴族に転生した俺は、ほぼクリア不可能なルートを努力とゲーム知識で生き残るために斬り開く  作者: 土偶の友@転生幼女3巻12/18発売中!


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第102話 モラン視点 vsギドマン家&アルクスの里

 私はセモベラ子爵様に仕える指揮官であるモラン。

 今は子爵様に任せられた1000を率いて子爵様の左翼を守っている。


 正面の敵はそこまで強くはない。

 だが、その奥にいるアルクスの里の連中が厄介だった。


「あいつらをどうにかできんのか」

「それは難しいかと。数は相手の方が多いのです。どこかから戦力を抜けばそこが穴になるでしょう」

「わかっておる! だが、このままではじり貧だ。数日は持つかもしれないが……それ以降は保証できん」

「その前に子爵様が手を打ってくださるといいのですが……」

「できれば……な」


 子爵様は戦が得意ではない。

 なのに、議会の1角に席をおくギドマン家に戦を仕掛けた。

 スルド男爵にそそのかされたとはいえ、いくら何でもこのままでは……。


 この戦の着地点をどこに持っていくべきか、どうやって敵をしのぐべきかを考えながら指揮を取る。

 そうして半日ほどしたころ、異変が起きた。


「ぐあっ!」

「なんだこれは!?」

「どこから!?」


 突然私達が構える陣地に矢が降り注いだのだ。

 運よく助かったけれど、運が悪ければ死んでいた。


「あそこです! 50名ほどの弓兵が射程ギリギリで矢を放っています!」

「なぜあんな距離まで気づかなかった!?」


 敵はこちらと森の中間地点より少しこちら側に存在していて、弓矢を放ち続けている。

 最初の一撃で仕留められていたら危なかったが、気づいたならばもう問題はない。


「予備兵150で追え! 決して逃がすな!」

「はっ!」


 気づかなかったことに対する叱責は戦が終わった後でよい。

 今はなんとしてもあの敵を殲滅するべきだ。

 それに、今回の攻撃は魔法などの可能性もある。

 アルクスの弓部隊はグレイル領所属、そして、そこにはあの『焼尽龍姫』がいる。

 ならば、それに近しい存在がいてもおかしくはない。

 以前、武芸大会で多くの人材を集めたという話もあるのだ。


「うろたえるな! 周囲の警戒は担当の者がする! 警戒する者に任せ、残りは前だけを向け!」

「おう!」


 部下達の士気も悪くない。

 あのギドマン家相手に互角に戦えているという思いがあるからか。


 前線の状況を見つつ、殲滅に送った兵士からの報告を待つ。


「急報!」

「どうした!」

「弓部隊を殲滅に向かった150の部隊は私を除いて全滅しました!」

「なにぃ!? 何があったと言うのだ!?」


 私は驚きで目が飛び出るかと思った。

 150が50に負ける?

 いくら相手がアルクスの里の者達でもそれは無理だ。


 しかし、急報に来た兵士は泥にまみれたまま答える。


「森に伏兵がいました! 追いつけるかという所で集中砲火を浴びて足が止まり、その隙に逃げていた者達も反転、次々に射抜かれていきました……申し訳ありません」

「いや……いい。休め」

「失礼します」


 彼の言う通りそちらの方には味方の死体がこれでもかと転がっている。


「……使う気はなかったがアルクスを落とせるのであれば出すしかない。伝令! 子爵様の元へ行け!」

「は! 内容は?」

「騎馬200を増援として送ってもらうようにしろ」

「かしこまりました」


 伝令がすぐに子爵の元に向かう。


 しかし、側近達がすぐに駆け寄ってくる。


「モラン様、よろしいのですか? これでは敵の騎馬に対応できません」

「だが、それ以外であのアルクスの里の奴らをなんとかできるか? 150があっさりとやられたのだぞ?」

「放置しては?」

「ずっと矢の雨の中にいろと? こちらはすでに150を失い兵の数も足りておらん。常に横から矢の雨が降り、正面からは敵兵が向かってくる。こんな状況で士気を維持できる指揮官がいるのなら見てみたいものだな」

「それは……」

「騎馬に損害がでるのは仕方ない。だが、向こうもリスクをとって動いているのだ。こちらもそれ相応の動きをせねばならん」

「失礼しました」


 それから、少し待っていると騎馬200が到着する。


「お呼びかモラン殿」

「ああ、そろそろ……来たか」


 すぐに矢の雨が私達の周囲や前線の後方に落ちてくる。

 森に戻った奴らは再び出てきて我々に矢の雨を降らせる。


「狙いはあれですかな?」

「そうだ。早々にひき殺してくれ」

「承知した。全軍突撃! あの貧弱な狩人共に戦場は誰の者かを教えてやれ!」

「おお!」


 騎馬部隊隊長の声で騎馬が一斉に奴らに向かって行く。


 次の瞬間、戦場の上空に鏑矢(かぶらや)が飛ぶ。


 ピィィィィィィィィィ!!!


「!?」


 なんの合図だ? そう思う間もなく、敵の意図を悟る。


「敵騎馬が出てきました! 奴ら、準備してやがったのか!?」


 側近の一人が叫ぶ。


 それと同時に、敵50のアルクスの連中は森に向かって下がっていく。


 こちらが騎馬を出すことを予見していた?

 なら一度下がらせるべきか?

 アルクスの奴らを襲っている時に横っ腹を突かれてはひとたまりもないからだ。


「敵騎馬の数は!?」

「およそ150です! ニジェールもここからは見えません!」

「なら敵騎馬を襲わせろ! 混戦になれば弓は撃てなくなる! そしてそのまま騎馬を消せればこちらに戦況が傾く!」


 しかし、味方は騎馬、伝令は送ろうにも送れない。

 ただ、騎馬の隊長も私と同じように思ったのか、敵騎馬に進路を変える。

 口下手だがその辺りの機微はとてもわかっている優秀な隊長だ。


「よし、これで少しは楽になるといいのだが……」


 それからはしばらくは前線に目を光らせる。

 そもそも数が少ないので、敵より効率的に運用をしなければ押し負けるからだ。


 前線の指示を軽く出し、騎馬の方に目を向ける。

 すると、アルクスの連中が100人に増えていた。


「なぜ増えた? どこから湧いたのだ?」

「森から出てきました。大人しく隠れていれば死ななかったものを」


 側近はそう言うが、そうではなかったら?

 味方騎馬は敵騎馬に向かっている。

 そして、アルクスの連中は、そんな2つがぶつかる近くに陣取っていた。

 奴らはアルクスの里。

 そう、弓の名手揃いのアルクスの里の精鋭の弓部隊。


「いかん! 騎馬を下がらせろ!」

「え?」


 側近がそう言った次の瞬間には、騎馬同士がぶつかり合う。

 お互いの足はすぐに止まり、混戦になるだろう。

 混戦……とは言っても、歩兵同士が戦うよりも、馬がいることでお互いの間隔が開いている。

 奴らならばそこを……。


「アルクスの連中矢を放ち始めたぞ!?」

「な! 味方だけがやられている!?」

「どんな精度だ!?」

「こんな……こんなことがあるか!? こちらの騎馬だけがやられている!?」


 部下達から悲鳴が上がる。


「うろたえるな! 急ぎ左側に重装兵を移動! 伝令! 子爵に増援をできるだけ頼め! このままではここが落とされる! 動け! 足を止めるな!」

「は、はい!」


 部下達はすぐに動き出し、前線も少しずつ左に送って騎馬に備えさせる。

 もう今から増援を送っても間に合わない。

 ならば、ここだけでも突破されないように何としてでも死守しなければならない!


 だが、それすらも罠だった。


「うわあああああああ!!!」

「敵騎馬が突っ込んできました!!!」

「左は備えていたはずではないのか!?」

「そちらではありません! 我々の正面! 兵が減った場所に突っ込んできています!」

「なんだとぉ!?」


 そんな、そこまで計算されていたというのか?


「敵騎馬! 左も合わせるように突っ込んできました!」

「くっ! 後退する!」

「間に合いません!」


 私達の正面でも剣戟と騎馬の地響きが身体に伝わってくる。


 なにか、なにか策は……。


「会いたかったぞぉ! ゴミムシ共がぁ!」


 そう言って2mはある背丈にフルプレートをまとい、大斧を軽々と振り回す男が騎馬に乗って現れた。


「くそ!」


 私は最期の抵抗として、矛を手に取って向き合う。

 正面に立ってわかるこの圧倒的な迫力。

 これとまともに打ちあえる者など……。


「ぶわっはっはっはっは! 突撃するだけなのは楽でいい! さぁ別れの挨拶をわざわざ言いに来てやったのだ! 冥途の土産に持っていけ! ガイチュウ共には過ぎた言葉だがなぁ! さらばだ!」


 その言葉を最期に、私は意識がなくなった。


******


 わたしは右翼を抜いて司令部を叩き、そのまま中央の敵に踊りかかるニジェール様を見て安堵する。


「ふぅ……上手くいった」

「素晴らしいですね。ここまでできるとは、里長を超えたのでは?」


 副官はそう言ってくるが、今はそんなことはいい。


「悪いけどこのまま働いてもらう」

「敵の殲滅を?」

「ここはもういらない。ニジェール様とその配下に任せて問題ない。わたし達はユマ様の元に向かう。急いで」

「かしこまりました。我らが主」


 わたしはその言葉を背に、ユマ様の元に向かう。


 ちなみに、この後ニジェール様が敵兵を切り刻みまくり、この時戦いに参加した者達はニジェール様を決して怒らせてはいけないと心に誓うことになったらしい。


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