第100話 不明な戦争の軍議
今回で100話到達ですー!
やったー!
これからもよろしくお願いしますー!
俺達は飛ばしに飛ばし、ギドマン領へと急いだ。
ただ、その道中に少し落ち着き、今回のことに頭を巡らせる。
まず、聞いた話によると今回攻めているのはスルド男爵、セモベラ子爵、ソーランド騎士爵。
俺は何度も何度も『ルーナファンタジア』をクリアしてきた。
だから、どこにどんな優秀なキャラがいるのかは全部把握している。
その優秀なキャラの中に、上で上げたキャラはいない。
スルド男爵の所にはそれなりに優秀な武官がいたということくらいだ。
そして、そういったキャラの物語は残念ながらない。
なので、彼らがどういうことを思っていて、どう行動したのかがまったくわからない。
ゲームでもレックスがノウェン国を統一した時に、ひざまずいているキャラの中の一人達という扱いだったはずだ。
「なら俺と同じ存在か……? いや、それならもっと違った接触の仕方もあったはず……」
もしそいつらの中に転生者がいたとしたら……と考えたけれど、今更穏健派に喧嘩を売る理由がなさすぎる。
戦っている間に急進派の援護を待つつもりかもしれないが、その前にグレイル領から増援が来てひき殺されるだろう。
少なくともそこまで優秀な存在ではない。
ならば、戦争になってもある程度は優位に進められるはずだ。
ギドマン領もそれなりに動員できるはずだから、いくら相手が連合を組んでいたとしても勝てる。
「その身に教えてやる。誰に喧嘩を売ったのかを」
俺はそんなことを考えながら、ギドマンの領都に到着した。
夜に到着した都は大いに慌てていて、かなりの人混みだった。
今こそ商機と様々な物を販売する商人、近隣からここなら安全と逃げてきた農民、自分の腕なら追い返せると名乗りを上げる武人等等。
かがり火がたかれ、多くの人が行き来している。
彼らの中を通り、俺達は急いでニジェールの元へ向かうと、彼は兵士に指示を出している最中だった。
「今は動員できる全ての兵士を集めて! 住民達の住居はこの際後回しでいい! 今の気温ならそうそう死ぬことはない! グレイル領からの増援が来れば勝てる! だから今は焦って止めようとしないって伝えて!」
「かしこまりました!」
兵士達に指示している姿を見て、俺は立派になったと思う。
が、今はそんなことを話している場合ではないか。
「ニジェール殿! 戻った! 現状を教えてもらえるか!」
「ユマ様! もちろんです! 今アルクスの里の部隊の方々も交えて軍議をしています!」
「わかった。急ごう。ルーク、お前達もすぐに戦いに行く。だが、今は疲れているだろう。少しは休ませておけ。ニジェール殿。それくらいの時間はあるだろう?」
「ええ、明日には出立できると思います。なので、それまでに兵士をどう分けるのかを決めたいです」
「わかった。ルーク。いいな?」
俺がルークの方を見ると、彼は少し不安そうな表情を浮かべる。
「どうした?」
「いえ、ユマ様こそお休みになられては……。ゴドリック領からずっと休まずに来ていますし」
「しかし、俺がいなければ軍議は進まないだろう。その気持ちだけ受け取っておく」
「……わかりました。戦場ではユマ様にお休みいただけるようにいたしますので」
「くく、頼りにしている」
ルークは頭を下げて他の部下達と下がっていく。
しかし、俺が戦場で休めるようにと言うなんて、言ってくれる。
ただ、そう言ってくれるほどに信頼関係を結べているということは純粋にうれしい。
そんなことを思っていると、シエラは休まずに俺についてくる。
「もう、あたしだってやってあげるんだから」
「シエラのことも頼りにしているさ」
「当然よね!」
「休まなくていいのか?」
「いいのいいの。アーシャがいなかった間のことを煽ってあげないと」
「そんな理由なら休んでおけ……」
違った問題を引き起こしそうだったけれど、シエラはついてくる足を止めない。
まぁ、軍議の場では彼女の魔法も頼りになるだろうし、その力を使ってもらうことになる。
だから連れていくしか選択肢はないんだが……。
こんな時にアーシャに撃たれないようにと思ってしまう。
「お待たせしました! ユマ様をお連れしました!」
ニジェールはそう言って一室に入っていく。
部屋の中にはギドマン家の指揮官が3人、それとアーシャにナーヴァがいた。
大きな机の上に広がった地図を囲んで話し合っていたようだ。
ニジェールの言葉で彼ら全員がこちらの方を向いた。
アーシャは……一瞬うれしそうな顔をした後に、隣にいるシエラの顔を見て一瞬背中の弓に手が伸びていた。
そして、それをナーヴァに止められている。
彼らをよそに、ギドマン家の指揮官の一人が口を開く。
「ようこそおいでくださいました」
「礼はいい。早速本題に入ってくれ」
「かしこまりました」
それから彼の現状が詳しく話される。
現在敵は中央をスルド男爵の兵2000、その左翼……と言っても徒歩で1日はかかる場所をセモベラ子爵が4000、反対の同じくらいの距離をソーランド騎士爵が1000で進軍してきているらしい。
略奪は行っているらしいが、民間人はなぜか殺していない。
あれだけ村々を焼いて殺しておいて今更と思わなくもないが、今はおいておく。
そして、こちら側の兵力はギドマン家の兵士が6000にアルクスの里の弓部隊が1000。
本来であればもっと多いはずなのだけれど、国境沿いの村々の復興で派遣しているためにこれだけの数しかいない。
現地である程度は集められるかもしれないが、数には入れない方がよさそうだ。
ちなみに我がグレイルにも応援を要請しているけれど、数日はかかるだろうということだった。
なので、今すぐの軍は期待できない。
「同数の数をどのように当てるのか……そして、指揮権をどうするのか……ということで今悩んでおります」
指揮官はそう言って頭を抱える。
彼の顔にはクマが出来ていて、おそらく宣戦布告されてからずっと寝ずに仕事をしてきたのだろう。
ならば、ここはある程度俺が引き継ぐべき……大変な役回りをする方がいいだろう。
「俺に1000の指揮権をくれ。中央を足止めする」
「たった1000でですか!? 敵は2000もいるのですよ!?」
「こっちには俺がいる。それに、シエラもいるんだ。時間稼ぎくらいはできる」
俺がそう言うと、アーシャが口を開く。
「時間を稼いでどうするの?」
「お前達が敵を打ち破って援軍に来てくれるのを待つ」
「っていうことは……」
「ニジェール達が4000とアーシャ達の弓部隊500でセモベラ子爵の相手を。そしてナーヴァ達の弓部隊500と、ギドマン家の1000でソーランド騎士爵の1000を打ち破ってくれ。それが終わり次第中央の俺達の元に来てくれれば、それだけで勝てるだろう?」
「……シエラが本当に1000人分になるとは思わない」
アーシャがそうじっとシエラを見て言う。
「んーまぁ……流石に本当に1000人ってなったら……その日のうちにはちょっと怪しいかも」
「なら……「アーシャ」
俺はアーシャをじっと見つめて口を開く。
「俺達なら問題ない。心配だと思うなら援軍に来てほしい」
「……ユマ様がそういうなら」
基本的に戦争は数が物を言う。
少数の数で大軍を打ち破った例はいくつもあるが、逆のことの方が何十倍も多い。
だから、ニジェールかナーヴァ達が急いで倒してくれれば、一番不利であることが確定している俺達の元に来てくれる。
そうなればもう後は簡単だろう。
そんなことを察してか、指揮官が口を開く。
「ユマ様。こちらも同数を当ててなるべく時間稼ぎをするべきでは? グレイル領からの援軍が到着してから攻勢をかけるということもできると思いますが」
「ただでさえ先日の襲撃で民達の気持ちは不安になっている。その証拠に避難民も多いだろう」
「それは……」
「それに、スルド、セモベラ、ソーランド以外の者も攻めてくる可能性もある」
「そんなこと……」
「そうでもなければこんな戦は起こさないはずだ」
「確かに……」
万が一……奴らの奥にいる他の領地の貴族も来ている可能性を考えると、ゆっくりできる時間はない。
「ニジェール。お前も早く倒してきてくれ。待っている」
「はい! できるだけすぐに倒して向かうことにします!」
「頼りにしている」
どうしてこの戦争が起きたのかわからない。
誰が仕組んだのか……それともこの世界がユマ・グレイルを殺そうとしているからか。
どちらでも構わない。
俺はどんな不利な状況も斬り裂き生き残る。
決めたのだから。
それから兵士の配分などを詳細に話し合い、軽く休憩をする。
翌日には出陣となった。