プロローグ
目覚めると真っ白な天井を見つめていた。
どこなの?
ここは……。
さっきまで、ルーカスの不細工な面を蔑んで笑っていたのに……。
ここは、どこなの?
まるで、眠っていたかのようにぼんやりとした視界の端に醜い豚が映り込む。
「な、何なのよ!!」
「よかったわ。お父さん、ジュリアが目を覚ましたわ」
「あーー、本当だ。よかった。本当によかった」
醜い豚は、私の手を握りしめながら泣いている。
誰?
これは、誰なの?
馴れ馴れしく私の名前を呼んで。
「汚らわしい、醜い豚。手を離しなさい」
「ジュリア、あんた何を言ってるの?」
「母さん、階段から落ちて頭を打ったんだよ。仕方ないだろ」
「ワタクシの名前を馴れ馴れしく呼ぶんじゃないわよ。ワタクシは、国王陛下の娘なのよ。オーッホッホ」
「何それ?父さん、母さん。姉ちゃん、頭打ちすぎだろ?」
「お医者さんを呼びに行ってくるよ」
「まさる、お母さんとジュースでも買いに行きましょう」
三匹の豚は、私を置いていなくなった。
失礼しちゃうわ。
何が、姉ちゃんよ。
あんなのと一緒にされるなんてあり得ないわよ。
小さな棚の上にある鏡を手に取る。
ワタクシがあんな豚の家族なんてあり得るはすがないわ。
「ギャ、ギョ、ギエェェェェェ」
「ど、どうしたんだ!ジュリア。先生、すぐに娘を見て下さい」
「はい。わかりました」
「気安く触らないで。汚らわしい」
「これは、診察ですので」
「ふざけないで。ワタクシをこんな豚に改造しておいてよく言うわよ!このヤブ医者」
「いやいや。私は、ここの脳神経外科の外科部長ですよ。ヤブ医者とは酷い言い方をしますね」
「すみません。先生。ジュリアは、頭を強く打って記憶がおかしくなってしまってまして」
何なの。
この茶番は……。
「ワタクシ、帰ります」
「いえいえ。それは、困ります」
「どうしてよ。こんな場所にはいられないわよ。離しなさい。家来を呼びますよ」
「朝倉さん、この患者さんは眠らせなきゃ駄目だわ」
「離しなさい。触れるな。汚らわしい。醜い豚やろ……」
何かを刺されて、体がふわふわとする。
吸い込まれるように一気に闇に溶けていく。
どうなってるの?
この世界は、何?
☆
☆
☆
「よかった。私、死ねたのね。ようやく楽になれたのね」
暗闇の中、スポットライトに当たるように豚がいる。
「あんたがワタクシの体を豚の中にいれたのね!」
「やめて、痛い。離して」
髪の毛を引っ張りあげて、顔を見つめるとさっきの豚家族にそっくりだった。
「ジュリア、おやめなさい」
「お母様……」
「あなたもジュリアなの?すっごく綺麗ね。まるで、フランス人形みたい」
「気安く触らないで」
彼女の腕を振り払う。
見えた手首は、傷だらけだ。
「ジュリア、あなたが故郷に帰る方法は一つだけです」
「お母様、どういう事?」
亡くなったはずのお母様は、ワタクシと彼女に透明なガラス玉を覗かせる。
「ワタクシが眠っているわ。これは、どういう事?」
「ルーカスがあなたの仕打ちに耐えられなくなり、あなたを突き落としたのです」
「ルーカスが?何故?」
「あなたは、散々人を痛め付け。馬鹿にしてきたからですよ」
「だからって、どうしてこの体なのよ」
「あなたがもっとも醜いと思う容姿の人を見つけて私が魂を入れました」
「酷いわ!お母様。どうして、そんな事をするの」
「ふざけてなどいません。あなたは、散々人を、痛め付け、嘲笑い、蔑んできた。反省をすると口ばかりで治る事はなかった。そんな時、ルーカスが南の魔法使いの一族から。このビー玉をもらったのです」
「それで、お母様がワタクシをこんな豚の中に?」
「魂を別の場所に送る事が出来るのは、血族の身内だけだからです」
「ふざけないで。こんな容姿のままなら死んだ方がマシよ」
「それなら、そうしなさい」
カツカツと音を立ててお母様がいなくなってしまう。
「待って。どうすれば、ワタクシは元の体に戻れるの?」
「7日間、彼女の過ごした環境に耐える事が出来たら、元の体に戻る事が出来ます」
「何よ!それ、そんなの簡単よ。だって、ワタクシはジュリア様なのよ。オーッホッホ」
「そうですか。それでは、頑張ってみなさい。ジュリアさん、あなたは私についてきて」
「待って。その豚をどうするの?」
「彼女の魂は、魔法使いに預かっていただくのです。7日後、ジュリアが人の心のわかる人間になっている事を楽しみにしています」
「今だって人の心をわかる人間よ!何を言ってるのお母様」
「ジュリア、頑張ってください」
哀れな目を向けてお母様は、暗闇に消えていく。
何なのよ!
何が、人の気持ちよ。
私は、充分持ってるわよ。