第五話 港造り⑤
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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マグコミ様で連載中ですよ。
「おい、ロメリア。待てよ」
ベンのもとから立ち去ろうとする私を、ヴェッリ先生が追いかけてくる。その無精髭には私をからかう笑みが張りついている。
「まぁ詩の話はさておくとして、ベンを料理担当にしたのは正解だな。あいつなら味見と称してつまみ食いをするかもしれないが、経費の横領はしないだろう」
隣を歩くヴェッリ先生が振り返り、大鍋をかき混ぜるベンを見た。
私がベンに食事当番を任せたのは、料理の腕もさることながら人柄を信頼してのことだった。
現在進めている港の工事では大金が動いている。しかも突貫で進めているため、費用の分配は大雑把にならざるを得ない。こういう時に注意しなければいけないのが、中間管理職による横領だ。特に食料関係は分量や品質を下げても一見分かりにくい。しかも食料は胃袋に収まってしまえば、証拠が隠滅されるので発覚が遅れる傾向にある。
私達がしっかり食料を配給しているつもりでも、途中で横領されて作業員達に行き渡らないようでは困るのだ。
「食料は俺が見てやれればいいんだが、作業員の確保と資材の確認だけで手一杯だ。クインズに任せたいところなんだが……」
ヴェッリ先生が言葉を濁す。この場にいないクインズ先生は、ヴェッリ先生と同じく私の教師だった人だ。大変聡明な女性で、数字を扱わせればまず間違いのない人だ。
「クインズ先生には、交易船の対応をしてもらっています。さすがの先生も海洋交易の経験は初めてですので、これ以上仕事を増やすべきではないでしょう」
「セリュレの旦那が張り切って、交易船の手配をしちまったからな」
ヴェッリ先生がぼさぼさの頭を掻く。
ヤルマーク商会のセリュレ氏は、港の建設にあたって多くの資金を出してくれた出資者だ。彼はこの港に商機を見出しており、港がまだ完成していないのに、自ら交易船に乗り込み商品の買い付けに行ってしまった。
クインズ先生は、セリュレ氏が持ち帰る商品の管理を任されている。だがライオネル王国ではそもそも海洋交易の経験がない。
交易で持ち込まれる品物には関税をかけねばならないし、港や倉庫の使用料も算出して請求する必要がある。さらに搬入と搬出のための人手も集めねばならない。
これら全ての仕事をクインズ先生は手探りで行わねばならず、四苦八苦していた。
「確か交易船は、今日にも到着するんだったよな」
「はい。クインズ先生はなんとか準備が出来たと、昨夜遅くに言っていました」
「そうか。本来なら、建設工事中にやるようなことではないんだがな」
ヴェッリ先生がまた頭を掻く。商品を船から降ろして倉庫に搬入するとなると、工事を一部止めねばならないだろう。現場が混乱することは目に見えている。
「ですがそのおかげで、この港の重要性を証明することが出来ました」
私は父であるグラハム伯爵がライオネル王家に働きかけ、金鉱山開発のための資材を受領出来た一幕を思い出した。
当初王家は港の開発を信じていなかった。それが最近になって状況が変わったのは、ひとえにセリュレ氏のお陰だ。セリュレ氏が早々に交易船を手配したことが商人達の間で広まり、そこから王家に伝わったのだ。
勇み足とも取れるセリュレ氏の行動も、港の建設に一役買っているのだ。
「とはいえ、本格的に港を稼働させるなら、もっと体制を整えないとな」
「ええ、そうですね。港湾局を整備する必要があります」
私もこのままではいけないと思っている。港を管理する、専門部署を設立せねばならない。
「だがそれも簡単じゃないぞ、我が国には海がなかったからな」
ヴェッリ先生がぼやく。本当に頭の痛い問題であった。我がライオネル王国には港を管理運営する、知識も経験も何もないのだ。誰かに教えを請おうにも経験者がいない。まずは腕のいい専門家を、探すところからはじめねばならない。
「その件に関しては、実は朗報が一つ。昨夜カイルから連絡がありました」
私はロメ隊の一人の名を挙げた。小柄で身が軽く、潜入任務なども得意としている。カイルは『ある仕事』のために、遠くに派遣されていた。
「計画は順調とのことです」
「それは何より、なら上手くいくかもな」
私の答えにヴェッリ先生も頷く。その時、兵士の声が響き渡った。
「馬車が来たぞ〜!」
私とヴェッリ先生は、声がした入り口の方向に揃って向き直る。するとブライが道路工事をしている脇を抜けて、馬車の一団が入り口前の広場にやって来るのが見えた。
「おっ、ギリエ渓谷からの資材と労働者だな」
馬車を見て、ヴェッリ先生が体を入り口へと向ける。到着した資材と労働者の確認は、先生の仕事だ。
「それじゃぁ俺は行ってくる」
「兵士達にも一部を手伝わせましょう」
「悪いな、頼む」
私の申し出に、ヴェッリ先生が片手を上げて礼を言う。
馬車に向かって走って行くヴェッリ先生の背中を見送ったあと、私は手が空いている者がいないか周囲を見た。すると金髪と黒髪の兵士がこちらに歩いて来るのが見えた。ロメ隊のボレルとガットだ。
「ああ、ボレル、ガット。手は空いていますか?」
「ええ、ちょうど休憩が終わったところです」
ボレルがおっとりした声を返す。
「ヴェッリ先生の手伝いをしてもらえますか? ボレルは作業員を集めて名簿と照らし合わせてください。ガットも書類を見て資材の確認をお願いします。名簿と書類はヴェッリ先生が持っているはずです」
私が頼むとボレルは頷いたが、ガットは顔を顰めた。
「げっ、書類仕事か……字が読めるかな……」
ガットは頭を掻く。ガットは字が完全には読めないのだ。
ロメ隊は農民の出身者が多いので、字が読めなくても不思議はない。しかし最近は皆が勉強して、ほぼ全ての者が字を読めるようになっていた。
「勉強をサボるからだ。行くぞ」
「おっ、おう」
ボレルが馬車に向かい、ガットも遅れてついていく。私も何か問題はないかと、広場へと向かった。
今日はマダラメの方も更新しているので、よろしくお願いします