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ロメリア戦記外伝集  作者: 有山リョウ
メビュウム内海編
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第三話 港造り③

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。



 ガンゼ親方の元を離れた私は工事の間を歩いた。行く手に木造の大きな建物が見えてくる。

 港の建設中だが、家屋の建設も同時に進めている。私が仕事をしている屋敷以外にも、作業員達が寝泊まりする簡易宿泊所や食堂がすでに建てられている。他にも倉庫や兵士達が駐屯する兵舎。また移住者も募っているので、民家の建設も並行して進めていた。


 私は木造の建物の中に入った。内部は広く、寝台が二列に並べられている。清潔な敷布の上には、体に包帯を巻いた人達が横たわっていた。


 ここは病院だった。港の建設作業は突貫で行われているが、無理をすれば怪我人も出てくる。それにこの場所には兵士を駐屯させ、警備にあたっていた。兵士達は警備の合間に訓練を行っており、こちらも怪我人が絶えない。そのため病院を優先的に建てたのだ。


 私は怪我人の状況を確かめるべく、病院の内部を見て回る。すると寝台の間を忙しく動き回る、黒い修道服姿の女性を発見した。女性は私に気付くと、慌てて駆け寄ってくる。


「ロメリア様、今日はどうかされましたか? もしや怪我人でも?」

「いえ、見回りに来ただけですよ」

 私は女性に対して微笑みを返した。忙しく働いているこの女性は、カレサ修道院の修道士であるミアさんだった。彼女は怪我や病を癒す力を持つ『癒し手』と呼ばれる存在でもある。


「ミアさん。何か問題はありませんか?」

「今日は大きな事故もなく、軽傷者が数人出た程度です」

 ミアさんがハキハキと答える。太い眉に大きな瞳がなんとも愛らしい。


「ところで、ロメリア様。今日はいつもとお召し物が違いますね。大変綺麗ですよ」

「そうですか?」

 ゼゼ達に続き、ミアさんにも服を褒められる。しかしどうも信じられない。


「ロメリア様は明るい色もお似合いで、うらやましいです。私は明るい服が似合わなくて」

「そんなことないでしょう。ミアさんにもきっと似合いますよ。今度服を貸してあげましょう」

「いえそんな、とんでもない」

 ミアさんが恐縮して首を横に振るが、知り合いでは数少ない女性だ。一緒にお洒落を楽しむのもいいだろう。


「ところで、病気の方はいませんか?」

 私は病室を見回しながら、ここに来た本当の目的を尋ねた。私が一番警戒しているのは、疫病の発生だった。この入江は切り開いたばかりで、これまで人は住んでいなかった。未知の風土病があるかもしれず、警戒が必要だった。


「そちらも大丈夫です、ロメリア様。体調を崩している人はいません」

 ミアさんの答えに私は頷く。とはいえ疫病はいつ発生するか分からない。疫病が発生した場合は早期に対処したいので、病院には定期的に訪れておくべきだろう。そんなことを考えていると、後ろから声がかけられた。


「あれ、ロメリア様?」

 振り向くと、鎧姿の兵士が立っていた。長い金髪に目鼻立ちがはっきりした容貌、私はこの男性を知っていた。ロメ隊のミーチャだった


「ミーチャ、貴方こそどうしてここに?」

 ミーチャの今日の予定は、新しく採用した兵士の訓練だったはずだ。しかし何故かその手には、水が入った桶を持っている。


「兵士の訓練で軽傷者が出たので、その付き添いに」

 ミーチャは答えながら、桶をミアさんに差し出す。


「あっ、ミアさん。水を汲んできましたよ」

「ミーチャさん、そんなことしていただかなくてもいいのに」

 笑顔で桶を差し出すミーチャに、ミアさんは眉を下げながらも受け取る。


「いえいえ、ミアさんに水汲みなんてさせられませんよ。他に何かお仕事はありませんか?」

 ミーチャは白い歯を見せて、さわやかな笑みを浮かべる。やや露骨ともいえるミーチャの態度に、ミアさんは困惑気味だ。


 もう何日も前のことだが、ミーチャはギリエ渓谷に巣食う魔物に深手を負わされたことがあった。当時は常駐する癒し手が居らず、ミーチャの傷はなかなか治らなかった。その時、カレサ修道院から最初に派遣されたのがミアさんだった。

 ミアさんの腕は確かであり、ミーチャはたった数日で完治した。ミーチャからすれば、傷を治してくれたミアさんは女神にも見えたことだろう。


 ミーチャは恋に目を輝かせている。一方ミアさんは困り顔で、助けを求めるように私に視線を送る。しかし救いを求める目を私は無視した。

 ミアさんが驚いて目を丸めていたが、他人の恋路に口出しする野暮はしない。もっともミーチャには言っておくことがあった。


「お手伝いは構いませんが、訓練のほうは出来ているのでしょうね?」

 私はミーチャを睨んだ。恋に浮かれるのは構わないが、それで仕事が疎かになるようでは困る。特に兵士の訓練が不十分だと、実戦で死者が出るかもしれない。


「もちろんです、ロメリア様」

 答えるミーチャが顔を引き締める。


「訓練中の怪我の大半は、集中力の欠如が原因です。怪我人を出さないよう、兵士達には気合を入れて訓練に挑ませています。二十日後に訓練した兵士達をお披露目しますが、必ずご満足いただけると確信しております」

 ミーチャが胸を張る。そこまで言うのなら、二十日後を楽しみにしておこう。


「なら結構。非番の時間に限り、ミアさんの手伝いを許可しましょう」

「了解しました!」

 ミーチャは背筋を伸ばして、金色の前髪に手を当て敬礼する。


「それではミアさん。よろしくお願いしますね」

 私が微笑むと、ミアさんは口をアワアワと震わせる。これはこれで見ものだった。病院を訪れる理由がもう一つ増えたなと、私は足取り軽く出口へと向かった。


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