ギリエ峡谷の愚者と黄金 前編
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。アニメ公式サイトがございますので、是非ご覧ください。
ティザーPVも公開されてます。是非見てください。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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灰色の岩場を上りきると、視界が一気に開けた。眼下には深い峡谷が広がり、ごつごつとした岩肌を見せている。谷底には、丸太の壁で覆われた砦が存在していた。私達がギリエ峡谷に築いた砦だ。
砦を見下ろし、私はフウと息を吐いた。
「お疲れですか、ロメリア様」
振り向くと、背後には青い髪のレイがいた。その隣には、赤い髪のアルもいる。
「別にロメ隊長が、わざわざ見に来なくてもいいと思いますけどねぇ」
アルが呟くも、そういうわけにもいかなかった。
「手抜かりなく仕事を進めるためには、足しげく通って確認を怠らない。これが一番ですよ」
私は眼下に広がるギリエ渓谷と、その中に築かれた砦を見下ろした。
「貴方達が築いてくれたこの砦ですが、周辺に生息していた魔物の討伐は完了しました」
私は初めてこの砦を見た時のことを思い出した。ギリエ渓谷には強力な魔物である獣脚竜が生息し、大変危険な場所であった。アルやレイ達には砦の建設を任せたのだが、正直難航すると思っていた。しかし彼らは驚くべき知恵と勇気で、この難問を解決してみせた。おかげで獣脚竜を安全に討伐することが可能となった。
「砦は周辺の金鉱山の開発にも利用していました。ですが金鉱山は採算が取れないと言う理由から、閉山が決定しました」
「思った以上に採れませんでしたねー」
私の言葉にアルは残念そうに語る。
「まぁ、そんなものですよ。あまりあてにはしていませんでした」
一獲千金を夢見て来た人には悪いが、私は初めから期待していなかった。金鉱脈の話自体、どこかの山師が言っていたことだ。出て偶然、出なくて当然と考えるべきだろう。
「金鉱山は閉山することになりましたが、砦はこのまま利用します」
私は北に目を向けた。ギリエ渓谷を抜けた先は海と繋がり、私達が築いた港、アイリーン港が存在している。こちらは順調に港の経営が進んでおり、交易品が集まり始めていた。
「港からは離れていますが、この砦を港の第二倉庫として活用します」
説明を聞き、アルとレイが頷く。様々な品物が集まりそして出ていく港では、とにかく倉庫の管理が命だった。だが世の中、いつも予定通りに進んでくれるわけではない。特に海では、嵐となれば船が出港できない日も出て来るだろう。そうなった時のために、第二倉庫を港の外にも持っておきたかった。
「兵舎や労働者が使っていた宿舎を、倉庫として改装して再利用します。また馬を放牧する牧場も欲しいので、あのあたりまで柵で覆うことを予定しています」
「地図でも確認しましたが、牧場の建設は問題なさそうですね」
渓谷を指で示す私に、レイが頷く。
港に大量の品物がやってくるということは、それだけ荷馬車が往来すると言うことだった。当然大量の馬と、馬が食べる飼料が必要となる。また働かせた馬は休ませねばならないため、港の近くに牧場は必須だった。
「しかしそれだけ柵を作るとなると、結構木材が必要になりますね。港の建設にもだいぶ使っているんで、すぐに集めるのは難しくないですか?」
アルが指を折って数える。アルはついこの間まで、ただの青年だった。しかし最近は私の師であるヴェッリ先生に鍛えられ、大まかにだが必要となる木材を概算で出せるようになっていた。おかげで仕事の一部を割り振れて助かっている。
「木材に関してですが、金鉱山で支柱として使っていた木材を、一部流用することになっています。崩落しないように注意する必要はありますが、木材を運ぶよりは楽でしょう」
私の解決策に、アルとレイはなるほどと頷く。
「兵舎や宿舎の改装を貴方達に。木材の回収をブライに任せようと考えています。終わり次第、牧場の建設をお願いします」
「お任せ下さい、ロメリア様。一番に仕上げて見せます」
「おい、レイ。張り切りすぎんなよ。どうせ一番はこの俺だ」
「へぇ。なら、どっちが早く仕事を終えられるか競争だ」
アルとレイはにらみ合い火花を散らす。私は二人を笑ってみた後、ギリエ渓谷に築かれた砦に目を戻した。
私にとっては思い出深い場所だが、どんな場所も時と共に移ろいゆく。新たに作る倉庫や牧場も、また変わっていくのだろう。
「二人とも、そろそろ砦に戻りますよ」
私はいがみ合うアルとレイに声をかけ、ギリエ渓谷の砦へと向かった。
資料を片手に、私は工事が行われるギリエ渓谷の砦を歩いた。
砦の改装工事は順調そのものだった。アルとレイが互いに競い合うため、予定よりも工事が進んでいた。この分なら後は皆に任せて、私はアイリーン港に戻っていいかもしれない。
「あの……ロメリア様。ちょっといいですか」
気まずそうに声を掛けるのは、巨漢の上に禿頭を光らせるロメ隊のブライだった。彼には閉山となった金鉱山から、支柱として使っている木材を、回収する仕事を任せている。
「実はその……少し問題が起きまして……」
視線を泳がせながら話すブライを見て、面倒なことが起きているのだと察した。
ブライは大柄で力も強いが、それ以上によく気が利いて頭の回転も速い。ちょっとした問題が起きても、解決策を考えて処理してくれる。おかげで安心して仕事を任せられる。そのブライが私に助けを求めに来たと言うことは、通常の方法では解決できない面倒ごとが起きたと言うことだ。
「何かありましたか?」
「その、鉱山を解体して資材を回収する件なのですが……反対している人がいまして」
「反対?」
「ええ、何でも山師の方らしく、ここからは金が出るから、解体するなと、鉱山に立て籠もっているのです」
「それは……」
私は何と言っていいのか分からなかった。まさかそんな人が出て来るとは、想定していなかった。
「つまみ出そうとしたのですが、どこから持ってきたのか爆裂魔石を所持しておりまして」
「爆裂魔石を! 本物なのですか?」
「分かりません。ただ本物だった場合、下手をすれば坑道が崩落して死者が出ます。何とか説得を試みたのですが、採掘を再開させろ、責任者を出せと主張するばかりでして……」
ブライは肩を落とし、途方に暮れる。なかなか大変だったようだ。
「わかりました、話してみましょう」
「すみません、こんなことにお手を煩わせてしまって」
謝るブライに、私は笑いかけた。
「何を言っているんです。問題の解決が私の仕事です。貴方はよくやってくれていますよ」
私はブライと共に、山師が立て籠もる鉱山に向かった。
明日に続く!




