第三十七話 銀翼号⑥
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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吠えるアルの気迫に、メアリーさんの部下達が気圧される。しかし優勢なのは自分達だと、三人の子供達が示し合わせて同時に斬り掛かる。
「なめんな!」
アルは右手に持った剣で薙ぎ払う。三本の剣が同時に弾かれ、あらぬ方向に飛んでいく。アルは空いた左手で甲板にあった樽を掴む。そして片手で持ち上げると敵に向けて投げつけた。
甲板にぶつかり、転がる樽を覆面の船員達が避ける。そこにアルが突撃して剣を振るい、敵の持つ武器を叩き落とす。
激しく戦うアルの隣で、レイも戦っていた。彼はどこから調達したのか、デッキブラシを槍のように振り回している。
レイは突き、払い、時にはブラシの先端を相手の脚に引っかけて倒した。アルの騒々しい戦いとは真逆に、実に静かだ。
アルとレイは揺れる船の中でも気を吐いている。覆面の船員も、二人には近づけない。
気炎を上げる二人の元に、コツリコツリと足音が向かう。細く長い脚を見せるのは、剣を片手に持つメアリーさんだ。彼女は癖のある赤い髪をなびかせ、自信ありげな笑みを見せる。
「へぇ、やるなぁ。陸の奴の癖に、船の上でそれだけ動けるとは大したもんだ」
感心したとメアリーさんは頷く。
「なぁ、お前ら。アタシの部下にならないか?」
「ああ? ふざけてんのか?」
「僕の主人はロメリア様だけだ」
戦場で敵を勧誘するメアリーさんに、アルが眉間に皺を走らせ、レイも硬く尖った声を返す。
「なんでだ? あんな女のどこがいい?」
メアリーさんは私を一瞥した後、首を横に振って唸る。
「アタシのほうがいい女なのに」
大きな胸を張るメアリーさんに対し、アルとレイが吐き捨てる。
「それが分かんねーから、お前につかないんだよ」
「そういうこと」
アルとレイが口を揃える。対するメアリーさんの目が不快に細められる。
「まぁいい、味方にならないんなら死んでもらう」
「やれるもんなら、やってみな!」
剣を向けるメアリーさんに、アルは跳躍して飛びかかる。
メアリーさんは肩に羽織った赤い長外套を掴み、飛びかかるアルに向かって投げる。アルは左手で長外套を払い斬撃を放つも、メアリーさんはすでに左へと逃げている。
アルの攻撃を回避したメアリーさんに対し、レイがデッキブラシで突く。
「女の子に汚いもんを向けるんじゃないわよ」
メアリーさんは剣を一閃させ、デッキブラシの柄を断ち切る。
甲板にブラシの先端が落ちる。だがレイはこのほうがやりやすいと、ブラシの柄を槍に見立てて突きを放つ。
メアリーさんは長い脚でステップを刻み、レイの攻撃を回避した。そこにアルが剣で斬りかかるも、これも見事に避けられる。
私はメアリーさんの足捌きに目を見張った。ただ体術が優れているだけではない。彼女は船の揺れ、波の動きを計算して動いている。そのため最小限の動きで攻撃を回避出来るのだ。
メアリーさんは赤い口元に余裕の笑みを浮かべていた。しかし軽快に動いている足が止まる。船縁が逃げ道を遮っていたからだ。アルとレイは攻撃をしつつ、メアリーさんを怠け者号の右弦に追い詰めていたのだ。
アルがメアリーさんの正面を、レイが右手側に陣取る。
「レイ、同時に仕掛けるぞ!」
アルがレイと示し合わせる。一方メアリーさんは大きな瞳を細め、アルとレイを交互に見据えている。
アルが声をあげて突撃し、レイが無言のままに突きを放つ。前と右からの攻撃に、逃げ場はないかと思われた。しかしメアリーさんは振り返り長い脚を船縁にかけたかと思うと、船縁を蹴って跳躍した。
宙を舞うメアリーさんに、アルが剣の軌道を変えて斬りつけようとする。だがその時、メアリーさんの体が緑色に光った。するとメアリーさんを中心に風が巻き起こり、彼女の体を持ち上げる。アルの剣は空を切り、メアリーさんはアルの頭上を越えて背後に着地した。
レイが驚きに目を見開く。魔法を用いて空中で軌道を変えるなど、想像もしなかったのだろう。私もあのような魔法の使い方は見たことがない。驚きの発想と使用法だ。
着地したメアリーさんが、アルとレイに剣を向ける。アルとレイは身構えるも、その背には船縁と海原。追い詰めていたはずが追い詰められている。
「陸で戦ったら、多分アタシが負けていただろうなぁ。でも、ここは船の上。そして船から落ちたら負けなんだよ!」
メアリーさんの体から緑色の光が放たれる。直後突風が吹き荒れ、アルとレイの体が吹き飛ばされ海へと落ちていった。