第三十四話 銀翼号③
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。
BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。
マグコミ様で連載中ですよ。
「面舵! いっぱ〜い!」
モーリス船長が勢いよく操舵輪を回す。船が大きく右に方向転換し、左に陣取るメアリーさんの船から離れた。
あまりの急旋回に私は倒れそうになった。しかし怠け者号の船員達三十人は、この揺れに倒れるどころか一斉に走り出した。それぞれが船室に駆け込んだかと思うと、剣や弓を手にして戻ってくる。
私は揺れに耐えながらメアリーさん達が乗る銀翼号に目を向けると、向こうも進路を変えてこちらを追いかけてくる。だが追いついた頃には、すでに怠け者号の船員達はそれぞれに弓を構えている。そして向かい来る銀翼号に狙いをつけていた。
「放てぇ〜!」
モーリス船長の号令と共に、一斉に矢が放たれる。同時にメアリーさんの船からも矢が放たれた。矢の群れが空で黒い雲となり、そして雨となって互いの船に降り注ぐ。
矢の大部分は海に落ち、甲板に突き刺さる。だが何本かが互いの船員に命中し、両方の船員が倒れていく。
矢は船尾にいる私のもとにも降り注いだ。しかし私に当たる前に、アル達が剣を振るって矢を叩き落とす。
「レイ! ご自慢の風魔法はどうした!」
アルが矢を切り払いながら叫ぶ。レイの風魔法があれば、味方の矢を追い風で遠くまで飛ばし、向かい来る矢には横風で逸らすことが可能だ。
「今は駄目だ! ここで風魔法を使えば、モーリス船長の邪魔になる!」
レイは歯噛みしながら矢をはじく。
私は船尾で操舵輪を握るモーリス船長に目を向けた。モーリス船長は操舵輪を操りながら、視線をメアリーさんの船に向けつつ、船員に指示を出し、さらに魔道具を使用して風を生み出している。
一人で何役もこなすモーリス船長だが、彼の立ち回りは際立っていた。モーリス船長はメアリーさん達が矢を放つ動きを察知すると、怠け者号を銀翼号から離して矢を回避する。一方でこちらが攻撃準備を整えたのを見計らうと、船を寄せて矢が当たりやすいように補助していた。部下である船員達も心得たもので、モーリス船長と呼吸を合わせて矢を放っている。
「モーリス船長も船員も、やるな!」
「これぐらい当然ですよ」
アルは驚いていたが、私は驚かなかった。
「モーリス船長達メルカ島の人々は、魔王軍とメビュウム内海の覇権をめぐって争い勝利したのです。そこらの兵士とは経験が違う」
「なるほど、そりゃあいつらに勝ったんなら精鋭だ。てか、海の上なら俺らよりつえーんじゃねぇ?」
アルが顔を引きつらせる。
魔王軍は精鋭揃いだ。平均的な魔王軍の兵士は、人間の兵士二人分に相当する。モーリス船長達はその魔王軍と戦い、メビュウム内海から撃退しているのだ。激戦を潜り抜けたモーリス船長とその部下が、弱いわけがない。
一方メアリーさんも、船を操って矢を回避しようとしていた。彼女はモーリス船長の操船についていこうとしていたが、部下である船員達がついていけてなかった。
そもそも、メアリーさんの船に乗る覆面の船員達は、全員が小柄だ。さらに練度も低く、統制もとれていない。モーリス船長の部下達とは、踏んだ場数が違う。
「親父、やるな! だったら、これでどうだ!」
メアリーさんの体が緑色に光る。次の瞬間、逆風が吹き荒れて私の髪を弄ぶ。髪を押さえながら見上げると、大きく膨らんでいた帆は萎み、裏返っていた。
当然船は大きく減速し、私達は甲板に倒れそうになる。
私はポーラさんと互いに支え合い、アル達は足を前に出してなんとか転倒を防ぐ。怠け者号の船員達も転倒はしなかった。だが減速により攻撃の呼吸が乱れる。そこに銀翼号から矢が降り注いだ。
「あいつも風魔法が使えるのか!」
レイが操舵輪を握るメアリーさんを見る。うっすらと緑色に輝く光は、間違いなく魔法を使用している証拠だ。彼女はレイと同じく、魔道具に頼らずに魔法を使用出来るのだ。
「ええい。くそぉ!」
モーリス船長が唾を飛ばしながら、操舵輪を握りつつ風を操る。だがどれだけ宝玉の魔道具を使用しても、逆風が吹いて船は前に進まない。
「あいつ、上手いですね」
メアリーさんを睨むレイが唾を呑み込む。どうやら風を操ることに関しては、メアリーさんのほうが上のようだ。
魔道具はモーリス船長のように魔力がある者なら誰でも使えるが、その効果と威力は誰が使っても変わらない。一方魔道具に頼らないレイやメアリーさんのような魔法使いは、自在に効果と威力を変化させることが出来る。この違いが大きな差となっていた。
「ロメリア様! あそこ!」
ボレルが銀翼号の前を剣で示す。私は視線を船尾から船首へと移すと、船首部分で覆面の船員達が何かを運び出していた。
それは細い木材に、布をくくりつけたような物だった。
「あれは……凧?」
私は目を凝らした。覆面の船員達が取り出しているのは、空に飛ばす子供の玩具、凧に似ていた。しかし大きい。大人の背丈を超えるほどの大きさがある。
「ロメリア様、あれは何をしようとしているんです?」
ボレルが問う、私にも戦場で凧を持ち出す理由が分からない。
覆面の船員達は、巨大な凧を船首で広げる。長方形の凧が風を受けて膨らむ。その姿は船の帆に似ていた。
「まさか!」
私は驚き息を呑む。覆面の船員達が、巨大な凧から手を離した。すると凧は風を受けて大空へ舞い上がった。
勢いよく空に昇った凧の両端には、長い縄が取りつけられている。縄は銀翼号の船首としっかり結ばれ、銀翼号の船体を引っ張る。凧が引く力はよほど強いのか、船体が音を立てて軋む。
凧に引かれて銀翼号の速度が上昇する。いや、それだけではない。巨大な船がググッと浮かび上がった。