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ロメリア戦記外伝集  作者: 有山リョウ
メビュウム内海編
32/40

第二十九話 訓練する兵士達②

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。



 アルと入れ替わりに、レイが私の護衛に着く。しかし周囲に敵の存在はなく、いるのはロメ隊だけだ。護衛が必要な状況には思えない。

「レイ。私は一人でも大丈夫ですし、訓練に戻ってもらってもいいですよ?」

「いえ、丁度終わったところです」

 レイは手拭いで体を拭いながら、首を横に振る。アルもレイもどうにも心配性でいけない。


「大丈夫ですよ。貴方達は気にし過ぎです」

「いいえ。この島に来てから、我々は監視を受けています」

 レイが首を横に振る。確かにメルカ島に来てからというもの、私も時折視線を感じることがあった。視線の先にいるのは決まって子供達だった。どうやら私達をよく思わない人が、この島にはいるようだ。


「その報告は受けています。実害はないので放置すると決めたはずですが?」

「はい。稚拙な監視ですので、こちらは無視しても問題ありません。ただ……」

 レイは言葉を濁した。その顔には言うべきかどうかという迷いがあった。


「何かあったのなら報告しなさい。判断は私がします」

「はっ、はい。実は昨夜、屋敷の周囲で何者かの気配を感じました。アルと共に調べに行ったのですが……」

「発見は出来なかったと」

 私の問いにレイが顎を引く。


「痕跡すら掴めませんでした。そのため証拠はないのですが……」

 レイは物証がないため、報告に迷っていたらしい。しかしその目には確信が宿っている。

「我々の追跡を回避するほどの手練れが、島にいる可能性があります。注意してください」

 警告を発するレイを、私はまじまじと見た。


「なっ、なんです」

 私の視線にレイはそばかすの散る頬を赤らめ、裸を隠すように身を捩った。

 そんなふうに恥ずかしがられると、見ている私も困る。だが隠されたその体は引き締まり、筋肉が深い陰影を刻んでいた。


「成長したなと思いましてね」

 私はしみじみと頷いた。

 最初に会った時、レイは肌も青白く筋肉もさほどついていなかった。まるで日陰で育った大根のような頼りなさがあり、兵士などより文官のほうがよほど似合っていた。


 初めは大丈夫かなと心配していたのだが、いつの頃からか急に成長しだした。今ではアルに匹敵する才覚を示し始めている。


「え? 本当ですか? ロメリア様にそう言っていただけると嬉しいなぁ」

 レイがさらに顔を赤らめ、青い髪をいじる。レイは私を慕い、いつもロメリア様ロメリア様と呼んでくれる。だがそれも今のうちだけだろう。


 このままレイが成長すれば、騎士に叙任されることも夢ではない。最近薄くなってきているそばかすが消えれば、さぞや見栄えのする美丈夫となるはずだ。そうなれば女性達も放っておかない。見目麗しい女性に言い寄られれば、私など相手にもならないだろう。それに運が良ければ、貴族から婿養子にという話もありうる。


 むしろ私がいいお嬢さんのいる家を探し、良縁を取り持ってあげるべきかもしれない。

 国に戻った時にでも、アルとレイの縁談先を探してみよう。どこかにいい貴族の令嬢はいないか思案していると、頬を熱風が打った。


 陽の光よりも熱い温度の発生源は、赤い髪のアルだった。彼は掲げる右手の上に、拳程の大きさの火の玉を生み出している。

 アルは火の魔法を扱うことが出来る。どうやら今から魔法の訓練をするらしい。アルは右手を勢いよく伸ばした。生み出された火の玉は勢いよく飛んでいき、放物線を描いて地面に落下する。火球は地面で弾け、炎と熱を撒き散らし消えていった。


「いつ見ても魔法はすごいものですね」

 アルの魔法を見て私は頷いた。王都ラーオンや生まれ故郷の領都グラムでは、魔法を使う兵士の演習を見たことがある。それらと比べても、アルの魔法は遜色ないものだった。


「ええ、まぁまぁですね」

 隣にいるレイは、アルの魔法を見て僅かに口元を緩ませた。


 どうやらレイは魔法に関しては、アルより自分が上だという自負があるらしい。

 独学でこれだけ魔法が使えるアルも、十分すごいといえる。しかしレイには及ばない。


 レイは風を捉える天性の素質を備えている。事実メルカ島に来る時、彼はモーリス船長の僅かな助言だけで、風を操ってみせた。魔法を使用するには希少な才能が必要といわれているが、レイはその中でもさらに飛び抜けた才能を持っているのだろう。

 私は一つ息を吐いた。


「どうかされましたか、ロメリア様。何か悩み事でも?」

 私のため息に気付き、レイが顔を向ける。


「別に、なんでもありません」

 私は前を見ながら答えたが、これは嘘だった。だが悩みの種が、アルとレイにあるとは、本人達には言えない。


 アルとレイ。二人の成長は喜ばしい。だがそれゆえに一つの問題が浮上している。

 魔法使いには、三つの段階があるといわれている。


 一つ目の段階は、魔法を行使するための魔力はあるが、魔法を扱う知識や技術を持たない人達だ。彼らは魔道具という、魔法を補助する道具なしでは魔法を行使出来ない。魔法の才能を持つ者の多くがこれにあたり、モーリス船長などもそうだ。


 二つ目の段階は、魔道具がなくとも、先天的な才能だけで魔法を使用出来る者だ。アルとレイがこれにあたる。ただし彼らの魔法は本人の特性や才能に依存しており、応用の幅は狭い。

 たとえばアルは炎を生み出すが、レイのように風を生み出し操れない。同じくレイもアルのように炎を生み出したりは出来ない。


 訓練や教育もなしに魔法を使えているのだから、これでも十分すごいといえる。だが私の知る一流の魔法使いは、自在に電撃や炎を生み出す。そして時には、自らの姿すら消し去ることも可能としていた。


 これこそが三つ目の段階であり、魔法使い達が真の魔法使いと呼ぶ存在だ。

 アルとレイは大きな才能を示している。だが三つ目の段階である真の魔法使いに至るには、才能だけでは届かない。高い知識と経験を持つ魔法使いの指導が不可欠だった。


 出来れば二人には良い指導者をつけてあげたい。だが腕のいい魔法使いは希少で、簡単には見つからない。知り合いに一人いるにはいるのだが、彼女とは仲が良くなかったので頼れない。

 レイの嫁探しよりも、こちらはさらに大きく難しい問題といえた。


 魔法の訓練をするアルから視線を外し、私は木剣を打ち合うゼゼとジニに目を向けた。

 黒髪のジニが、ゼゼに対し連続攻撃を行う。しかしその斬撃はあまり鋭くはなかった。


 ジニの攻撃を受け切ったゼゼが、金髪をなびかせて反撃の木剣を振るう。こちらの攻撃は、先程のジニよりも幾分か鋭い。しかしゼゼの攻撃は、ジニに当たることはなかった。

 ゼゼの攻撃に対し、ジニは僅かに身を逸らし、屈み、半歩下がる。それだけでゼゼの攻撃を全て避け切ってみせた。


「うん、ジニの回避は素晴らしいですね」

 私は思わず頷く。ジニはゼゼの攻撃を完全に見切っている。

 ゼゼが果敢に攻撃するも、ジニに再度攻撃を避けられる。一方ジニは回避した動作から、流れるような動きで木剣を突き出す。

 ゼゼの首元でジニの木剣がぴたりと止まる。見事な一本である。


「そうですね、ジニは見切りだけなら、ロメ隊でも上位でしょう」

 同じく二人の打ち合いを見ていたレイが頷いた。

 一口に強さといっても、さまざまな要素が関わってくる。


 アルやレイは抜きん出た力を持っている。だが純粋な筋力であればオットーが、素早さであればカイルが、技巧であればグランとラグンの双子が勝っている。ジニの見切りの良さも、強さの一つと言えるだろう。


「とはいえ、戦争となるとまた別ですが」

 私が呟くと、レイが頷いた。

 アル達は前線で戦う兵士だが、部隊を率いる隊長でもある。だが隊長ともなれば、剣を振るって敵を倒すだけでは駄目なのだ。


「戦争となると、個人の武勇以上に兵士を運用する指揮能力と、作戦を理解する戦術理解度が必要となります。また兵士達の雰囲気を明るく保つというのも、侮れない強みでしょう」

「ああ、そういうのはゼゼですね」

 レイが頷いて、金髪のゼゼに目を移す。


 ゼゼ個人の武勇は、それほど高くはない。だが普段明るいゼゼは、兵士達に人気がある。また彼が率いる部隊の兵士達は、感化されるのか明るい者が多い。


「兵士達の雰囲気が良いというのは、士気の高さに繋がりますからね」

 私はゼゼを見ながら頷いた。個人の武勇は、力が強い兵士が多数いれば補える。だが士気を高めることは力瘤では出来ない。ゼゼの素質は代えがたいものがあった。

 レイと話をしていると、麓から鐘の音が聞こえてきた。港にある教会で、鐘楼が鳴らされているのだ。この鐘の音が朝食の合図だといわれている。


「戻りましょうか」

 私が促すと、レイも顎を引いた。


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