第二十八話 訓練する兵士達①
ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!
ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。
こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。
これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。
いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。
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私はアルを伴い、坂道を上っていく。空は晴れ渡り緑が朝日に輝いている。潮風も心地よく、絶好の散歩日和といえた。
気持ちよく歩いていると、私の後ろをアルも歩く。
「そうだ、アル。実は一つ確認しておきたいことがあったのです」
「ん? なんです? この前のつまみ食いの件ですが、あんなこと普段していませんよ」
「違いますよ、そのことではありません」
私は笑った。そもそもあれはゼゼの罰を共有するために、アル達が言った嘘だということは分かっている。
「それよりももっと別のことです。アル、貴方はこれまで何度か実戦を経験していますよね?」
「ええ、まぁ。魔物退治に始まり、魔王軍とも一度だけやり合いましたね」
私の問いに、アルは指折り数えてこれまでの対戦を振り返る。
「あの時は魔王軍相手に死にかけましたが、今ならやり返してやりますよ」
アルはグッと拳を固めて宣言する。負けん気の強いアルに対し、私は笑顔で頷く。
魔王軍の兵士は、人間の兵士の二倍の力を持つといわれている。だがアルはさまざまな敵と戦い成長してきた。今の彼ならば、魔王軍の兵士相手でも互角以上の戦いが出来るだろう。
アルは今年徴兵されたばかりで、兵士となってまだ一年も経っていない。驚異的な成長といえるだろう。しかしそれでもまだ経験が圧倒的に足りなかった。ただ強いだけでは、乗り越えられないものが世の中には存在する。
「アル。貴方は人間と戦ったことはありますか?」
「なんです、藪から棒に。一回だけありますよ。知っているでしょ? カルルス砦でやり合ったじゃないですか」
確かにアルの言うとおり、カシュー地方の前代官であったセルベクが、私に兵士達をけしかけてきた一件があった。
あの時はアル率いるロメ隊が、私を守り戦った。だがカルルス砦の兵士は、言ってみればアル達の仲間だ。ロメ隊の面々も相手の命を取らなかったし、戦いもすぐに終結した。命をかけた殺し合いだったとはいえない。
「では質問の仕方を変えましょう。人を斬ったことはありますか?」
「それは……ありません」
アルは声を落として認めた。これまでアルが戦ってきた相手は、獣が狂暴化した魔物がほとんどだった。人を斬った経験はない。
「では、人を斬れと言われて、斬れますか?」
私の問いに、アルは表情を固くした。
本来ならこのような質問は、兵士にする必要はなかった。十年ぐらい前までは、人類は同じ人間同士で戦争を行っていたからだ。しかし魔王軍が現れてからというもの、国家間では大きな戦争は起きてはいない。魔王軍という共通の敵を前に、同じ人間同士で争っている場合ではないからだ。
アルやロメ隊は、魔王軍がやって来てから徴兵された兵士だ。同じ人間同士で戦うことを、彼らは想定していない。人と戦う心構えが出来ていないのだ。
「……斬れますよ。敵であれば、どのような相手でも斬れます」
アルは少し考えたのち断言した。その答えに私は頷く。
「では、ロメ隊の面々はどうです? あるいは現在鍛えているカシュー守備隊の兵士達は?」
続く私の問いに、アルは即答しなかった。しばし考えた後に口を開く。
「……それは。相手や場合によっては難しいかもしれませんね。もちろん問題なく戦える奴もいますが、中には戸惑う者も出てくるでしょう」
即答しなかっただけに、アルの言葉には信憑性があった。
戦いに際して、兵士達の心理を把握しておくことは大事だ。もちろん命令すれば、兵士は動くだろう。しかし命令に疑問を抱えたままでは、万全に戦うことは出来ない。
「なんです、誰かとやり合う予定でもあるんですか?」
「そうならなければいいと、思っているのですが……」
私は答えながら坂道を上った。歩道を見上げると、頂上付近からは男性のかけ声や木剣を打ち付けあう音が聞こえてくる。
坂を上り切ると、山の頂は見晴らしの良い広場となっていた。視界を遮るものが何もないため、青い空と海だけが見える。振り返れば上ってきた坂道が続き、麓にあるメルカ島の港が一望出来た。
私は息を吐き、周囲を見回した。いつも部屋にばかり籠もっているので、周囲や頭上に遮るものがないのが心地いい。
見晴らしのいい景色を楽しんだ後、広場に目を向けた。そこには三人の兵士達が訓練に励んでいる。ゼゼとジニが木剣を打ち合わせ、レイは上半身裸となり腕立て伏せをしていた。
「あっ、ロメリア様。おはようございます」
ジニが私に気付き、木剣を止める。ゼゼも振り向き一礼する。
「あっ、いいですよ、続けて」
訓練の邪魔をするつもりはないので、私は手を止めないように促す。ジニが頷きゼゼに対して木剣を構え訓練を再開する。
「ロメリア様。おはよう、ございます……朝の、散歩ですか?」
レイも私に気付き、手拭いを片手に歩み寄る。激しい運動を終えたばかりのレイは、息を弾ませていた。その裸体には滝のように汗が流れている。
「ええ、散歩しようとしていたら、アルに捕まって」
「うん。一人でフラフラ出かけようとするから捕まえた」
私がアルを見ると、アルは当然だと頷く。前から思っていたのだが、アルは私のことを勝手に脱走する愛玩動物か何かだと思っているのではなかろうか?
「レイ。俺は訓練するからロメ隊長の護衛を頼む」
アルはレイを残し、私の元から離れた。