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ロメリア戦記外伝集  作者: 有山リョウ
メビュウム内海編
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第十六話 火を吹く獣①

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。



 海の彼方に一隻の船が出現し、怠け者号の甲板はにわかにあわただしくなる。


「よし、お前ら! 半数は甲板で配置につけ、残り半数は船内で戦闘準備をしながら待機だ!」

 モーリス船長が声を張り上げると、三十人の船員達が一斉に動き出す。指示どおり十五人は甲板の各所で待機し、五人の船員が船尾の船室に駆け込む。残りの十人は二手に分かれ甲板中央と船首に向かった。甲板中央と船首の床には格子状の扉があり、船倉へと続く階段がある。二手に分かれた船員達は、それぞれ船首と甲板中央の船倉に身を潜める。


 ここからでは見えないが、隠れている船員達は剣や弓で武装しているはずだ。もしやって来る船が攻撃してきても、複数の場所から飛び出して即座に応戦出来るだろう。


「へぇ、なかなか動きがいいですね」

 機敏に動く船員達に、アルも感心の声を上げる。確かにモーリス船長の部下達は、慣れた動きを見せている。


 私がモーリス船長の部下達から、やって来る船に視線を戻すと、船はもう近くまで来ていた。じっと敵を睨んでいると、視界を遮るように二つの背中が立ちはだかった。赤い髪と青い髪。アルとレイだ。

 私は眉間に皺を寄せてアルとレイを睨んだが、肩越しに振り返る二人はどかなかった。


「敵の矢が飛んでくるかもしれないので」

「出来れば船室にいてほしいのですが?」

 アルとレイに対し、私は譲らなかった。


「そういうわけにはいきません。敵の顔は見ておきたい」

「そう言うと思いました。だから俺達が守りますので、そこより前に出ないように」

 アルは私に言いながら、視線を私の左右にいるゼゼとジニ、ボレルに向ける。もし私が前に出ようとしても止めろという意味だ。三人は分かっていると顎を引く。


 全く。指揮官は私だというのに、酷い扱いだ。

 私がアルやレイを睨んでいると、背後から気の抜けた声が聞こえてきた。


「あの、一体何があったんですか?」

 船尾の階段を上ってきたのは、ガットとポーラさんだった。船室で寝ていたはずだが、騒ぎを聞きつけやってきたのだ。


「他の島の船が来るようです。場合によっては戦闘になるかもしれません」

「本当ですか?」

 船酔いで青い顔をしていたガットが、背筋を伸ばすと同時に腰の剣に触れる。身構えるガットは、すでに戦う表情に変貌していた。


「まだ戦いになると確定したわけではありません。向こうが攻撃してくるまでは、武器を抜かないように」

 私の厳命にガットが頷く。しかし問題はポーラさんだった。兵士ではないポーラさんを守る者が必要だ。


「ガット。船室に戻り、ポーラさんを守ってあげなさい」

 ポーラさんを見ながら私が命令すると、ガットはポーラさんを見たあと視線を彷徨わせた。しかしすぐに私を見る。


「いえ、ここに残ります」

 ガットは私に向けて言ったあと、ポーラさんを見た。


「ポーラすまない。守ってやりたいが俺はロメリア様の兵士だ。優先すべきはロメリア様だ」

「私のことはいいから、ロメリア様を守って」

 ポーラさんは頷いたあと、私を見た。


「ロメリア様。私もここに残ります」

「戦いになるかもしれないのですよ。女の人には危険すぎます」

 私はせめて船室に籠もるよう指示したが、ポーラさんは頑なに動かなかった。


「ロメリア様。船が来ます!」

 無理やりにでも連れていくべきかと思ったが、レイが注意を促す。海を見ればやって来る船は至近距離にまで迫り、相手の船に乗る船員の顔まで見えるようになっていた。


「分かりました。私の側から離れないように」

 この状態で下手に動かすのは危険だった。仕方なく命じると、ポーラさんは私の側に駆け寄る。そして私達の周囲をアル達六人が隙間なく取り囲む。


 私はアルとレイの間から、やって来る船を見た。船の大きさは怠け者号と比べて少し大きいぐらいだった。ただしこちらは三本の帆柱が突き立ち、船首と船尾には三角帆が取りつけられていた。そして突き出た舳先には火を吹く獣の像が吠え猛り、船体には『炎獅子号』と書かれている。


 やって来る炎獅子号の船首には、一人の男の姿があった。

 歳の頃は三十程。黒髪の上に三角帽を頭に載せ、青い長外套を着込む体はがっしりとしていた。目には自信が満ちており、鼻筋は長い。太い顎にある髭は綺麗に切りそろえられ、口元には火のついていない葉巻が咥えられている。


 おそらく炎獅子号の船長であろう。モーリス船長の見立てが正しければ、ヴァール諸島のボーンという男だ。武器は身につけておらず、戦いの気配は感じられない。


 敵になるかもしれない相手の顔を見定めていると、ボーンと視線が重なった。向こうもこちらを見ている。

 葉巻を咥えるボーンの口元が緩み笑みを浮かべる。笑うボーンに対し、私はただ冷たく視線を返した。


 怠け者号の船員が帆を畳み速度を落とす。炎獅子号も帆をしまい、速度を落として怠け者号の右側を並走する。二隻の船がゆっくりと進みながら、互いの船を近づけて停止する。

 船尾で操舵輪を握っていたモーリス船長が、舵を船員に預けて階段を下りて甲板の中腹へと歩いてくる。一方ボーンも舳先から甲板の中腹を目指して移動してくる。


 のっしのっしと歩くモーリス船長に対し、葉巻を咥えたボーンの足取りは軽く、気取ってすらいた。歩くボーンが右手の人差し指を掲げる。指の先には何もないのに火が灯った。炎の魔法だ。ボーンは指先に生み出した火で、咥えている葉巻に火を点ける。


 私の前に立つアルが唸る。同じ炎の魔法を使う相手が気になるのだ。そしてレイや他のロメ隊の面々が、腰を僅かに落として警戒する。ボーンは武器を帯びていないが、魔法で攻撃されるかもしれないからだ。


 私はボーンから目を離し、炎獅子号をざっと見る。

 甲板には十人程の船員がまばらに立っていた。誰も武装しておらず、こちらも戦いの気配は見られなかった。しかし船の大きさに比べ、船員の数が少なすぎる。この大きさの船を動かすのであれば、最低でも三十人は必要なはずだ。おそらくモーリス船長と同じように、武装させた船員を船内に隠しているのだろう。戦いとなれば一斉に飛び出してくるはずだ。


 互いに水面下で戦闘準備を行っている。あとは戦いが起きるかだが、それは船長達の器量にかかっていた。

 熊のように歩くモーリス船長が、甲板の中腹にまで来て右舷の炎獅子号を見る。紫煙をなびかせるボーンも、甲板の中程に立ち向きを変える。二人の船長が海を挟み対峙する。


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