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ロメリア戦記外伝集  作者: 有山リョウ
メビュウム内海編
19/41

第十五話 船影

ロメリア戦記のアニメ化が決まりました!

ロメリア戦記がアニメになります。続報は判明次第、ご報告させていただきます。

こうしてアニメになるのも、応援してくれているファンの皆様のおかげです。

これからも頑張っていきますのでよろしくお願いします。


いつも感想やブックマーク、評価や誤字脱字の指摘などありがとうございます。

小学館ガガガブックス様よりロメリア戦記が発売中です。

BLADEコミックス様より、上戸先生の手によるコミカライズ版ロメリア戦記も発売中です。

マグコミ様で連載中ですよ。


 メルカ島に向かって出港し一日目が過ぎた。天気は快晴であり、雨や嵐の心配はまるでなかった。帆は風を受けて膨らみ、怠け者号はメビュウム内海を裂くように進む。

 軽快に走る船の中腹で、私も風を感じる。風と日差しが実に心地いい。


 船尾を見れば、舵をとるモーリス船長の隣にレイが立っている。その体は淡く緑色に光り、魔法を行使しているのが分かった。

 レイは風を読み、操る技術をさらに向上させていた。船の速度は昨日よりも早く、モーリス船長もこの分だと今日の昼過ぎにはメルカ島に到着すると言っていた。早く着く分には問題ないので、嬉しい誤算といえるだろう。


 私は手をひさしのようにかざしながら、空を見上げた。美しい青い空に白い帆が膨らみ、見ているだけで気持ちがいい。

 帆を支える帆柱の先端には、小さな見張り台が設置されていて、そこには二人の男性が前後に見張りに立っている。そのうちの一人は、赤い髪をしたアルだった。


 アルは昨日言っていたように、本当に一日で船酔いを克服した。そして何故か船の勉強をしたいと、縄の結び方を船員に習ったり進んで見張りに立ったりしていた。

 兵士のアルが、船の仕事を覚える必要はない。とはいえ何かを覚えたいという行動を、邪魔することなど出来なかった。それに何年後になるか分からないが、私が大船団を作り上げた時に役に立つかもしれない。


 視線を甲板に戻すと、船首ではジニとゼゼ、ボレルがいた。彼らはまだ船酔いを克服しておらず、やつれた顔をしている。しかし顔色は昨日よりはましになっている。


「船酔いは大丈夫ですか?」

 私は船首にいるゼゼ達のところまで歩いて声をかけた。


「あっ、ロメリア様。なんとか大丈夫です」

「昨日はもう大変でした、もうヘロヘロ~」

 ジニが頭を掻き、ゼゼは金髪の下に青い顔をしながらも笑う。


「ところでロメリア様。これって何ですか?」

 ゼゼが船縁に取りつけられている白い板を見た。白く塗られた板は外側と内側が丸く切り取られており、船縁に張りつくように設置されている。同じ物は船縁の各所に見受けられた。


「ああ、それは救命用の浮き輪です。人が海に落ちたら、その板を投げて助けるのですよ」

 私が教えてあげると、ゼゼが頷く。


「じゃぁあれは何ですか?」

 ゼゼは次に船に取りつけられている器具を指差す。しかし私も百科事典ではない。


「さて、なんでしょうね。船員の方なら分かると思いますが」

「じゃぁ、聞いてきます」

 ゼゼは明るい笑顔を浮かべて、船の中央にいる船員に向かっていく。


「おい、走るな。海に落ちるぞ。ったく、船酔いをしていてもあいつは落ち着きがない」

 走って行くゼゼの背中を、ジニがため息を吐きながら見つめる。


「そういえばジニはゼゼと仲がいいですが、古い付き合いなのですか?」

「ええ、ゼゼとは同じ村の出身です。あいつが兵隊になるっていうんで、心配だから俺もついてきたんです」

 ジニの話に、私はなるほどと頷く。確かにゼゼを一人にするのは不安だ。


「ジニ! あの舟って、どうやって下ろすのかな?」

 器具の正体を聞きに行ったはずのゼゼが、船縁に括りつけられてある小舟を指差す。船が接舷出来ない場合に使用する小舟だ。怠け者号に乗り込む時に、私達も使った。


「それは来る時に乗っただろ」

「あれ? そうだっけ?」

 はしゃぐゼゼに、ジニが呆れ顔を浮かべながら向かっていく。

 船首には私とボレルが残される。ボレルは船縁に腰を預け、海を眺めていた。


「そういえば、ガットはどうしました?」

 私が尋ねると、ガットが船尾の下にある船室を親指で示す。


「ガットでしたら、昨日の無理が祟って寝込んでいます」

「休むように言ったのですがね」

「今はポーラの奴が看病していますよ」

「おやおや、それはそれは」


 ボレルがニヤニヤと笑い、私も同じ笑みを返す。見に行きたいが、邪魔しては悪い。あとで揶揄うぐらいに留めておこう。

 私が鉄の自制心を発揮しているところに、頭上から声が響き渡った。


「船が見えるぞ〜!」

 声に反応して見上げると、帆柱の上の見張り台で船員が右前方に腕を伸ばし指差していた。同じく物見として立っていたアルも、見張り台から身を乗り出して船員と同じ方向を見ている。


 私はボレルと一緒に右前方に目を向ける。しかしどれほど目を凝らしても、私達の目には何も見えなかった。だがしばらくすると、水平線の彼方に船が見えた。船は真っ直ぐこちらに向かって来ている。


「私達と接触するつもりですね」

 これは何かあるかもしれないと、私とボレルは船尾にいるモーリス船長のもとへと向かった。途中でゼゼとジニも合流してついてくる。

 後尾へと続く階段を上り、モーリス船長のもとに駆け寄る。船長は筒状の望遠鏡を伸ばして、接近してくる船を確かめていた。レイもその隣で船に目を凝らしている。


「モーリス船長。あれはメルカ島の船ですか?」

「いえ、あれはヴァール諸島の船です」

 モーリス船長は望遠鏡から目を外した。だがやって来る船からは目を逸らさない。


「ってことは、同業の仲間か?」

 見張り台にいたアルが、帆柱の縄を掴んで私の隣に飛び下りてくる。


「そうとも言えますが、違うとも言えます。確かに同じメビュウム内海に住んでいる者同士です。しかし連中とは縄張りが違うんでさぁ。ヴァール諸島はハメイル王国に近く、ハメイル王国の後ろ盾をいいことに最近は好き放題やってるんです」

 モーリス船長はやって来る船を睨みながら、苦々しく顔を顰める。

 船長は控えめに答えたが、縄張りを無視して好き勝手やるということは、つまり海賊行為を行っているということだ。


「船の船首にいるのは……ボーンのやつか!」

 望遠鏡を再度覗き込んだモーリス船長が呟く。私もやって来る船に目を凝らすと、船首には青い長外套を着込んだ男性が立っているのが見えた。


「モーリス船長。戦闘になりますか?」

 私は肝心なことを問いただした。戦いになるというのであれば、戦闘準備をせねばならない。

 私やアル達は船上での戦闘経験がない。不利な状況で戦うことは避けたいが、敵が来るというのであれば腹を括るしかない。


「いえ、戦闘にはならないと思います。お嬢さん、ここは任せてもらえますか?」

 モーリス船長が私の目を見る。その瞳には力がこもっていた。

「分かりました。船の上では船長の指示に従いましょう」

 私は頷き、アル達に視線を移した。


「聞いてのとおりです。相手が攻撃を仕掛けてこない限り、こちらから仕掛けてはいけません。いいですね」

 厳命する私の言葉に、アル達は揃って顎を引く。



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