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書籍化記念SS『デートのために』

楽しんでいただけると嬉しいです(≧∀≦)





「で、出来た……」

「一分前です」


 研究室の端っこで、銀のフレームメガネをかけて鏡に向かっていると、ブランカが淡々と研究室の使用時間の限界、午後八時五十九分の時刻を告げる。


「待って待って、もうちょこっと調整するだけだから!」

「時間厳守と旦那様に厳命されております。お嬢様は一秒でも許すとズルズルと伸ばすからと……。ちなみに時間を守れなかった場合は一時間使用時間を減らすそうです。三十、二十九、二十八……」


 カウントダウンを始めたブランカにギョッとして慌てて机の上を片付け始める。


「分かった! 分かったからー!」

「二十五、二十四……」


 容赦ないブランカの言葉に急いで完成した『魔道具』を箱に納めて、慌てて研究室を出た。


「五秒前です。ギリギリでしたね。とりあえず明日の公子様とのデートに間に合ったようで安心しました」

「……」


 安心しましたと言うくらいなら、研究室の時間をもう少し融通してくれてもいいのでは?


 と思うけれどあえて口には出さない。

 だってどうせ丸め込まれてしまうのだから。


「デスネ……」


 そう返事を返しながら、諦めのため息をこぼした。


***



「これは?」

「はい、このメガネはかけた人間の存在感を消すメガネなんです。例えば、かけるときに一緒にいた人は公子様と認知しますが、メガネをかけた後に公子様を見た人はそこら辺の通行人程度にしか認知しないんです」


 今日のデートのために、カーティス伯爵家に早朝から迎えにきてくださったラウル様に、応接室で出来立てホヤホヤのメガネを差し出した。

 公子様は笑顔で受け取りながらも、「これをどうして俺に?」と首を傾げた。


「だって、その……お出かけすると、人が集まってきてうんざりだってアリシア様が言っていたので……」

「あぁ、アリシアに渡せばいいのか」

「いえ、そうではなくてこちらはラウル様に! アリシア様には別のものを用意していますから!」


 慌ててアリシア様用のメガネの入った箱を渡すと、ラウル様が首を傾げた。

 

 今日は我がカーティス領の自慢の海鮮料理を食べに行った後、船に乗ってデートする予定なのだ。

 もちろんプランは秘密にしている。


 実は、アリシア様にデートに行くという話をしたら、『絶対に兄様に人が集まるから気をつけたほうがいい。いつも兄と街に出かけると、人に囲まれるから大変なのよね』と本当にうんざりした表情で深ーいため息を付いていらしていた。

 半分がアリシア様の信奉者と考えればそれもとても納得できるが……。

 

 私の持っている『姿を消す腕輪』は完全に人の視界から消えてしまうので、お店に入ることもままならないし、給仕もしてもらえないので使用出来ない。


 王都からカーティス領は離れているものの、賑わっているし決して田舎だとは思わない。けれど、いい意味で気安い人が多いので公子様を混乱させてしまうかもしれない。


 お兄様とたまにお出かけした時も、気さくな街の人たちが声をかけてくれて、兄様はそれをとても楽しそうに会話をしているけれど、私はなんと返していいのかわからずいつも頑張って気配を消している。


 カーティス領を案内するからには私が引っ張らないといけないが、そんな自信はどこにも無い。

 

 けれど、カーティス領を楽しんでいただきたいので二週間かけてこのメガネを仕事の合間に作ったのだ!

 

 気に入って欲しい!

 カーティス領を!

 

 そんな下心の積もったメガネを公子様に再度薦める。

 

「どうぞ、かけてみてください」

「そうだね、ティアがせっかく俺のために作ってくれたんだから」


 言いながらラウル様がメガネをかけた。


 細い銀縁に、ラウル様の瞳の色に合わせた紫水晶の小さな魔精石が瞳と同じように煌めく。


「……っ‼︎」


 メガネ越しに見つめられたその瞳に思わず体が硬直して、息が詰まった。


「ティア?」


 こちらの反応を伺うように軽く首を傾ければ、さらりと銀の髪が揺れ、窓から差し込む陽の光を受けてキラキラと輝いている。

 突然の色気の暴力に、なす術もなく言葉を失ったのは、仕方のないだろう。


 不意打ちもいいところだ。


 いや、確かにラウル様のお顔の形に似合うように作ったけどもね?

 イメージしながら作るのが楽しすぎたけどもね⁉︎


 でも、ここまでの破壊力は想像してないじゃん⁉︎


 

「お嬢様、息してください。はい、吸って〜、吐いて〜……」


 背後からかけられたブランカの声に反応して、深く深呼吸をくり返す。

 いや、呼吸って忘れるもんじゃなくない?


 そう思いながらも、意識して呼吸をしないと呼吸が止まってしまいそうだ。


「と、とてもよくお似合いです。よろしければ、試しにお屋敷の中を歩いてみてください。……その間に私は着替えて参りますので」

「そうだね、ありがとう」


 楽しそうなラウル様の返事に、屋敷の案内をブランカに任せて私は逃げるように部屋を離れた。


 

 ***


「お嬢様失礼致します」

「ブランカ。どうだった?」


 私は姉様と、二人のメイドにラウル様から贈っていただいたドレスに着替えるのを手伝ってもらっていた。

 姉様は私に似合う髪飾りを吟味して、「貴女とこんなことをしたかったのよね」と、とても上機嫌だ。

 可愛らしいブラウスに、柔らかなミモザ色のスカート。軽くて涼しい素材でとても動きやすいし、柔らかな色が暖かくなってきた春の季節にぴったりだった。

 

 髪はシンプルにお団子頭にまとめてくれているが、小さな黄色の花飾りのついたリボンを姉様が『ベストポジション』というところに着けてくれる。

 

 可愛らしいドレスは自分では絶対に選ばないデザインだが、姉様もブランカも私にとても似合うと太鼓判を押してくれたので、勇気を出してこれを着ようと決めていたのだ。

 

 以前、ラウル様にどんなドレスが好きかと聞かれ、何も考えず「動きやすいものが好き」と答えたが、あんな中途半端な答えでこんな素敵なものを贈っていただけるなんて思わなかった。


「屋敷の中では公子様と気づくものもおらず、大変新鮮だと楽しまれておりましたよ。……お嬢様のご準備も終わりそうですね」


 ブランカの言葉と同時に、首元の柔らかなリボンを結んで、メイドが「できました」と満面の笑みを浮かべる。


「どう? ブランカ。へんなトコない? 不自然じゃない?」


 鏡越しの自分に自信がなくブランカにそう尋ねれば、「大丈夫です。とっても可愛いと思います」とOKをもらい、安堵のため息をついた。

  ブランカは、いいもダメも、似合うも似合わないもはっきり言ってくれるから彼女の言葉は信用できる。

  何より姉様が「完璧よ」と頬にキスして私を褒めてくれた。


「では参りましょうか。公子様もメガネをかけてお出かけされるのを楽しみにされてますよ」



 ブランカの言葉に勇気をもえらい、私はラウル様の待つ部屋へと足をすすめた。




 

 ――のに。


「ダメだ! ティア。メガネをかけてくれ」

「それは私が公子様のお顔に合わせて作ったものなので、私がかけると似合いません!」

「君はどんな姿でも可愛いから大丈夫! 俺のがダメならアリシアに作ったメガネをかけてくれ!」

「アリシア様用にお作りしたメガネはフレームが特注で、縁が蝶の細工になっていて飾りの宝石が付いているんです。再注文となると時間がかかるので、私が使う訳にはいきません……」


 グイグイと私の顔に自分のメガネをかけようと迫ってくるラウル様に必死で抵抗する。

 なんとしてでもメガネをかけようとするラウル様と何としてもかけたくないという私の攻防がかれこれ十五分。


 姉様とブランカは私に助け舟も出してくれず楽しそうに傍観していた。

 

「そもそも、なんで私がメガネをかけないといけないんですか? 一番不要ですよね!」

「いや、君が一番必要だ。なんで俺はこんなドレスを贈ってしまったんだ。このドレス見た瞬間ティアのために作られたものだと衝動買いしてしまったのがまずかったのか……」

「ちょっと何言ってるのか分かりませんけど、私にこのドレスが似合わないってコトですか⁉︎ 人に見せられないってコトですか⁉︎」


 存在感を消さなければいけないほどドレスが似合っていないのかと、ラウル様の言葉にショックを受けながらそう尋ねれば、ラウル様の顔が引き攣る。


「何を言っているんだ。似合いすぎているから問題なんだろう? 可愛らしいたんぽぽの妖精、いや、ミモザの妖精か? 何にしてももう花の妖精にしか見えないじゃないか! 虫が寄ってくる! しかも害虫が!」


 もはや何を言っているのか理解不能の言葉に、頭を捻るも、ラウル様の目が本気すぎて怖い。

 瞳孔が開いて、圧がすごい。


「でも、ラウル様がこれをかけてくれないと……。今日は若い人たちがたくさん集まる繁華街の一番人気のお店に行くんです。個室もないお店なので、公子様の美しさに人が集まるのも、気を失う女性が続出するのも困るので……」

「若い人が集まる繁華街⁉︎ 個室も無い⁉︎ 尚更君を連れていけないじゃないか! てっきり君のおすすめというから、人気のないところでゆっくり過ごすものだと……」


 顔色をなくした公子様を、ブランカが白い目で見ている。


「人気のないところで何をするつもりだったんですか、貴方は……」

「やあね、ブランカ。野暮なこと言わないの」


 姉とブランカのやり取りなどラウル様との攻防戦でもはや耳に入ってこない。

 それよりも、早く店に行かないと混雑してしまう。


 開店直後は空いているので、ブランカと行く時はいつもその時間帯を狙って奥の一番目立たない席を取りに行くのだ。

 三十分もすれば混み始めて行列が出来てしまう。公子様を並ばす訳にも行かなし、でもとっても美味しいのでぜひ味わってほしいし……と、頭の中がぐるぐるとし始めた。


「分かった。では、その店はまた今度行こう。今日はランダーネの丘と、アルグ湾に素材採取に行かないか?」

「へ?」


 間抜けな声で思わず硬直すると、公子様が満面の笑みを浮かべて、胸ポケットから『カーティス領観光案内完全版』と書かれた小さな冊子を取り出す。


「何ですか? それ」

「きっと君と回るだろう場所を事前予習しておこうと読破しておいたんだ。知っておけば君との会話が弾むだろう? カーティス領の固有種も完璧に把握しているよ」

「いや、でも素材採取なんて、私が楽しいだけで、今日は公子様を楽しませたいのですが……」


 

 そう反論すれば、ふっと笑ったかと思うと、公子様は瞳をとろけさせて、メガネを阻止していた私の手の甲にキスを落とす。

 先ほどまでの圧が突然緩んだ空気に虚をつかれ、大きく心臓が跳ねた。

 その視線が、瞳の熱が、またしても私の思考を奪っていく。

 

「可笑しなことを。君が楽しければ俺も楽しいに決まっているだろう? そうすれば君にメガネをかけてくれと言わずに、僕が君からのプレゼントを心置きなく使うことが出来る」

「いや、……ランダーネの丘もアルグ湾も比較的人が少ないので……となれば、メガネは必要無いかと……」

「何を言っているんだ。君が俺に似合うと思って作ってくれたものを着けることに意味があるんだよ」

  


 そう言いながら、銀のメガネをかけたラウル様の艶やかな笑みに私はあっけなく屈した。


 このままでは私が彼の素敵メガネスタイルに悶え死んでしまうだろうと、改良を……いや、デザイン改悪することを心に誓ったのは、言うまでもない。



 

 

 


 




でも、きっとラウルはどんなデザインでも似合ってしまうのではと思うので、デザイン改悪も無駄な足掻きのような……と思うのですけれど 笑。


これは、もはや『メガネをかけたラウル』を妄想してしまった結果のSSです。


お楽しみいただければ幸いです!

私は書いててとても楽しかったです〜☆



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