盗まれた試作品 ー3ー
「さて、ダレス君とやら、何か言いたいことはあるかね」
陛下が三回ほど試乗した後、俯いて黙ったままのダレスに言った。
サダ伯爵も、顔色が悪いまま、少し離れたところでその様子を見ている。
「……」
「そう言えば、パレンティア嬢に『迫られた』と言っていた教師だが、君からお金をもらってそう言うように指示されたと言っていたよ。そして彼女を退学に追い込んで、盗作の噂のある『平民』には働き口がないと脅し、ダレス家で彼女の才能を独占しようと目論んだこともな。……この件に関しても、ゆっくり話を聞かせてもらおうか」
ラウル様が彼を冷ややかに見下ろしながら言うと、ダレスは忌々しそうにこちらを睨みつけた。
「……っ。何故平民のフリをしていたんだ」
「え?」
「お前がカーティス家の人間だと知っていたらこんなことに手を出したりしなかったさ! お前が隙を見せていたんだ! 嵌めたんだろう! 僕はサダ家の息子だ! 結果を残さないといけないんだ! 仕方なかったんだよ!」
大きな声で叫ぶダレスの声はホールに響き渡る。
「お前は自分の事ばかりだな! 平民であろうが貴族であろうがお前はやってはいけないことをしたんだ。自分の愚かさを彼女のせいにするな」
ラウル様は堪えるように拳を握りしめ、ダレスを睨みつけた。
「うるさい! 良いじゃないか! すでにティアは入学してからたくさんの魔道具を作ってた! 一つや二つ、僕にくれたって良いだろう! 良いよな才能あるやつは、次から次へと簡単に……」
「ふざけるな! 彼女が才能だけでそれを作ったと思うのか? 彼女の積み上げてきた知識と経験が簡単に手にしたものだと思うのか? お前が奪ったのは彼女の魔道具だけじゃない。彼女の努力も、それに込めた想いも時間も全て踏み躙ったんだ」
「公子様……」
どの魔道具も『簡単』に作ったりなんてしていない。
素材も魔石も一つだって無駄に出来ないし、一つ一つ時間と労力をかけているつもりだ。
『簡単』だなんて言葉で片付けて欲しくない。
「ダレス様……。私が平民のフリをしていたのは、『カーティス家』の名前に人が寄ってきて欲しくなかったからです」
「は?」
「サダ家の貴方の周りには……いつも人がいたでしょう? 貴方自身も家の力を分かっていたはずだわ。『サダ家の魔道具事業に就職させてやる』って退学するまで何度も言っていたし、実際手紙も何度も送ってきたじゃない」
「だから何だ……?」
「私には、カーティス家の雇用の権限もないし、自分が学べる時間や研究の時間がそんなことに割かれるのは嫌だった。……そもそも目立ちたくなかったし、……カーティス家の娘として優遇されるのも嫌だった。実際教師ですらサダ家の貴方に気を遣っていたでしょう?」
「何だと? 僕が贔屓されていたって言いたいのか?」
不愉快だと言わんばかりの彼の言葉にこちらが驚く。
まさか本気で『優遇』されていなかったとでも思っているのだろうか?
「え? だって、あんなレポートで……『S』をもらっていたじゃない」
彼が気づいていないとは思わずポロリとこぼれた。
「な……なん……」
「貴方が相談してきたレポートを見てびっくりして……。基礎中の基礎のものしか書かれていないのに、『“A”しかもらえなくて“S“にするにはどうしたら良いか』って相談してきたでしょう? これで“A”をもらうって、最初何の冗談なのかなって思ったぐらいよ……」
「ババ、バカにするのも……」
彼は真っ赤になって震えて睨みつけているが、なぜか不思議と怖くなかった。
「あの、『通信機』も、『飛行車』も、私が作った四年前と構造がほとんど変わらなかった。先生方がきっと『このままでも十分だ』とでも言ったんじゃない?」
「通信機も君が作っていたのか……」
公子様の言葉にダレスが目を見開いて硬直し、何も言わないことこそが肯定を示している。
通信機は構造が甘いし、飛行車は対空時間が短い。
そんなものを十分だと普通は評価したりしない。
「だから、変な贔屓をされてるのって嫌だなって思ったの。学びたいのに、成長できなくなってしまう。実際兄様がアカデミーに通っていた時、それで大変だったって言っていたし」
「……っ。くそっ!」
ダレスは怒ったように白衣の胸元のバッヂを引きちぎって地面に叩きつけた。
カン……と、甲高い音を立てて跳ねたそれが私の足元に転がってくる。
懐かしい学章が描かれたバッヂを拾って手に取り、じっと見つめる。
私のバッヂはもう四年前から机の奥底に仕舞い込んだままだ。
「……アカデミーのことは嫌なことばかりで、思い出したくもないし、貴方を許せないけれど……でも、貴方と魔道具の話をする時、……とても楽しかったわ……」
そう言って、驚いて目を見開いたダレスの手の中に戻す。
「それは、……本当よ」




